夕焼けに飛ぶ
「追い詰めたぞ、リーガー」
俺はサッカーコートの真ん中にリーガーを追い詰めた。空は太陽が沈み始め、目の前にいるリーガーの哀しげな表情に影を与える。
「お前だと思ったよ、僕を逃がさない奴は」
「戻れリーガー。今ならまだマトモに戻れる!」
「終わりなんだよジェイ。僕はこれから飛ばなきゃいけないんだ」
リーガーの上着が破け飛び、背中から曇り空のような色の翼が生えた。
天使の。これから死に行くものに生えるこの世のものでない翼。
「待てリーガー! 俺はまだお前とケンカしたことを謝っていない!」
「どのみち間に合わなかったんだ、僕には時間がなく、ジェイも僕も強情だからね」
夕焼けの光が彼の身体に火を灯す。
燃えて焦げた彼の翼が羽ばたきを始める。
「戻れないのかリーガー。お前とやり直したいんだよ俺は」
「ジェイ、僕は君を許しもしない。もう遅いからね」
黒焦げになりながら彼は空を見上げ、飛翔した。
「ただ君に出来ること。僕の飛び立った痕を頼んだよ」
空に飛び立った彼を見送ると、スマホに着信が鳴った。出なくても分かる、リーガーが死んだ。
サッカーコートに仰向けに倒れ、この世の理から彼が飛び去った昏い空を眺め続けた。