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07 準備って、大切ですよね

 ユーマは今回の仕事の内容を確認した冒険者たち四人を引き連れて、もう一度全員でマイス家に戻ることになった。ミュリーナの強い要望によって、マイス家への宿泊が出来るかどうかを確認するためだ。ミュリーナは楽しそうに、ミュリーナを除く冒険者三人はやはり面倒なことになったと呆れ顔だ。


 冒険者たちにとって、マイス家での宿泊が可能か不可能かはあまり大きな問題ではない。受け入れられなければ村長宅で宿泊が可能なのだ。だがマーリドが“冒険者の内一部なら受け入れできる”と言った場合は面倒になる。その場合、ミュリーナは確実にマイス家を選ぶだろう。受け入れられなかった者が村長宅だ。


 そうする必要があるのならばともかく、必要がないのに二箇所に分かれて寝泊まりするのは、チームワークが重要な冒険者にとっては面倒が増えることにしかならない。朝、合流する時間が遅れたりなどで仕事にかける時間が減り、その結果は仕事の遅れとして出てくるだろう。


 とは言え、今回のような明確な期限の無い仕事なら、それも許容できる範囲だ。ひとまずは十日間、毎日森に入っては蜘蛛を探し、十日後にまだ調査が足りないようなら延長もするとの事。あるいは十日後まで調査をして蜘蛛の数が手に負えない様であるなら冒険者ではなく兵士たちの出番になる。


 もう一つの懸念、むしろ彼らにはこちらのほうが重要だった。以前、ミュリーナが恋愛騒動を起こした時に、ミュリーナはまったく仕事に手がつかなくなってしまった。ただその時はミュリーナ自身は仕事を受けていない時だったから特に文句はない。ミュリーナだけその間の収入がなかったが、それも自己責任の範囲だ。


 問題はミュリーナを含めて四人で今回の仕事を既に受けていることだ。その間に一人が仕事を放り出していたとなれば、パーティの評判にも響く。冒険者とて信用商売なのだ。悪評が広まったパーティが仕事を取れないまま、それで食い扶持を稼ぐために身持ちを崩す者もいる。


 エドガスたち四人はこれまで多少の失敗はあったが堅実に仕事をこなし、概ね良好な評価を得ているが、何処でどんな悪評が広まるかわかったものではない。どんなに腕に自信があっても“途中で仕事を投げ出すかもしれない”などと言う評判が広まればそれは致命的だ。


 そんなエドガスたちの心配はさておき、ユーマとしてはマーリドが冒険者たちを受け入れてくれれば良いと思っていた。冒険者たちからいろいろと聞きたい事があったからこそ、冒険者たちを案内しようと思ったのだし、滞在期間中に冒険者たちと接触する機会が増えればより多く話が聞けるだろう。


 いつの日になるかは、まだわからないが、いずれユーマは村を出ていくことになる。その為には村の外で生きていくことが出来る術が必要なのだ。村の中では得られない、外の世界で生きていく事が出来る知識を冒険者たちは持っているだろう。


 そして吸血鬼である自分と、ある程度自由に移動して生活が出来る冒険者という立場は相性が良いのではないかと考えたのだ。ユーマの身体が成熟した大人の姿であればまだしも、吸血鬼の身体が成長しないと言うのが本当であるなら、子供の姿のままでは、一箇所に長くいられないと言うのはこの村でだけの事ではなく、この先ずっと付いてくる話だ。


 家に戻るとちょうどマーリドとマジロ、そして今日はユーマが学校へ行かないため、ユーマの付き添いの必要がなく、畑に出ることにしたマルスが揃って畑に向かうところだった。


「ただいま、もどりました。マーリドにお話があります」


 戻ってきたユーマに引き止められ、その後ろにミゲルの家まで送り届けて、そのまま別れてくるはずだった冒険者たちを連れているのを見てマーリドはどうしたのかと足を止める。


