7座
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七番目の星座:ユノスは赤獣
星と星を駆け道を繋ぐ役目があったが、その姿を気にいった時王は七番目の星座:ユノスを捕らえてしまう。星は道を繋がなくなってしまった事を怒って七番目の星座:ユノスを星屑に変えてしまった。大いに嘆いた時王を憐れに思った星は、時王を星屑に変え天にあげたという。
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背に負ぶわれた状態で、みっともない自分の足を睨む。いつどこでどうやって怪我をしたのか覚えてないけれど…洞から首根っこを噛まれながら引きずり出されたのだけははっきり覚えてる。月明かりがわずかに、紫色に腫れあがった足を照らし妙に気持ちが悪いルーナは軽率な行動を取るからだと怒っていたけど、居候だけは冷静にしていた。
そんなルーナは町に入る手前でルーナは様子を見に先行していってしまった。
「……わたしここを通りたくない…」
身を潜めるために草地に降ろすと、居候があたりを警戒しながら
「何故…とは愚問か──」
「……ああいう事、したことある?」
こちらを凝視しただろうなという気配はしたけれど、わたしは自分の足から視線を外さない、外したくない。
「…いや。私が所属していた部隊ではない、が。──騎士、兵士といってもそれなりの試験さえ合格できれば誰にでもなれてしまう。門が広く開かれてはいるが騎士ともなると優遇されるのも確かだ。そのせいかはわからないが…本来ならば許されない行為に至ってしまう者も多い…」
「じゃあ、そんな部隊に所属していたら同じようにした?」
「……大きいうねりに逆らうのは困難なものときまっている。」
「焼かれる子供を見たら?乱暴される人をみたら?どうする?」
「………」
見上げた先にアメジスト色に似た目がわたしを睨む
「では、どうしたら良かったと?他の部隊の男達に掴みかかればよかったのか!それとも非道だと斬ればよかったか?私だとて助けれたものならば…!もっと力があれば…君に行ったところでどうしようもないが、まさかここで責められる事になるとはな。」
「違う……そうじゃない…」
わたしは、安心したかった…助けられなかったのはわたしだけじゃないって。だけどわたしの身勝手な言葉はナイフになったんだ
「ごめん…ごめんなさい…責めたかったわけじゃない、わたしは卑怯だから──助けられなかったでも仕方ないって思いたかったの」
「……」
「わたしはただの人間なのに“魔王”で、でもなんの“力”もなくて──“魔王”なのに人を助けたいって思ってしまう、なのに結局何も出来ない…“魔王”なんだから助けるなんておかしいでも“人間”を殺すのだっておかしい──そうしたらわたしはどれほど異物なんだろうって……死んだら帰れるって」
「───っ」
「自分勝手に……迎えに来てくれたのにお礼もいえない!」
「君が思い悩む必要は微塵もない!……騎士などという称号があっても何も出来ないのだから……それに君が無事でいたことが何より良かった。いや、私にとってではなくもちろんルーナにとってだ」
眺めてるうちにどんどん居候の顔が赤く染まっていく。慰めようとしてくれてるのかな?
「そうだね、ルーナにもちゃんと謝らないと……それに居候もやめないと」
「?」
「いつまでも根に持ってちゃ、ね。──クルトさん」
「クルトさん……」
え、嫌だったかな…固まってる。顔の前で手を振ったけど反応なし、また何か間違ったかな。こういうところだよまったく…自分の馬鹿!
「ごめん、ええっと何って呼んだほうがいいかな、年上だからさん付けで間違いないって思ったんだけど」
「私も君の事は名で呼ばせてもらう──なので私のこともクルトでかまわない。」
耳まで赤みが伝染したのか、これ以上どこが赤くなるのかな不思議…ちょっと首まで赤くなってきてるよ!どんだけ乙女…名前呼び合うだけでここまでになっちゃうとか…こっちまで恥ずかしくなってきた──!
