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8座-5


誰か呼んだだろうか

自分は何だろう

ただ

何かを圧迫されているような気がする

??

何もかもが曖昧だ

そもそも

何故こうしているのか

何故誰かが呼んでいると思ったのだろうか

何故


『何故何故とうるさいやつだな。お前には物を考える脳がないのかそれとも人間にはそういった思考をもつものが産まれぬのか』


ああそうだったか

人間だったか

胸が重たい

これは何だろうか

赤い円形

これは


テンプ?


『そう、自慢じゃないけど一級品だよ』


何故だ美しい赤が黒く染まっていく

やめてくれ

これは大切なものなのだ


ああよかった

赤だ

美しい赤にもどってくれた



「……ここは……」

焦点がおさまりきらないのか、虚ろに視線を這わす

「目が覚めた?身体はつらくない?」

「……いや それよりこれは」

包帯が巻かれた腕に怪訝そうにしている

「怪我をしたんだよ 思い出さない?」

わたしは何度目になるかわからない、同じ質問をクルトに投げる

「怪我──」

塔でクルトに“力”を移したまではまだよかった、わたし達は脱出し移送方陣がある家まで突破しなくてはならなかった

当然、半壊した塔には大勢の騎士や兵士が集結していて、わたし達は突破するために人質を取りなんとかここまで逃げてきた。人質は“金の聖女”ヴァイスに扮したフリュだったんだけど……あれから10日あまりきっと本物の“金の聖女”が死んでいたと気付いただろうな

クルトは“器”になったことで命は助かったけど、すっかり自分を見失っているみたい

焼け焦げた身体もわずかにしか回復していないため、身体中を包帯で巻いている状態だ

しかも、昨日……だけでなくつい先刻の事でさえ記憶していられなくなってしまってる

「クルト、何か食べる?──それか喉は乾いてない?」

「クルト?」

「そうあなたの名前だよ、わたしはマナ、あなたはクルト」

交互に指を指示すと、ひとつだけ頷く

水差しからカップに水を注ぐと、クルトの口に運ぶ。手はぐるりと包帯が巻かれているため指先などはまったく使えないものの、カップに手を添え一気に飲み干す

ルーナが言うには強制的に“器”にしてしまったため、この先クルトがどうなってしまうかは未知数らしい──本来“力”はわたしたち“悪魔”を拒む、クルトが“力”に馴染んでしまえばもう一緒にはいられない

それに……記憶が戻ればきっとわたしを恨むはず──包帯だらけの身体にした事、たくさんの人間を殺した事を

こうして毎日びくびくしながら看病しつつもクルトの記憶が戻っていない事に安堵してしまってるなんて わたしは卑怯者だ──

「……マナ」

「!……なに?どうかしたクルト」

「マナ いい名だ──」

そのまま深い寝息をたてはじめたクルトに毛布をかけなおすとそっと部屋を出た

「どうだマナあいつの様子は」

窓辺に座っていたルーナに近寄ると目を細める

「変わらないかな、水は飲むけど食事はまだ──ねえもう10日も食べてない。クルトは大丈夫なの?」

「さてな、どうなるかは予測不可能だといっただろう」

「そうだけど……」

「それよりもだ、そろそろ食料がつきそうだ飢え死にしたくなかったらテンプでも作ったほうがいいのではないか」

今はそれどころじゃないでしょうって言いたくなるのを飲み込む、確かにルーナの言うとおりだ、“魔力”をわずかに使えるようになったためここ中宇でもテンプは作れるはず

クルトを看ていてあげたいけど、そればかりに心を砕いてはいられない現実にも対処しないと

「わかった、クルトをお願いね」

ふわりと尻尾を振ったルーナを「わかった」 という解釈をしてさっそく準備に取り掛かる

銀の盆に型、それにテンプを入れるための袋をかかえると所定の場所へ向かった

窓辺からそれを確認したルーナはすぐさまクルトが眠る部屋へ身を滑らせた

「……」

健やかな寝息を聞いている限りでは特に異常は感じられないものの、通常の人間であれば10日も食べずに、しかも身体に異変もきたさずにいることには違和感しかない

“器”になったとしても身体は人間のまま、老いもすれば死にもする──今目に前にいる男は明らかにそれとは違う物になりはてている

「確かに……命を救う手立てとして“器”にしてみたが……」

さてどうするべきか、いっそ今殺してしまえれば煩わしさもなくなるものを

思い切り舌打ちすると、椅子の上で身を丸める



ああ、憎い。憎くて憎くて仕方がない。

無理やりわたくしを手中にしておきながら

身ごもった途端にわたくしを疑い、腹を裂いたあの男が憎い。

もう二度とわたくしは命を宿す事ができない

憎い。憎い。殺してやりたい──この世の男ども全てを。

わたくしの下で喘ぐしか脳のない愚かな者どもめ。乞い死ね。


『誰だそこにいるのは』


ああ

ああクルト、お前はあの男によく似ている。

お前と契りをかわそうぞ。

さればまたわたくしは命を授かることが出来る。


『お前を知らない』


わたくしがほしいでしょう?

お前の思い通りにしてやろう


『いらない』


ほしいに決まっている。

ほら

すでにわたくしの“力”をその手中に収めているではないか


憎め。憎め。

男も女も  


神の命も!!


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