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06 冒険者って楽しいですか?

 空が白み始めたばかりの早朝。子供たちに管理を任せていた納屋と言っても勝手に冒険者たちを宿泊させたことについて、ユーマはマーリドにしっかり叱られた後に冒険者たちを泊めた納屋を訪れた。


 叱られるのは元から覚悟していたユーマは、マーリドが起きてきたところを捕まえて最初から頭を下げてそれを告白した。そのおかげなのかマーリドの雷はそれほど大きくはなく、今後は例えマーリドが寝ていたとしても黙って他人を泊めたりしないように、必ず確認するようにと念押しされていた。


「おはようございます」


 納屋の戸を軽く叩いて中に声を掛けると、直ぐに中から返事があり、冒険者たちが顔を出した。


「おはようございます。これは……彼は、マーリド。マーリドはお爺さん、私の家のいちばんの年上です」

「家長のマーリドだ」


 ユーマに続いてマーリドはゆっくりとした語調で冒険者たちに自己紹介する。もっとも事情を知っている目聡い者ならば、ユーマに適切な言葉を聞かせるために続けたように感じたかもしれない。現にユーマはその後小さく、「そう、家長です」と呟いてその言葉を確認していた。


 その後はユーマに替わりマーリドが、ユーマから聞いていた冒険者たちの来訪目的を直接、再確認すると後ほど村長の家へ案内すると告げ、冒険者たちを朝食へと招待した。冒険者たちにとっては村に到着して一晩明けてからのやっと携帯用の簡易食ではない、普通の食事を取ることが出来たのだった。


 マーリドは食事を取りながら冒険者たちと言葉をかわし、冒険者たちの到着について「思ったよりも早かった」と告げていた。村の中だけでは揃わない物を手に入れるために稀に都市へ買い出しに行ったりなどする村の者がいる。そして誰かが行くと話を聞きつけると大抵ほかの住人からついでの用事を頼まれたりした。


 冒険者への依頼書もそうしてついでに届けられたものだ。先週、都市へ買い物に行った村人に依頼に必要な書類を持たせていたが、そもそも村長たちと相談をしつつその書類を作ったのもマーリドなのだそうだ。


「もちろん、依頼主は村長のミデルだ。だから正式にはミデルと話をしてくれ」


 仕事内容についての話を始めかけた冒険者たちを手を振って止め、マーリド自身は意見を出しつつ話をまとめただけで依頼主ではないし、依頼書類のサインもちゃんとミデルの直筆のものだと断りを入れた。


 食事が終わった後、マーリドから頼まれたユーマは出掛ける準備を整える。頼まれたと言ってもユーマ自身も冒険者たちの案内は自分でするつもりでいた。兄弟たちには学校を休むことを伝え、冒険者たちを連れて村長の家へ案内するため家を出るのだった。


 ユーマにとっては、日の出後と日の入り前の時間は太陽の光が横から差し込み特に注意が必要な時間帯だった。朝夕は太陽の位置が低く、ユーマは帽子の鍔を少し抑えるようにして陽の光を浴びないように注意しながら、冒険者たちを先導して歩いていく。


 その道すがら、ユーマは冒険者たちにいろいろと質問を浴びせた。初めて合う冒険者たちへの興味は強い。


「みなさんは、家はどこですか?」

「ん?私たちはミロスから――そこから来てて、そこの――にここの村のミデルさんからの依頼――が来てたんだよ」


 ユーマたちの住む村には名前は特にない。ほんの数十年前に開拓された新しい農村だった。あえて名前をつけるとすれば開拓者たちの長であった村長の家名、ミデルの村とでも言うべきだろうか。領地としては冒険者たちの言葉にあった都市、ミロスの領地と言うことになる。


 ユーマはまだ行ったことがないが、ミロスまではミデルの村から北へ歩いて途中に別の農村を挟んで二日ほどの距離だ。ミロスにはこれと言って特徴はない都市とのことだったが他都市との交通の要所となっていて規模の割には物の流れも多く商業都市として栄えている都市と言えた。


「冒険者は、楽しい暮らしですか?」

「それは、まあ。いろいろあるよ。そんなに儲かってないし、大変なことだって多いしね」


 ユーマと冒険者たちが出会ってからまだ一晩しか経っていないが、ユーマの言葉に受け答えするのは主にミュリーナとなっていた。ミュリーナはユーマのほぼ隣りを歩きながらユーマの質問に答え、、ミュリーナが詳しくわからない部分も一度ミュリーナが聞いてから、必要なら他の三人に話題を振っていく。


 そんなミュリーナは、ユーマのその歳にしては拙い言葉使いを楽しんでいた。確かに言葉遣いは拙いが、その言葉の内容は冒険者とはどんな暮らしをしているのかを実に効率的によく聞き出している。


 適当に間をもたせようとしている様子でもない。年齢に対して拙い言葉とその端々に見える知性の違和感(ギャップ)がミュリーナの興味を引き、容姿の愛らしさと相まってユーマへの庇護欲を掻き立てていた。


