7座-クルト
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ここを出ていくと決めたのは、マナがあの惨劇から生還してきた日の事だ……
騎士等がした所業を目の当たりにして、自分の中に厳重にしまっておいた出来事が息を吹き返したのだ。耳を目を塞いで無きものしてきたそれらは“悪魔”がしてきたことではない。同じ人間がしてきた所業だ
『あなたも同じようにしていた?』
マナの怯えた声が胸を刺した、そうだ。もしマナと出会った時に捕らえていたならきっと同じような目にあったはず……私でなくとも他の誰かが──暴き傷つけ殺すのだ……
それこそが“悪魔”の禊だと。マナがそうなると想像しただけでも虫唾が走る、同じ仲間であろうと斬り捨てる。私の中で確実に何かが変わり始めている──だがこれ以上何かが変わるのを私は恐れてもいる
母が恨んできた“悪魔”を父が家族を裏切ってまで逃した“悪魔”それらを恨む事で生きてきた。許す?認める?好意を抱くなど母への冒涜だ──人間が苦しんできた全ての代償を払わせてやるのだ。その声に耳を傾け続けていれたなら楽だっただろう、フリュが言うとおり白か黒の世界で
だが私の目の前にいるマナは、頼りない身体で皆のために危険を冒す。無力でありながら死する人を憐れむ、助けたいと願う。
“魔王”でも“悪魔”でも構わない、マナを傷つけたくない。
この想い、今ならまだ霧のように霧散してくれるはず、だから私はここを離れる。
もう“悪魔”とは戦わない……マナに繋がる命を絶つ事は二度とするまい。
今、初めてマナの笑顔が私に向けられた、体中に走る衝撃は雷に打たれたようでマナから目をそらす事など不可能に感じられる、私にじっと見られたのが恥ずかしいのか俯いた姿を掻き抱きたい。
早く去ってくれ!私の前から私に捕まる前に───