8座-2
ルーナはぴりぴりしているのかしきりに髭をせわしなくさせている。
一時間ほどでフリュが戻ると、わたしに大きな紙袋を手渡す
「ここでおまちしていますので」
隣の部屋に入り紙袋をあけて驚いた、うーん……そもそも着方がわからない。たくさんルリルがあるワンピースにさらに白いスカート……これは?下着?それにああこっちはワンピースとセットになってる?
「マナ入るぞ──やはりか。あのなこれは一番最初に身につけるものだ、それと次はこっちでその上からこれで……いやそれは捨てておけ。」
つまみあげた薄い布地が輪になっているものをつまみあげてみる。これは捨てていい物、うーんよくわからない──
「ねえ?この鎧みたいなのは何?どうやっても着れる気がしないんだけど」
「紐がある方を前にして着るんだ最初は緩めておいて足から通せ……向こうで待ってる」
さすが女慣れしてるね という皮肉はしまっておく。
「よしっと……それにしても結構な重装備。こっちの人も大変なんだな~」
ローヴと着ていた服をたたむと紙袋にしまう、部屋の隅に隠しておこう……帰る時に必要だ
「おまたせ!洋服は着れたからあとは髪と目をお願いフリュ」
「わあ~素敵ですよマナ!そうですね~……栗色の髪色にしましょう!」
フリュがわたしの頭にベールをかぶせるように手をかざすと、黒髪があっというまに栗色に変わる
「瞳の色はブルーがいいでしょうか?それともグリーン?フェルミはどちらがいいと思いますか?」
「どちらでもいいから早くしろ」
「ではブルーでいきましょう!そして髪もこうして……花を飾れば……完璧ですよマナ!」
目をさらりとなぞったかと思えば、手際良く髪を結んでいく──フリュもだいぶ慣れてる
わたしの周りには純情な男っていないのかな?
「完璧?ふ~ん、鏡がないからよくわからないけれど“魔王”に見えないならいいよ!早く行こう!」
再び二人と一匹で大通りに戻ると、先ほどとは打って変わってすぐに辻馬車が停車してくれた、御者がやたら愛想よく話しかけてくるも、わたしは殆どの会話が初耳な事ばかりでひたすら相槌をうってごまかす事に徹底した
御者が話すには 今日は“金の聖女”の生誕祭らしい、一昼夜お祝いで町全体が賑わうらしく暑さが和らぐ夕方にはパレードもあるらしい
「ということはきっとそのとき神殿の警備も手薄になるよね?」
膝に乗せたルーナにひっそりと話す
「それにしてもここらへんでは見かけないお嬢様ですな、ご出身はどこで?」
「えっとわたしは」
「ええ、ええ類まれなるご容貌でしょう!この方はグレウォール侯爵の末娘様でいらっしゃいますよ」
「!?」
思わず隣のフリュに目を見張る、何侯爵??末娘って??こちらの視線に気がついたのかにっこり笑ったフリュは満足そうにしている
「そりゃあ──グレウォール家の……申し訳ありません知らずとはいえおれとした事がべらべらとしゃべりすぎちまったようで」
「い、いえ!楽しく話せて嬉しかったです……」
「そうですかい?今日はお忍びか何かで?ああひょっとして“金の聖女”様のパレード目的でしょう!」
ここらへんも合わせておくべきだよね?もう全然頭が追いつかないけど
「実はそうなんです……」
御者のおじさんは うんうんと頷いて やっぱり侯爵家のお姫様も女の子なんだなあ と呟くと
「今年のパレードはいい騎士ばかりが揃っているそうですぞ、最近美しい騎士等が卒中、神殿に出入りしてますからな~ほら町の娘達も今か今かとパレードを待ちわびているでしょう?そうだ!とっておきの場所で停まりますよ!」
すっかりその気になったおじさんは馬に鞭をいれると通りを急ぐ、脇道に停留すると
「この先にすこし丘になったところがあるんですが、そこが一番見通せる場所です。周囲は住宅街になってるんであんまり人も来ないしいい場所ですよ」
「そう、ご親切にありがとう」
「ここなら神殿も近いですしいいでしょう、降りましょう」
御者に十分なお金を払うとフリュはわたしの手を引いてくれる、重装備なのですごく助かる。腕に抱かれたルーナはすごく不機嫌そうにしているけど……辻馬車がその姿を消すとルーナはすぐさま腕を離れる、建物に上がると何かを探すように目を細めている
「確かにここは見晴らしが良そう、何か見える?」
「神殿の内部まではわからんが確かにここは神殿のすぐ横にあるらしいな。門番に兵士……騎士、かなりの警備数だなこれがパレードでどれほど減るかが鍵だな」
クロノクロスを見ながら
「パレードはいつからだっけ?」
「五番目の星座が射すあたりですね~」
「じゃあ、あとすこしだ」
クルトの無事を確かめたい……もし騎士に戻っていたとしてもわたしは平気。クルトはクルト──乙女で礼儀正しくて真面目な人
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「強情にしていたがやっと、わたくしのものになったな」
円筒状の部屋には天井に張られたステンドグラスから色鮮やかな光が差し込んでおり、さらに部屋を囲むように重厚なカーテンが垂れ下がっている。
中央の一席には白銀の騎士装備をまとった男が無言で座っている
「ヴァイス様、そろそろお時間です」
「ああ、もうそんな時間?──さあクルトわたくしの護衛騎士として一緒に来なさい」
白装束を着た“金の聖女”ヴァイスはクルトの頬をなでる
「………」
「……まだ逆らうか──まあいい今夜お前はわたくしのもの。ここでまっておいで」
人の気配が消えた……
私はどこまで耐えれるか……
ここは───どこだ