ミサキ、腹を括る
食事を終えて、隼斗くんからお風呂を勧められました。
「着替えは俺の服でごめんだけど。トランクスは新しいのあるから、それ履いて」
「ひゅっ・・・(息が出来ない)あ、あ、あの、と、と、トランク・・・スとかって」
「あれ?ミズキので慣れてると思ったけど。洗濯とか」
「い、いや、洗濯干すのと履くのとでは全然違うというか・・・それに弟のだし・・・」
ちょっと待ってちょっと待って!!
あああ、あの、どこの世界に気になる男の子の家でその人のトランクスを履く女子が居るのでしょうか!?
「さすがにお袋の履く訳にはいかないでしょ(笑)」
「そっ、それはそうだけど!」
「それとも、・・・履かない?」
うぁぁぁぁ、そんな色っぽい顔しないでよぉっ!
やだやだ、隼斗くんといると心臓が持たないし、自分の中の邪な心が目覚めてきそうで・・・!
「う・・・履かせて頂きます」
「うん、俺とお揃い♪」
「ぴぎゃぁぁぁっ!!?」
「嘘、嘘!ごめんごめん!」
「も、もう・・・、心臓がヤバイので、冷水浴びに逝って来ます」
「ちょっ!風邪引かない様にね!あと、逝っちゃダメ。君は洒落にならないから(笑)」
単なるお泊りだって楽観してましたけど、ドキドキポイントが多過ぎて、私、心臓破裂で今夜中に召されるかもしれません。
もし、私が召されたら天使様、この身体ミズキに返してあげてくださいね・・・。
1階に降りたら、隼斗くんのお母様が台所で後片付けをしていました。
「あの、お風呂お借りします」
「やぁだ、ミズキくんそんな他人行儀で!なんか悪いもの食べた?ってアタシの料理か(笑)」
「あ、パスタの味付け凄く美味しかったので、後で教えて欲しい・・・んですけど」
「本当!?隼斗ってば何食べても反応薄いから嬉しいわ~!後でレシピ紙に書いておくわね♪」
「ありがとうございます!あ、っていうか手伝います!!」
「あら、その気持ちだけで充分よぉ。早くお風呂入っちゃいなさい」
「・・・はい!じゃあお風呂入ってきます」
嬉しいな♪後でミズキにも作ってあげよう!・・・ミズキ。ちゃんとご飯食べてるかな・・・。
少しぬるめの温度でシャワーを浴びてクールダウンです。
ミズキの身体は細身だけど、部屋にダンベルとか置いてあるので鍛えているんでしょうか、程よい筋肉がついています。
最初こそ弟とはいえ、殿方の身体を見たり触ったりするのに抵抗がありましたが、慣れって恐ろしいですよね。
もはや弟のアレ位ではうろたえませんからね。今は・・・自分の一部ですしっ。
はっ!毎朝の無意識のアレ、隼斗くんに見られたら死ねるんですけど!!
ど、どうしよう!今から帰る・・・?で、でも、ミズキが・・・。
「おーい、生きてる?もうかれこれ30分以上経ってるけど」
「はっ!!わ、わ、今出ましゅ!!」
か、咬んじゃったよ!そ、そんなに入ってたっけ?
ガラッとお風呂のドアを開けた先には隼斗くんが丁度Tシャツを脱いでいる所でした。
「はぅっ!?」
いや、ミズキの身体だから見られてもどってことないのかもしれませんが、もはや羞恥心がMAXでありんす!
ましてや隼斗くんの生着替えなど言語道断でごわす!!
「汗かいちゃったから俺も早くシャワー浴びたくてさ」
「せ、拙者向こう向いて着替えるので、気兼ねなく着替えてたもれ!!」
「(拙者・・・たもれ・・・ププッ・・・可愛いなぁ)見てもいいよ?」
「ふぁっ!?いや、ちょっともう勘弁してくださいよ、隼斗さん・・・。アッシ、こういうの慣れてないもんでね、へへっ。それじゃぁ、アッシ、着替え終わりやしたんでお先に失礼しやす!!!」
「ブハッ!ミサキちゃんのキャラ!アハハハハッ」
隼斗くんの笑い、頂きました!
