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7座-5


「本当に行くの?外からじゃここには入れないよ──?ルーナはクルトが出て行ったらすぐさま移送方陣を変えるって言ってるし……」

何も持たずに玄関に立ったクルトは

「ああ、かまわない。是非そうしてくれ──ああそうだ……これをマナに返さなくては」

そういって取りだした物を差し出す、手の中には布切れがあった

「これってザードの……」

「返す機会がないまま私が持っていてしまった、すまない。」

「ううん、これはクルトが持ってて、きっとザードもその方が喜ぶよ!」

「そうだろうか──」

強く頷いくと、少し考えてから胸の中に収める。あ、そうだ……

「クルト!これ持って行って。少しだけど換金できるはずだから何かの足しにして」

強引にクルトに握らせる

「これは──テンプ?」

「そう、自慢じゃないけど一級品だよ」

「──ありがとう、大切に使わせてもらう」

あ、断られるかと思ったけど素直に受け取ってくれた!色々言っておきたい事はたくさんあるけど言葉にするのは難しいな……気をつけて?それとも元気でね?

「マナ」

「ん?」

「私は今後“悪魔”とは戦わないと誓おう、“魔王”の眷属を私は傷つけない」

「う、うん?ありがとう?──!」

これまで見たこともないくらい、眩しく笑ったクルトは短く別れの挨拶をすますと、躊躇なく外の世界へ去ってしまった。中宇とは違う日の光の中にクルトは溶けて行ってしまった。

別れ際にあんな顔見せるなんて……ルーナに負けないくらい女落としが上手いかも。きっとクルトをわたしは忘れない、だってあれほど強烈な出会いはきっと無いはず。わたしを殺そうとした聖女の騎士 蜂蜜色の髪が覆う目元は涼やかで月色に紫を溶かした瞳は神秘的でいて、均衡のとれた顔はきれいだった。

わたしの周りって怖いくらい綺麗な男ばっかりで嫌になっちゃうな、目の保養にはなるけど絶対隣に並びたくないっていうか……遠くで見てる方がいいよ。


クルトが去ってから二カ月。家の中はすごく静かになった、ルーナは 良い事だ とかいって笑ってるけど、わたしが作るご飯といったらもう……自分の料理がここまで狂っているとは思ってなかった!とにかく見た目が美しくない

「味もな。」

わかってる!ルーナの馬鹿……そう今、必要なのは料理本! 第一ここの世界の料理とかしらないし。いや日本の料理も良く覚えてないけど──とりあえず今日の昼はパンとスープにしよう……

並べられた食事を見て溜息をついたルーナは黙々と食べるとさっさと温室へ戻って行ってしまった。

「食べて食べられないってわけじゃないならいっか!よしこれを食べたら“魔力”の練習行こう」

ほんの少し重たい足を引きずって表に出るとすっかり定位置になった石に座る。辺り一面湿地が広がり転々と咲く花を柔らかな風が揺らす。オーロラ色の光が満ち天には極彩色の鳥……意識を集中させてこの身体のどこかに眠るはずの“魔力”を探す──

『“魔王”の“魔力”は可能性の塊だ、想像し思い描けばいい。』

わたしが想像できるのは、本で読んだような物──例えば、炎が燃えるとか宙に浮けるようになるとか……

さわさわと風が髪をさらうだけで何も起きない。

「簡単にできるわけないよね……何かとっかかりでもあればなあ」

足元の水面を蹴る、水滴がきらきらと反射して──やたらチカチカとして、ん??

「おーめでとうございまーす!初“魔力”ですねえ!」

「フリュ!!」

またもや神出鬼没に目の前に現れた“悪魔”はぱちぱちと手を叩いて喜んでいる

「ちょっとまって、“魔力”ってさっきチカチカしてたやつがそうなの??」

「はい、確かに“魔力”を感じました!まあ実際マナが“魔力”を使えなくとも“魔王”は“魔王”ですので何の問題もないのですけど。ぼくはマナに従属いたすと誓いましたから」

「いつそんなの誓ったの、わたし全然身に覚えないんだけど」

もう一度気合いを入れて水面を蹴る──やっぱりだけどこれチカチカするだけだ。これなら線香花火の方がまだましってなくらいの、まったく役に立たなさそう!敵の前でこれやっても まあきれい、さあ殺るか くらいの威力しかないよ

「ぼくがぼくに誓いました、それで十分です!」

「はあ……こんな弱い“魔王”でお気に召すなら……」

「ああそんなこと!命をかけてお守りすることこそが“悪魔”の使命、弱ければ弱いほどぼくは嬉しい、いっそ無力であったならどんなにいいか!ぼくがいなければ生きられない“魔王”なんて──ぞくぞくしますねえ」

こっちがぞくぞくしたよ。

何を想像しているのかフリュは身悶えしながらわたしをちらちらと窺ってくる

「そういえばフリュってどこに住んでるの?」

「ぼくは普通に貴族社会で暮らしていますよ、人間と同じように」

「はい?」

きょとりと二人で顔を突き合わせる、お互い何いってるんだといった表情だ──

「そんなこと出来ないでしょう!?だってほら石板の監査だってあるでしょ?それにフリュだってルーナと同じくらい生きてるんでしょ?」

「簡単ですよ、石板よりも大きな“魔力”で惑わせばいいんですから、それに姿形などどうにでもなるってご存知でしょう?ぼくほどの“悪魔”になると媒体は関係ありませんのでご安心ください」

なにそれ、そんな便利な使い方があるの?これはやっぱり徹底して“魔力”を使えるようにならなきゃ!

「さてぼくが今日ここに来た理由をお尋ねにはならないのですか~?」

「暇だから来たんじゃないの?」

「ああ!ひどい!ひどいマナも素敵です──だけど違いますよ、ここにいた居候殿の事ですよ」

「クルト?」

風がさらう前髪を疎ましそうに耳にかけ、フリュはわたしの興味がひけたのが嬉しいのかにっこりとほほ笑む

「じつはここを出て行った居候殿がこちらに危害を加えるのではないかと見張っていたのです。人はすぐに嘘を吐きますからねえ──しかし居候殿は言った通り雇われ傭兵になり暮らしていました。まあこれでぼくの監視の必要もないかと思っていた矢先、姿を消したのですよ」

「姿を消したってどういうこと??」

「ぼくってこう見えて忙しい身の上でしてすこし目を離した隙に。それで周辺に探りをいれてみて驚きました~なんでも聖女の騎士に拘束されていったらしいです。彼の傭兵仲間が止める暇もなかったらしいですよ」

「それってクルトが危険な目に合ってるかもしれないってことじゃない!」

立ち上がって叫ぶ、屈んだままのフリュは、首を傾げて

「まあこうなることは彼も予測はしていたんじゃないでしょうか?ぼくが心配なのは彼が拷問などに掛けられてマナが危険にさらされないかという点ですかね~」

ぶれない!この“悪魔”は基本が人間側じゃなくて常にこちら側だ……どう言ったらわかってくれる?言葉にするのはすごく難しい……やっぱり動くしかない!

「クルトはどこに連れて行かれたの!?」

「南に位置する “金の聖女”の神殿です。大都市の中央にそびえる白亜の神殿──」


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