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8座-3



*******


「あ、ねえパレードが始まったみたい!すごい……きれい!」

薄暗くなった街には熱気が溢れ、街灯が朗々と映し出す騎士団のパレードは幻想的な雰囲気を醸し出している

白銀の騎士達はみな一様に整った顔立ちをしており、規則正しいリズムで剣の構えを変えながら進むとそのたびに歓声が上がる。

「あれはなに??」

「聖女が乗る花台ですよ、ほらあそこに立っているのが“金の聖女”ですよ~まあなんと慎ましい聖女様なんでしょうねえ~」

それってあきらかに揶揄してるよね?花台とよばれる物にはたくさんの花が飾られ白い柱からは銀箔のリボンがこれでもかとなびいている。遠目に見える聖女は豊かな金の髪を揺らしながら観衆に手を振っている

「あれが、聖女……」

散々命を狙われてきたけど、こうして見るのは初めて。ああやって祝福を送られるのを目の当たりにするといかにわたしと対極にいるのかが浮き彫りになったみたい

「マナ裏から回るぞ。ついてこい」

「うん」

急いで丘を下り、暗い路地を走るとやがて高い塀に突き当たってしまう、塀の上からルーナが合図を送る

「失礼しますよ、マナ」

言うなり荷物を抱えるようにして塀を軽々と飛び越える、目を開けた時にはしっかりと立たされフリュが乱れたスカートを直してくれている

「──こう広くては時間がかかるな、案内役が必要だなフリュちょうどいいあそこの捕まえてこい」

「すぐに、ここでお待ちくださいね」

低い体勢で走り出したフリュはあっという間に兵士の背後に迫ると、腕を掴みあげる。

悲鳴をあげそうになった兵士の口を塞ぐと、奇妙な音が聞こえる。ずるずるとそのままこちらに連れてくると

「姦しくするともう片方も使えなくしますからね~さあ教えてください。ここ最近、傭兵の男がここへ捕らわれてきたはずです。どこにいますか?」

「……っ」

何も言うつもりがないのか、それとも知らないのか。だんまりを決め込む兵士を地面に倒すとその背に片膝をついたフリュが重心をのせる。くぐもった声を出す兵士に

「ねえ、何か言ってくれないとこの人何するかわかんないよ?」

「……あなたのような貴婦人がなぜっ?」

「あーそのわたしの大切な人を探してるのよ、そう!」

胡乱な眼差しを向ける足元の猫は放っておいて、とにかく勘違いしてくれた兵士に精一杯お願いしてみる

「どうしても一目会いたくて!変わった目の色をしてるんだけど薄い紫色で」

「……貴族様のご事情ってやつか───傭兵といえば……五日ほど前にそんな男が連れてこられた事がある……確か今は東の塔に」

「なるほど、では案内してください」

無理やり立ち上がらせると兵士が呻く。

「そこへ案内したら解放してくれるんだろうな?」

「もちろん、解放すると約束しましょう~さあ時間稼ぎはいりませんよパレードが終わってしまえばたくさんお仲間が戻ってきてしまうでしょうしね」

確かに、パレードは確か一時間ほどで街を一周して戻ってきてしまうはず、時間は少ない!

兵士がうろつく合間を縫って進む、それなりに入り組んだ神殿は迷路のように感じる

柱も天井も窓も大きすぎる、それとも神殿ってどこもこんな感じなのかな……

「ここだ、この塔の最上階にいるはずだ……今日のパレードに連れていくはずが無理になったとかで──!!」

「ルーナ!」

「道案内はもういらん、そこらへんに放っておけ。さっさといくぞ!」

兵士の首めがけて飛びついたルーナは昏倒させた兵士をフリュに運ばせると、一気に塔を警備しているらしき兵士達に飛びかかっていく、フリュはそれらをぽいぽいと一室に投げ込むと扉を閉めてドアノブを力任せに曲げてしまう

「当分出て来れないでしょう~さあいまのうちに……楽しくなってきましたね~!」

「楽しんでいる場合か行くぞ!」

螺旋階段を進むけど、いつまで続くのこれ!所々に広間があるけど最上階はまだ先みたい

おまけに薄暗いせいで足元がおぼつかない、一歩でも踏み外したら転げ落ちていきそう!

クロノクロスはすでに八番目を指示してる、もうパレードが始まって二時間──いつ見つかってもおかしくない時間だ。

「二人とも……先に行って!すぐに追いつくから──ってわっ!」

「外が騒がしくなってきました、最上階はもうすぐです」

またもや荷物のように抱えられてしまう、階段が途切れるのと同時に現れた扉を勢いよく開いたフリュはわたしをおろすと、すぐさま窓から下を覗く。

「急いだ方がよさそうですね」

まっすぐに伸びる通路の左右にはいくつかの部屋があるらしく人部屋ごとに確認していくしかないみたい、中から何か飛び出してくるかもしれない恐怖と闘いながら開けていくも結局何もなくただの空き部屋のようになっている。