 そんなユーマについて興味を持ってミュリーナはユーマを観察していく。ユーマは普段の通り全身を覆うチュニックにスカート、長いブーツにグローブで首から下を完全に覆い、唯一露出している首から上を大きな帽子で陽光から隠している。


「ユーマちゃんは、その格好熱くないの?」


 ミュリーナの方もユーマへと話を振っていく。「すごい、熱いです」と困ったような笑顔で答えるユーマをよく見れば、額や首筋には汗が浮かんでいる。時折ユーマが挨拶しながら擦れ違う村人たちはそれなりに涼しげな服を着ていて、その暑苦しそうな服装はユーマ個人の理由によるものなのだろうと予想できた。


「私、肌が弱いんです。それで日焼けしない様な格好しないといけなくて」


 そこだけ流暢に述べるユーマの言葉に、その言い訳はよく練習したのだなと返ってミュリーナに気づかせてしまうが、ミュリーナはそれ以上そのことには触れなかった。言わないのは、言わないなりの理由があるのだろうと話題を変えていく。


 ただ、実際にミュリーナよりも白いユーマの肌は病的な白さとも言えたが、ユーマ本人の雰囲気はあまり病弱といった感じはしなかった。ユーマの肌で外に出ているのは首から上だけだが、それとは違い長い銀髪は隠さずに帽子の後ろから背中へと流している。


 滑らかな銀糸は細く軽そうで癖がなく、隠している肌とは対象的に陽の光の中で輝いていた。ユーマは全体的に見れば幼く、まさに少女のそれだが、部分単位で見たユーマの身体は驚くほど綺麗で整っているのだ。なによりミュリーナを魅了するのは異彩を放つ赤い瞳だろう。


 今も時々、ミュリーナたちへの興味を隠さずに見上げてくるその瞳が、昨夜の出会いのときに夜闇の中で赤く光っていたのは、見間違いでは断じて無いことを他の三人とも確認している。獣人や妖精などの亜人なのかもしれないが少なくとも、ユーマについては害はないだろうと結論付けていた。


 昨夜、錯乱してガン泣きしていた少女の姿はとても泣き真似には見えなかったのだ。そしてなによりも、泣いているユーマを落ち着かせようと抱きとめていたミュリーナが近くで見た彼女の姿はか弱く、愛らしく、そして美しかった。


 ユーマとミュリーナの後に続いて歩く残りの三人は、ユーマの隣りを歩き楽しそうにユーマと話しを続けるミュリーナを見て、なんとも言えない表情でついていく。このパーティにおいてミュリーナはムードメーカーであると同時にトラブルメーカーだった。


 昨晩、ユーマと別れた後、やけにユーマの話をし続け、今はユーマにぴったり寄り添って歩いている。そんな状態のミュリーナを以前にも知っていた面々は面倒なことにならないよう祈りつつユーマの後を歩いていた。


 村の中央の、ユーマと冒険者が出会った浴場の近くに来たときに何人かの男たちが集まっているのが見えた。その中に村長であるミデルの姿を見つけ冒険者たちにその事を伝えると、ユーマはミデルに小走りに近寄り大きく声をかける。


「ミデル!ミデルに来客がいます……ッ!」


 ミデルと村の何人かの顔見知りの男たちの近くまで行き冒険者たちを紹介しようとしたときに、ミデル達が見ていた物に気が付き慌てて立ち止まり、さらに数歩分を飛び退くように距離を置く。ミデル達が見ていたのは大蜘蛛の死骸だった。


 昨夜、ユーマが襲われ、冒険者たちが倒した蜘蛛だ。昨晩は蜘蛛を倒した後、冒険者たちはユーマへの対応を優先して、倒した蜘蛛の死骸を村の中であったがその場にそのまま残してきてしまっていたのだ。


「やあユーマちゃん。ワシに客だって?」

「……それ……」


 改めて明るいところで見た大蜘蛛はやはり大きい。もし捕らえられたら、その歩脚はユーマを抱き抱えても余るほどに大きいのだ。


 人を襲うと聞いたがそれはただ攻撃される、噛みつかれるというだけでなく、文字通り人を餌食として襲いかかってくるのだろう。大蜘蛛の死骸を見て青ざめるユーマを気遣い、ミゲルはユーマに大丈夫だとなだめた。


「今朝見つけたんだがね。誰かが殺した後みたいで、もう死んでいるよ」

「それに、きのうの夜、私が襲われました……その後、彼らに助けられました」


 ユーマの襲われたとの言葉にミゲルは驚くが、少なくとも今ユーマはここにいるのだから、無事であったのだと落ち着き、ユーマが示した「彼ら」に向き直る。


「村のものがお世話になりました。君たちは?」


 冒険者たちはミゲルの依頼に応じてミロスから来た冒険者であり、依頼の内容を詰めて話をしたいことを告げる。


「なるほど。ちゃんと話をする前に、少し仕事をさせてしまったようだ。ワシの家で詳しく話そう」

「あ、ミデル。その話を、私が見ていてもいいですか?私は邪魔をしません」


 四人をたちを自宅へと案内しようとしたミデルに対してユーマは同席することを頼み、邪魔にならないなら、と冒険者たちと一緒にユーマはミデルの家に上がらせてもらうことにした。


