6座-2
わたしが簡単にあきらめると思ったら大間違い、部屋に籠城するふりをして準備をすすめた。覚えている限りで方位はわかっているし、近くには町らしきものあったこちらから向こうに出るだけなら空家でなくてもかまわない。ただ問題をあげるとしたら向こうから帰る手段だ……となるとやはり何度か扉を繋げて空家を探し出すしかない…危険な事だけどこういうのは何度もやってきてるし、これからの事を考えればやはりやらなくてはいけないんだ
というわけで、夜中こっそりと何度か扉を繋げてよさそうな扉を見つけた
空家というわけではないが、人もめったにこない場所………霊廟。
すなわち墓地におばあさんがいたとしても誰も近寄っては来ないだろうし見つかったとしても、親戚の弔いに来たと言えばいい
あとは、決行する日時、これが一番重要、月と太陽が混ざる時、しかも5がつく星座の日でないといけない。町から泉までの距離を縮尺で計算すべきなんだけど肝心の地図は居候に取られているし……
「歩きで進むとして二日ばかりの猶予をもって出発すべきね──今日の夜に出発しよう」
クロノグラフを確認しながら待つこと7時間……
物音のしなくなったのを確認して部屋を出ると、そっと調理場へ向かって保存食をカバンに詰め込むとそそくさと玄関へ向かう。
「自分の家でまさか盗みをはたらくことになるなんて……いや元々わたしのお金で買ってる物なんだから盗みではない気もする」
扉をあける前に深く深呼吸する、そっと外を窺う。生き物の気配はなし。
「気味が悪い……早く行こう…なるべくたくさん作って必要なものを揃えるんだから」
「これはこれは!奇遇ですね~お嬢さん」
「!!!」
飛び上がりそうなわたしの肩に手を載せて
「静かに~僕ですよ、ほら狭間でお会いしたでしょう?」
「あ、あのときの“悪魔”……」
極彩鳥のような格好に白髪、確かにあのときの“悪魔”だけど、どうしてこんな所に…?
「“悪魔”といえば死、死といえば墓地──というか僕の名前はフリュと言います」
「フリュ……よくわたしだとわかったね…ローヴで元の姿には見えないはずなのに」
「──僕は鼻がきくのであなたの匂いだったらどこにいても気がつきますよ~」
わたしの顔を覗き込んだフリュはにっこりと笑うけど、匂いとかちょっと気味が悪い、そうなのじゃあね と振り切ろうとしたけど結局フリュはべらべらと喋りながら着いてきてしまった……
結構歩いたはず、あたりはすっかり太陽に照らされている。クロノグラフを確認してみると短針は8番目を指示している。すでに家を出てから6時間!……それで足が棒のように…納得だわ。
ちょっと休憩しよう、助かった事に周辺は麦畑に囲まれた細い農歩道になっているため、座り込んでいれば誰にも見つかることはなさそう
「どうしたんです?」
「……ちょっと休憩しようと思って──フリュも食べる?」
「とんでもない、マナ様のお食事を僕が食べるわけにはいきませんので」
「様とか、いらないから……はいどうぞ」
手に載せられた果物を見てフリュは迷っているようだったけど口に運ぶと「これは絶品ですね~」と喜んでいた。30分ほど休憩をとったあと延々と続く農歩道を歩き続ける、一人だったらつまらなくなっていたかもしれないけどありがたい事にフリュは泉まで行きたいといってくれた、どうやらわたしが宝石を作る瞬間を見てみたいらしい
最初の夜の帳が落ち眠れそうな場所を確保したあと、夜空の星をみて方向が間違っていないか、目的地までのおおよその距離を測る。
「もうわたしがいないことに気がついたかな?ルーナはすごく怒るだろうな……また地獄のお説教が…」
「眠れませんか?」
「ううん、ねえ宝石を作るって珍しい事なの?」
隣に腰を下ろしたフリュは少し興奮気味に
「それはもう!普通は宝石なんてつくれませんからねぇ~マナくらいではないのですか?それを拝見できるとは夢のよう!」
「え!わたしだけ??──そういう職人はいないの??」
「僕が知りえる限りではマナだけですよ、さぞかし幻想的な“魔法”に違いないです」
「“魔法”?」
「そうです。“魔力”と“力”があわさったものが“魔法”です、才能ある人間が使役するのは“魔法”です不思議だと思いませんか?たかだか人間が“魔法”を使役するなんて」
そう言われればそうなのかな?“魔力”が使えないわたしは“力”を使ってるとおもってたけど“魔法”……?
「……ごめん、わたしよくわからない、今までそういう知識は身につけちゃいけないっていわれてきたから──」
「なるほど~まあ僕が言ったことはお気になさらず、さあさあもう眠りましょう!立派な寝床なのですから」
指さされたのは、木の根っこが深くからまった窪みだったけど、フリュの明るさに笑ってしまった。
翌日も歩き続け、最初に行き当たった泉はすでに埋め立てられており存在していなかったため、二候補目の泉に向かったがフリュが言うにはここには“魔力”を感じないということだった…役に立つ!!




