4座
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四番目の星座:シェーツは美神であった。
地上の美しい娘に恋をしたシェーツは、娘の前に降り立ち求婚したもちろん娘は是とし二人は結ばれた。四番目の星座:シェーツにとある星がこう尋ねた、なぜあなたのように美しい神があのような娘と結ばれたかと、四番目の星座:シェーツはこう答えた。
あの娘がいればなお自分の美が際立つだろう。
あれほどに美しい娘の横にあってまだ輝く私に皆がひれ伏すだろう。
と答えた。それを聞いた娘は流星に願いをかけて夫を殺してしまったという。
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「ここが?」
思わず手を口にあてた男は部屋に入って早々に信じられないものでも見たといった顔をした
「どうしたの?もっと贅を凝らした所だとでも思ってた?」
「自慢げに話すんじゃないマナ…」
こんなカビ臭くたって狭くたってわたしの楽園で間違いないんだもの、それをあんな顔されたら誰だって面白くないでしょう。テーブルに調理場、そこに本棚、壊れかけたイスが一席のみの狭い部屋には窓はないので空気の入れ替えなども出来ない
「こっちよ」
短い廊下を進み左側の扉前に立つ、ここを開けるのはまさに二年ぶりとなるのですこし緊張してしまう、まったく手入れしていない扉は億劫そうに鈍い音をならす
「なんだ……ここは…?」
「ザードが過ごした部屋…」
つかつかと部屋の中心に進み出た男はぐるりと見わたすと、わたしを睨む
「なにもないじゃないか!」
「ザードは自分が死んだら何も残すなと言った、何もかも燃やしてほしいって───」
「……はっ!やはり虚言だったか!あの男はどこにいる!?」
剣を握りしめたままわたしの胸倉を掴む、わたしはこの血走った目がどうしても憎しみだけで光っているようには見えない。日本で突然消えた娘を家族は今も探してくれているのだろうか…この人のように憎んでいるのだろうか?
「どこにもいない、ザードは何も残さず逝ったかと思ってたけど──違っていたんだ…今ならわかる、あなたに忘れてほしかったんだと思う…自分への考証などせずに生きていってほしいと望んだんだ」
わたしには何も残さずに逝ってしまったんだねザード。本名すら明かすことなく…裏切ったあなたしか知らないわたしには何も恥じ入る必要だってなかったのに。そっかわたしはやっぱり魔王でしかないんだ、魔王にさせないために助け育てた、魔力の使い方さえ知らない戦う方法を教えなかったのは、それでわたしが人を傷つけないようにするため
人の…ひいては息子のために…なんだあ結局…そういうことだったんだ
「それは…もうあなたにあげる。もとよりザードからは何も残すなと言われていたのに…どうしてもそのハンカチを燃やせなかった──毎日ザードはそれを見つめてたから」
「───!」
何が彼を怯ませたのかわからないけど頸への圧迫が遠ざかったのでわたしもゆっくりと後退する。もうここに居ることはできない…逃げ切ってそしてまたひっそりと生きられる場所を探しまわるしかない
「………申し訳ないけど、あなたは暫くここにいてもらう!」
勢いよく閉じた扉に閂をすると、向こう側で暴れているらしい男をおいて調理台がある部屋まで走る、数冊の本をカバンに詰め込むとドアノブに“力”を込める
「もーー!毎回遅いんだから!!」
しゅるしゅると茨が扉を覆っていくのをやきもきした気持ちで見ていると、廊下の奥で爆発音のようなものが聞こえる、もんもんと白煙の中にゆらりと動くものがある
「急げ!マナ!」
カバンの上に乗っかっりながら急かす猫が恨めしい!こんなときこそ人型に戻って助けてくれたっていいじゃない!
「いっとくが俺は肉弾戦は得意じゃないんだ──来るぞ!早くしろ!」
「わかってる!」
ぼんやりと光出したドアノブを夢中で捻り、外を飛び出したか…?また爆発音が響いてわたしは夢中で耳を覆った、細くて高い音が頭を破りわたしは意識を失った。