ってか、自分でも何を言っているかわかりませんでしたが、私は急いで隼斗くんの部屋に戻りました。
むぅぅ、部屋も、服も全部隼斗くんの匂いでクラクラします。
私は隼斗くんのベッドにもたれ掛かるようにして目を瞑りました。
目を瞑ると余計に隼斗くんの匂いが増し、私の頭を痺れさせます。ヤバいです・・・。
急速で蕾を開かせられそうで・・・。ヤバ・・・い・・・。
「ミサキちゃーん、お待たせ・・・って、寝てるね」
隼斗くん?ん、眠くて目が開けられない。
「無防備だなぁ。今日は色々あって疲れたよね・・・。ゆっくりおやすみ」
一瞬身体が浮いたような感覚がした後に、お布団のふわっという感触があたりました。
「ん・・・、はや・・・とく・・・ん」
「!・・・参ったなぁ。俺、こんなにもミサキちゃんが好きだったんだ・・・耐えろ、俺!」
隼斗くんの匂いに包まれて、安心するなぁ。あったかいなぁ・・・。
朝の光で目が覚めた私。
ん・・・。まぶし・・・。
はっ!私寝ちゃってたんだ!ガバっと跳ね起きて初めて自分がベッドで寝ていた事に気付きました。
は、隼斗くんのベッドで寝ちゃってた・・・!
じゃなくて!隼斗くん、わざわざ運んでくれたんだ。
ベッドの下で寝ている隼斗くんを見て、キュンとなりました。
私はそっと、隼斗くんの金色の髪の毛に触れてみました。
サラサラで猫毛かな。朝日に照らされ、キラキラと光っています。
ふ、と鏡に映った私と隼斗くんを見て、先程までふわふわと風船みたいに浮いて、幸せだった気持ちが急にしぼんでいきました。
男の子、同士。その事実がズキンと胸を刺しました。
今まで頭で分かっているつもりでしたが、実際に鏡に映った私達を見て、全然理解していなかった事に気付きました。
隼斗くんは私がミズキの身体でも、ずっと言葉で態度で私を好きだと伝えてくれていたけど、私は・・・一生ミズキのままで。
だから、隼斗くんの好意を受け入れちゃダメだし、甘えちゃダメだった。
私は男の子。・・・俺は男の子。強くあらねばならない。
“女の子だったミサキ”はもう居ない。
これからは、ミズキとして生きていかなくちゃ。
だから
ごめんね。隼斗くん。ミサキを好きだと言ってくれて、大切にしてくれて、ありがとう。
女の子としての最初で最後の恋・・・。一瞬でも両想いになれただけで、それだけで私、生きていける。
沙都子、あのね。
私の恋心は開いた瞬間に、散っちゃったよ。
私は寝ている隼斗くんのほっぺにさよならのキスをして、制服に着替えて家に帰りました。
家の中に入ると、ミズキはリビングのソファーでうずくまっていました。
部屋の中は昨日私が朝出かけた時と変わっていません。
ミズキも制服のままだし、何も食べてないみたいです。
私はミズキの前に立って、ミズキを呼びました。
「ミズキ、ただいま」
ミズキは顔をゆっくりと上げて、私を見るなりガバっと抱きついてきました。
「ミサキ!ミサキ・・・ッ!!」
「ちょっ、ミズキ、痛い痛い」
「ごめっ・・・」
全力でしがみつかれたら痛いです。どうにかミズキを宥めて、私はミズキの隣に座りました。
それでもミズキは私にしがみついたままです。
「ミサキ、ごめん。俺・・・っ」
「ミズキ・・・。私もバカって言っちゃってごめんね」
「ミサキがもう帰ってこないかもって思ったら俺・・・俺・・・!!」
「大丈夫だよ。俺はどこにも行かないから」
「ミサ・・・キ?」
「俺、ミズキになるって決めたから。だから・・・ミズキもミサキとして、ちゃんと生きて!」
「ミサキ・・・!ごめん!ごめ・・・ん。あの時俺がミサキを殺さなけりゃこんな・・・ミサキを泣かせる事にならなかったのにな・・・」
ミズキが私の頬を伝う涙を指先で拭ってくれました。
「責任取りてぇけど、責任取ってやりてぇけど・・・俺は・・・今の俺は!・・・ミサキなんだよ。ミズキにとって姉でしかねぇんだよ!こんなにもミサキの事がっ・・・好きなのに・・・っ!血なんて繋がってなきゃ良かったのに!!」
ミズキ・・・。
あの時の、“一度も姉弟と思った事は無い”はこういう事だったの?
「ありがとうミズキ。でも、ごめん。アタ・・・俺は、一生誰も好きになんてならないから」
「ミサキ・・・」
もう、決めた。女の子としてしか・・・男の人しか人を好きになれないなら、恋心なんて要らない---。
今回もお読みくださり、有難う御座いました(^^)