「冒険者のみなさんの仕事中に、寝る家を貸して欲しいです」


 単刀直入に切り出したユーマをエドガスは慌てて止め、話の続きをエドガスが替わる。拾ってきた犬や猫ではないのだ。自分たちの寝床の確保を、その家の子供が家長に願い出たのでは流石に大人としての立場がない。交渉を交代したエドガスたちは改めて、仕事をする間の寄宿を願い出る。


「ふむ、寝る場所は提供できる。しかしミデルのところに泊まることになっていたと思ったが?」


 朝食のときに聞いた通り、今回の依頼に深く関わっているマーリドが何故こちらに宿泊先を変更したのかと確認する。ミュリーナ以外の三人にしてみればこの話の流れはミュリーナの責任なのでミュリーナを矢面に立たせて説明を任せてる事にする。少なくとも事態を止められなかった責任に比べれば、事態を招いた責任の方が比重が大きいだろう。


 ミュリーナによれば村長の家よりこちらのほうが森に近いのだとか、朝食が美味しかったのだとかと言うが、本当の理由が透けて見えている三人には白々しい限りである。もっとも目的はユーマに近づくことだなどとの邪念は露にも見せない辺りはまだ自制が効いているのかもしれない。


 マーリドはミュリーナの説明を聞いても訝しげだ。確かに村長宅よりも森には近いが、距離に大きな変わりがあるわけでもなく、また妻の料理に不満はなくとも都市から来た冒険者が調味料を控えめにして作られた料理を褒めるだろうか。もちろん、冒険者が携帯する簡易食に比べれば確かに良い食事ではあるが、そういう意味なら村長宅でも同じだ。


「マーリド、二人のお話があります」


 大した引き出しもなく、ミュリーナが理由を上げるのにしどろもどろになってきた頃にユーマが切り出した。ユーマの言葉に二人だけで話がしたいと言いたいのだろう察して頷き、マーリドはユーマと共に冒険者たちと、そしてマジロやマルスからも距離を取って話し出した。


「マーリドにお願いします。みなさんに寝床を、貸してください」


 頭を下げて頼み込むユーマの頭に手を置きつつ、長身のマーリドはしゃがみこんでユーマと視線を合わせて話す。


「ユーマはどうして彼らを助けようとしているのか、教えてくれるかな?」


「はい。私は、いつか村から出ていきます。村から出たその時のために、冒険者のみなさんから、教えて欲しいことが、沢山あります」


 いつかユーマは村から出ていくことになるだろうと、マーリドもそう思ってはいたが、それを直接ユーマに言ったことはない。だが、ユーマは今まで得た情報でその結論にまでたどり着いていたのだろうとマーリドは理解する。吸血鬼という種はなかなか理解されるものではない。


 村の他の者たちにもユーマが吸血鬼であることは秘密にしているが、成長しないユーマを見て気が付く者がいるかも知れないし、気が付かれなくても成長しないというだけでも周りの者達が怪しむだろう。仮に吸血鬼として受け入れられても、何かの拍子で不安が爆発する可能性もある。


 迷信深い者なら怪我や病気もユーマのせいだと騒ぎ立てるかもしれない。いつか出ていく必要があるとユーマが考えたということは、そういった人間の深い負の感情についても思い当たっているということだろう。ユーマがそこまで考えていることを悟ってもマーリドに驚きはない。


 家に来たばかりのユーマが知らなかったのは言葉だけではない。見た目はマルスと同じくらいの歳の子に見えるが、火の起こし方も知らなかったし、自分の下の世話ですらできずに漏らして、汚したりしていた。あまりに何も知らないので、ユーマのことを白痴ではないかと疑った事もあった。


 だがそうではなかった。ユーマはそれらすべてを本当に今まで知らなかっただけだったのだ。実際にユーマは一、二度経験したことをすぐに覚えていった。今では火を熾すどころか料理までする。言葉はまだ拙い部分はあるが、では言葉を覚え始めた童子が二、三ヶ月で意思の疎通が出来るほどにまで喋りだすだろうか?