「ここが最後の部屋だ……でも何もない。やっぱりあの兵士嘘をついたのかな」

部屋をぐるりとしたルーナは

「いやまて……まだ上がありそうだ。この部屋他のと比べてわずかにだが天井が低い、何か仕掛けがないか探せ」

「仕掛け!」

本棚に物書きようの机、ソファに花瓶、肖像画、天使像……三人で手分けしてもそれらしきものは見つからない

「どうしよう!何も見つからない──いっそ天井に穴を開けるとかどうかな!」

「もし上に塵屑野郎がいたらどうする一緒に木端微塵か悪くない」

「フリュ!やっぱり探して!」

「うーん。やっぱりこれ違和感がありますね~」

フリュは肖像画の前で首を傾げる

「この部屋の家具や壁紙は全てが淡い色で統一されているでしょう?なのにこの肖像画はほとんど色彩がない、一般的には華やかな部屋にはそれに見合った物を置くはずです

それにこの人物の目──」

肖像画の目に指を押し付けると、カチリという音とともにひっこんでしまう、一瞬穴でも開けてしまったのかと思ったけど、そういう仕掛けだったらしい。かたかたと天井の一部が下がり階段が現れる

「すごいフリュ!」

「誰にでも取り柄があるものだ」

先行したルーナの後に続く、上はもっと暗いと思っていたけど、月光のおかげか明るい──真っ白な部屋の中央に見慣れた姿をみつける

「クルト!」

「クルト、あの大丈夫?捕まったって聞いたからわたし──」

駆け寄り問いかけてもクルトは俯いたままぴくりともしない、まさか死んでる?恐る恐るひじ掛けの手に触れると温かさを感じる

「クルト?どうしたの?」

「様子がおかしい──」

屈んだわたしに近寄ったルーナはクルトを覗きこむ



「おやまあ、わたくしの神殿に忍び込む“悪魔”がいるとは見上げた者ですね」

「!!」

いつの間にか入り口に立っていた人物に驚く、金色の髪に褐色の肌……白い装束をまとったその女性はパレードの花台に立っていた“金の聖女”だったから──

「それで、わたくしの物に何か御用でもあったのか──それともわたくしを殺しに?」

聖女の後ろに控えていた騎士等が一斉に剣を抜く

「そのような事はさせません!おれが冥府へ送ってやる!」

「まちなさいリオン、そこのお嬢さん見た感じではあなたは人間のようですね、なぜ“悪魔”とともにいるのです?」

きらきらと輝く瞳がわたしを捕らえると、ルーナが毛を逆立てるもフリュは威風堂々とわたしの横に立っている

「……クルトはわたしの、知り合いで捕まったと聞いて……」

ルーナもフリュも“悪魔”だと見抜かれているなら、今更嘘をつくのは意味がない。でも時間稼ぎは必要、フリュとルーナならここから逃げられる?

「そうでしたか。安心してかまいませんよ、クルトはここでわたくしの護衛騎士として過ごしますから──でも、お嬢さんあなたとそこの“悪魔”は死なねばいけません」

「なっ……!」

「だって“悪魔”に魅入られてしまった人間など生きていても害にしかなりません。苦しめずに殺して差し上げましょうね、リオン殺しなさい」

躊躇など微塵もさせずに命令すると、リオンと呼ばれた騎士が突進してくる。まず立っていたフリュに狙いを定めたらしい、剣が胸を射抜く刹那後ろへ飛びのく。だけどまだ剣の勢いは生きたまま!わたしへと横薙ぎされる

両手を盾にして衝撃にそなえるけど、痛みは襲ってこない──恐る恐る目を開くと

さらりと黒髪が手の隙間から見える。

「ルーナ!!」

「……まったく最高な一日になりそうだな」

ルーナが手にしていたものを床に放り投げる──剣だパーディナルの……でもその剣を握ったままの腕まで一緒に

「うああああああああああ」

ちぎられた右腕を押さえてリオンは蹲る。やがて転がった腕は聖女の足元に血だまりを作るも

「その黒髪……黒目!“魔王”!!」

「ヴァイス様おさがりください!!」

魅入られたかのように前のめりになった聖女を騎士等が必死で引き留める

「お前達!千載一遇とはこの事──“魔王”を打ち払え!!」

動揺をかくせないままにそれでも一人、また一人と剣を抜く

「マナそこから動くなよ」

「う、うん……」

こんな状況になってもクルトは微動だにしない一体何がおきたの!?

「クルト!起きてよ!」

無理やり顔を掴んで呼んでみても反応しない、もうこのまま連れ去るしかないかも。でもこの状況一体どうやって……?

「覚悟しろ!!」

一斉に飛び掛かってくる騎士等にフリュが立ちふさがる、ぎりぎりで剣をかわすそれすら楽しんでいる

「ぼくほどの“悪魔”を騎士ごときで相手になると思っているってところが愉快ですねえ」

ただやっぱりパーディナルの剣に触れることはしてない──

蹴り飛ばされて意識を失った騎士や足をつぶされて呻く騎士、聖女とともに現れた騎士はすでに倒れているけど、騒ぎを聞きつけた騎士や兵士等がいくらでもなだれ込んでくる

きりがない!

「やはり“力”をもつわたくしでないと相手にならないようですね──」


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