 ――――


 ミデルと面識はあったものの、村長宅へ上がるのはユーマにとっても初めてだった。村長宅は来客なども想定して他の住人の家よりも倍以上に大きく、今ユーマたちが通されている居間についても、普段ユーマが使っているマーリド家の居間よりもずっと広かった。


 振る舞われた茶菓子に手を伸ばしながら、冒険者たちに詳しい依頼内容が説明されていく。村の南に広がる森林に、今年は非常に多くの大蜘蛛が発生したため、冒険者たちにはその間引きと、そして体感での生息域と生息数の調査を行なって欲しいというものだった。


 薪や木材などの資材や、森林で得られる食材は村にとっても重要な資源であり、それらの採集に森に入る村人も少なくはない。村としてはその場所に人間にとって危険な大蜘蛛が大量発生している現状をなんとかしたいのだ。


 大蜘蛛を全滅させる必要はないが、出来れば通常村人が立ち入らない森の奥まで大蜘蛛たちを押し込めたい。それが実現できればいいが、調査の結果、少数の冒険者では対処不能なほどの数の大蜘蛛がいるとわかれば、都市ミロスへ報告し兵士の派遣を依頼することも考えるとのことだ。


「もう一つ、ついでという訳ではないが、蜘蛛の天敵についても見かけたら教えて欲しい」


 蜘蛛の大量発生は、天敵の不足が原因であるらしかった。特に数年前から狼の姿を見なくなっている。狼の群れが森から居なくなり、そのせいで蜘蛛の増えてしまったのではないかと。


 彼ら四人にとって大蜘蛛の討伐自体は大した問題ではない。昨夜ユーマを制圧した後、大蜘蛛についても容易く撃破したように、攻撃を専門としないヒルダ以外であれば、一人で同時に二、三匹の大蜘蛛を相手にしても遅れは取らないだろう。ヒルダであっても、一対一であれば問題はない。


 しかし森林は広さがあり、満足な結果が得られるまで大蜘蛛を間引くにはそれなりに日数がかかることだろう。その点については仕事の報酬とは別に冒険者たちが滞在中の寝床と食事については必要経費として村から提供される事となっている。基本は村長宅へ寝泊まりすることになるだろう。


「そこの事なんだけれど、もし他に宛があったらミデルさんの家以外での泊まりでもいいです?」


 ねえ?とミュリーナは自分の隣に座らせて(・・・・)いたユーマに尋ねる。その発言にミュリーナを除く他の三人は顔を見合わせて困り顔だった。これは間違いないと。以前、ミュリーナが想い人を見つけた時の状態にそっくりだった。ミュリーナの質問にミデルは少し怪訝そうに答える。


「ワシは別にどこに泊まってもらっても構わんが……」


 ミュリーナは恋愛対象に対しては非常に積極的だ。前回の時はあまりに積極的すぎて四人が都市の拠点としている宿にほとんど帰ってこなくなっていた。その間はこの四人組は三人のパーティとして仕事をすることになっていた。


 結局その時はミュリーナの押しが強すぎた所為か、相手である()に引かれて相手に逃げられて帰ってきた。そしてその後しばらくはミュリーナの夜酒に三人が付き合わされるというおまけ付きだ。もっとも、それが仕事を受けていない間のことであれば問題はない。


 四人でなければ動けないような柔なチームではないし、気の合う仲間として行動をともにしているというだけで、四人が常に共に行動すると言った約束を交わしているわけでもない。これまでにも一人か二人が別の仕事を受けていて別行動をとっていたこともある。


 失恋のやけ酒に付き合わされたことも過ぎてみれば笑い話になるだろう。だが四人でひとつの仕事を受けている最中となると話しは別だった。同じ仕事をしている間はなるべく歩調を合わせ、連携を取りたい。


 ユーマにしてみても、そんな話題を振られても困る。もともと話の内容を聞きたいがためだけに同席したのだし、勝手に四人を納屋に泊めてマーリドに朝、叱られたばかりなのだ。二つ返事で頷くわけにも行かない。


「それは、マーリドに聞いてみないと、わからないです」

「それじゃあこの後で聞きに行こう。返事はその後でもいいから、ね?」


 マーリドに確認してマーリドが答えを出したらその時点でわかるのでユーマが返事をするも何もないのでは無いか。ユーマはそう思いもしたが、それよりも身を乗り出さんばかりにユーマに擦り寄り聞いてくるミュリーナに対し、どこと無く自分の身に危険か危機が迫っているのではないか。


 ユーマにはそんな気がし始めていた。


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