 今ではマーリドはユーマのことを高く評価している。ユーマは学校でも言葉を中心に学んでいるが、計算などは教える必要がなかったという。確かにユーマには知識が圧倒的に足りない。だがおそらくその知性は年長の孫であるマルスや、既に成人しているマジロよりも、むしろ自分よりも高いだろうとも見ている。


 そんなユーマが、今後のために取るべき行動について考えているとしても不思議ではない。最も新しい家族であるユーマは、孫たちなどよりも早くもう既にその将来のための準備を始めようとしている。物怖じもせずマーリドにもよく懐いているこの少女は、マーリドにとっても既に子供か、孫のような存在だった。


「ユーマが外の事を勉強したいと言うなら、ワシもそれを手伝わない訳にはいかないな」


 マーリドは膝をついてユーマを抱き寄せ、ユーマもそれに従う。ユーマはまだ、気軽にハグをする文化に慣れないところもあるが、マーリドの気持ちが嬉しくないわけはない。


「ありがとう、マーリド」

「ユーマは家族だからね。ワシは家族のためなら、なんでもしてやりたいと思っているよ」


 今、マーリドが抱き締めたユーマは華奢で正直に言えば頼りない。そして頼りないのはその体躯のせいだけではない。ユーマにはまだ沢山覚えなければいけないことがあるはずだ。


「でも焦らなくて良い。まだまだ、ここにいる時間はあるはずだからね。彼らからいろいろ教えてもらいなさい」


 冒険者たちからは、そしてマジロとマルスからも、ユーマとマーリドの会話は聞こえなかったが、お互いに言葉少なにハグをしあっている事で何かしら話がまとまったのだろうと見えた。


 何を話していたのかは分からないが、ただ、ミュリーナと、ついでにマルスはマーリドとユーマが抱き締めあっているのをみて「あ、あれずるい」「そこ代わって」と心の中で呟いていたのだった。


「さて、そう言うことなら、ワシにも考えがあるぞ」


 ユーマと身体を離す際にマーリドはそっとユーマに耳打ちする。ユーマがマーリドを見上げると、マーリドは苦手な、そしていたずらそうな笑顔を見せ、ユーマは不安をを煽られる。普段あまり笑わないマーリドがその笑顔を見せた時は、だいたいユーマや家族にが驚くようなことをする。


 マーリドがユーマの手を引いて冒険者たちのもとへ戻ってくると朗らかに冒険者たち四人へ告げる。先程までの厳格そうなイメージは何処へやら、好々爺然とした雰囲気だ。


「ユーマと話してまとまった。さっきの話だが良いだろう。家の今使っていない納屋を一つ提供しよう。ただし、こちらにも少し条件がある」


 その言葉に早速お礼を言うミュリーナと、対象的に「その条件とは?」と気にする姿勢を見せる三人。


「君たちがここで仕事をする間ユーマを連れて行って欲しい。その間に野営の仕方や獣の避け方なども教えてもらおう」


「「「……はぁ!?」」」


 マーリドの言葉に驚いたのは何も冒険者たちだけではない。後ろで話が終わるのをただ待っていたマジロとマルスも、そして今マーリドの隣に立っているユーマですら同じ声を上げていた。


 マーリドが出した条件は、つまりユーマに新米の冒険者としてのイロハを教えろということだ。冒険者たちからすれば年端もいかない少女を連れて行き、その仕事を手伝わせろというのだから、耳を疑うなと言う方が無理がある。老人の正気を疑うほどだったが条件がのめないなら納屋はかせないとわざとらしく渋ってくる。


 冒険者をやっている四人が言うのもおかしな話だが、家族を冒険者にしたいなどという者は普通はいない。冒険者も、居なくなれば困る者もいるだろう。しかし冒険者とは有り体に言えば、兵士崩れや傭兵崩れ。家出者に元野盗。修験者を気取った道士や得体の知れない魔術師である。