「ルーナ遅いね」
「あ、ああそうだな──私達がこちらに来た時には騎士の姿はなかったはずだが…」
周囲を窺ってみても何の異変も感じられない、町のほうはすっかり闇夜に紛れていて月の光が輪郭をおぼろげに顕わにさせているだけ
「あ、ルーナ!」
「遅くなったな」
「ううん、どう?……通れそう?」
こちらに近寄りながらも後方の町をちらりと振り返ったルーナは
「それが、通れる事には間違いなさそうなんだが──おかしなことに町に人の気配がない」
「人の気配が?しかし私達が来た時には確かに」
「……嫌な予感がする、早くここを去ったほうがいいだろう」
一つ頷いたクルトは すぐに済む とだけ告げるとわたしを背負ったまま駆け抜けるようにして町を進む。
たしかに今は夜も更け皆就寝している時間だけど、この静けさはなんだろう?どこの家も真っ暗で灯りの一つもない……町に入った所には、血だまりの中に遺体が、炭化した木もそのままになっている
「……誰も?」
埋葬すら許されないの……?
「──おかしい。このあたりの人間の気配をまったく感じない、ルーナこれは消滅に近い」
「ああおかしな事ばかりだ、だが今は帰る事が先決だ……?」
速度を落として止まったクルトが何かに気づいたように、わたしもそれに釘づけになった
「ルーナ、マナには」
「もう遅い」
墓地の柳のような木に吊り下げられた、人──ああなるほど、それで誰もいなかったんだ
馬鹿な私が一番最初に思ったのはそれで、そこからは目の前がぐるぐると回転していた。
伸びきった首に異常なほどに口からはみ出た舌、裸に剥かれた女の人の青白い肌、小さすぎる身体はわずかな風に揺られていて……
クルトが後ろからそっと目を覆ってくれたけど──記憶って脳にしまわれていくんだと思ってたけど、きっと目にもあるんだと思う、だって目を閉じてもずっとそこにいるもの…
心が叫ぶ、見なくたっていいものはあるはず、だからこのままやりすごそう? そんなこと出来ないわたしは何一つ見逃しちゃいけないんだ、きっと──いい加減この世界を受け入れて理解しなきゃいけない……
そっと外した手に心の中で感謝する、わたしもう逃げるのやめにしよう…だって
これが現実。ここがわたしの生きる世界。
「馬鹿娘。食え。──まったくろくに食ってもいないくせに吐くやつがあるか」
「うう……ってちょっと今食べ物は見たくない…!」
ずいっと差し出されたスプーンから顔を背ける、もちろんベッドの上だから逃げ場はないしルーナも人に戻っている状態なので逃げだす事も出来ない。家に戻ってきてから二日目になってもわたしの食欲は戻らなくて、何を食べても吐いてしまう
さすがに命の危機を感じたのか今はこうやって強制的に物を食べさせられているけどこれって正解なのかな?
「塵屑居候野郎が作った野菜スープだ、さあ遠慮なく食べろ、マナ」
「……」
ルーナはクルトがわたしの事をマナと呼んでいるのが気に食わないらしい、女なら見境なしか とか言ってクルトが口の悪さに引くのもわかる。それに見境なしってそれってどうなの?クルトだって多少はわたしの事認めてくれたからだとおもってたけど違ったのかな…難しい
第一、ルーナはいつまで人でいるつもりなのかな?いい加減しんどいよ……監視ってだけじゃなくて意図的に人でいるような気がする…
「まさか、それってわざとしてる?」
「わざととは?このスープを食わそうとしている事かそれとも人でいることか──後者であれば、ふむご明察だな、お前 俺が人であると疲れてかなわんだろう──なあ」
「確信犯!!─んぐっ」
大口を開けたところにスプーンを突っ込まれる
「嬉しいだろう、お前が勝手できんように監禁してやっているのだ。存分に囚われ姫の気分を味わえ」
「そんな悪趣味もちあわせてな─んん!」
「これはこれは、新たな悪趣味も出来たかもしれんなあ、無理やり口に含ませるという趣味がなあ。明日はパンか魚か」
「破廉恥ね─むがっ」
「くっくっく。学習能力のない頭がにくかしかろう」
「ああ…邪魔しただろうか、いや実はあれが来ているようなのだが」