 信用は必要なので契約や約束事は守るが、それ以外はチンピラや荒くれ者と同じ様に見られているのが関の山だった。まさかそんな者たちの中に家族を放り込もうなどと思う親御はいなくて当然だろう。


 ミュリーナ以外の三人は、即座にこの申し出は断るべきだと感じた。わざわざ足手まといを背負い込んで仕事などしたくはないし、万が一怪我でもされれば、目の前の保護者から何を言われれるかわからない。だがしかし、三人よりもミュリーナのほうが早かった。


「まかせてください!」


 ミュリーナの言葉は三人が頭を抱えるのに十分な威力を持っていた。エドガスは肩を落とし、ケアリオは空を仰ぎ、ヒルダは肩をすくめる。マジロとマルスは話についていけずに呆然とことの成り行きを見守っているし、当事者であるはずのユーマも目を丸くして立ち尽くしている。


 もう戻れないならと三人は考え方を切り替えることにする。ユーマがついてくるのなら、ミュリーナもちゃんと働くだろう。少なくともミュリーナが役立たずになるのと、ミュリーナがちゃんと仕事をした上で足手まといであっても仕事の手伝いが入るのであれば、後者のほうがいくらかマシだ。


「これはアレだね。ユーマちゃんを私に預けるという、ユーマちゃんのお爺さんの取り計らいだね!」


 能天気に喜ぶミュリーナに恨み言を投げつけてやりたくなる。ユーマのことは討伐任務が護衛任務になったとでも思っておくことにしようと考えに区切りをつけ、そしてもしかするとミュリーナをパーティに入れておくのはそろそろ考えなおしたほうがいいのかもしれないと、ちらりと思ってしまうのだった。


 その日は結局、冒険者たちは仕事を進めることは出来なかった。ユーマは四人を森の入口まで案内して全員で現地を確認し、そこから引き返して昼食を取る。その後は急ごしらえながらユーマの装備を整える。その装備の見繕いも四人の仕事となってしまっている。


 普段ユーマが使っている革製のオーバーニーブーツとロンググローブはそのまま使える丈夫な物だ。上着にはマルスが着るには小さくなったジャケットを襟を立てて着込み、デニスからマーリドの権限で勝手に譲与されたレザーパンツを履く。森では枝葉に引っかからないようにジャケットの上からベルトを締めて広がりを抑えておく。


 パンツやジャケットの裾や袖もそれぞれパンツやブーツ、そしてグローブの中に引っ詰め、首元の肌を保護するために極短で硬めの革のケープを羽織る。ケープは普段はユーマが雨具として羽織っている物の一部だ。


 大きな帽子も邪魔になるのでマーリドからこれも今回譲ってもらった防寒帽の綿を抜き、耳をおろしてかぶる。耳当ての前を閉じれば鼻から口まわりも保護できる。前に伸びる鍔が普段の帽子より短めで目元が心配だが、鼻から顎までは面頬状の耳当てで隠せるので、あえて太陽を直視しなければ何とかなりそうだった。


 ユーマが長い髪は邪魔なので切ってしまおうかと口にすると、ミュリーナが猛反対したため、森へ出掛ける時は固く三つ編みにしておくことにした。


 基本的には朝出かけて夜には戻るサイクルなので大仰な荷物は必要がない。小さなリュックに念の為にナイフと火熾し道具、タオルを放り込み残ったスペースには当日分の食料を入れておくことにする。


 最後に、念の為にと鉈を一本腰に下げる。マーリドが普段使っている物だ。マーリドにとっては文字通り取り回しに便利な鉈なのだが、体格の小さなユーマが持つとちょっとした剣のようにも見える。


 日光を避けるためにどうしても暑苦しい格好になるのは変わらないが、森でも動きやすそうな装備を有り物で揃えることが出来た。殆どが男物でなので全体的にボーイッシュな仕上がりとなっていしまったが、ユーマ本人は割と気に入った様だった。


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