アタシの気持ち
夕日が沈む土手で私が沙都子にお願いした事、それは学校でのミズキのフォローでした。
私が学校が楽しくなったのは友達という存在があったから。
だから、ミズキも沙都子が居れば楽しくはならないかも知れないけど、凄く気が楽になる筈だと思います。
事情を知っている人が居る、それだけでどんなに心が救われるか。ミズキにもそれを分かってもらいたいのです。
ピロリローン
あ、隼斗くんからメッセージです。
『もう帰った?帰ってないなら送ってくよ。女の子二人じゃ危険だからね』
「・・・マメな殿方ですのね。傍目から見ればアタクシとミサキは可愛らしいカップルにしか見えないと思いますけど」
「そ、そうだよね!アタシが襲われる事はまず無いよね」
『私がちゃんと沙都子を送っていくから大丈夫だよ。わざわざありがとう』
ピロリローン
『ダメ。俺が心配なの。お願いだから送らせて』
「ふふ、ミサキの事本当に好きなんですのね」
「えっ!?う、ううん。隼斗くんは、皆に優しいの」
「とりあえず、諦めなさそうだから送って貰いましょうよ」
「わ、わかった」
『カラオケボックス近くの土手に居ます。工場の裏手だよ』
ピロリローン
『了解!マッハで行くね!』
「アハハ、返事が滅茶苦茶早いですわね」
「沙都子、どうしよう。こんな何気ないやり取りが嬉しいよ・・・」
「うん。ミサキの大事な大事な気持ちですわね」
「隼斗くんを思うと、胸が痛くなる時があるの」
「急がなくていいのですわ。多分ミサキのその気持ちは今は小さな小さな蕾ですの。ゆっくり大切に育てて、花が咲いた時。その時に分かるのですわ。その気持ちが何なのか」
「アタシの、大事な気持ち・・・。沙都子ぉっ!今日は、沙都子に会えて本当に良かった!何かお礼がしたいんだけど」
「そうですわね・・・。今度の日曜日にアタクシとデート、で手を打ちますわ」
「デート?」
「そうですわ。デートと言う名の気分転換ですわ!女の子同士思い切り遊びましょう」
「それは!お礼なのにアタシが嬉しい!」
「あ、居た居た!何なに?なんか話が盛り上がってるみたいだね?」
「「内緒♪」ですわ」
「えぇ〜?」
マッハで行くねって言ってくれた通り、本当に走ってきてくれたみたいで肩が上下しています。
「隼斗くん、汗、これで拭いて」
「わっ、めっちゃ汗かいてる!なんか必死って感じで格好悪いな、俺」
「そんなこと無いよ、走ってきてくれてありがとう」
「ミサキちゃん・・・。あぁー、ミサキちゃんの笑顔で走ってきた疲れも吹っ飛ぶわ!」
「・・・アタクシ、お邪魔じゃないかしら?」
「えっ?沙都子っ?邪魔なんかじゃないよっ」
「そうだよ、沙都子ちゃんはミサキちゃんの大切なオトモダチだからね。さ、帰ろう」
帰っている間隼斗くんは、私達の後から守る様に歩いてくれています。
最初に沙都子の家に着きました。
沙都子の家は代々医系のお家柄で、お父様は県内屈指のエスカレーター式の私立校の理事長をしており生粋のお嬢様です。
沙都子は、幼少期よりお父様が理事長を務める共学校を嫌がり私と同じ聖スィーティリアに通っています。
なので、勿論お家だって立派なお屋敷なんです。
「うわー、このお屋敷、沙都子ちゃんの家だったんだ!」
「ふふ、あなたの送りが無くても全然大丈夫だったのですけれど、送ってくださってありがとう」
「どういたしまして」
「明日からもミサキを宜しくお願いしますね」
「いやいや、こちらこそ!」
なんだか、保護者同士のやり取りみたい。
「それでは、ミサキ。日曜日楽しみにしてますわ」
「うん、アタシも。また連絡するね!」
沙都子は暫く門の前で私達に手を振ったあと、大きなお屋敷に入っていきました。
再び隼斗くんと帰2人で帰路に着きましたが、さっきのカラオケボックスでの事が引っかかってしまって足取りが重くなっています。
ミズキ・・・。バカって言っちゃったのは悪いと思っているけど、アタシの、「壱乃葉に通いたい」って気持ちを『くだらない理由』って言った事は許せないよ・・・。
「すっかり暗くなっちゃったね」
「うん・・・」
「家に帰りたくない?」
「う・・・、ミズキとうまく話せるかどうか・・・」
「だったらさ、家に泊まりに来ない?」
「えっ!?」
「大丈夫、ちゃんと家には家族が居るから。ミズキはしょっちゅう家に泊まってるから顔パスだし」
「わー!ミズキがいつもお世話になっております」
「いえいえ、ミズキが家に招いてくれないからいつも俺ん家になるだけだからさ。あ、ミズキには俺が連絡しとくよ」
「え?うーん・・・」
いいのかな?外見がミズキだから大丈夫かな?
でも、中身は女の子だし・・・。でも、ミズキには会いたくないし・・・。うー、こうしてデモデモ言っててもどうにもならないよね!
「・・・行く」
「うん。じゃぁ、ミズキに連絡しとくね」
初めて行く、男の子の家・・・しかもお泊り。ママが聞いたら卒倒しそうだけど、私は今はミズキの身体。い、いいよね?
隼斗くんの家は、我が家からとても近い所でした。
まぁ、同じ学区内ですからそんなに遠くは無いとは思っていましたが。
シンプルな外観で、お庭もよく手入れされているし、玄関口もとても綺麗なお家です、
「たっだいまー」
「お帰り〜。あら、ミズキくんもおかえり」
「あ、えと。タダイマです。お邪魔します・・・」
「夕飯部屋で食うわ」
「はいはい。後で取りに来なね」
隼斗くんのお母さんはとても美人で優しそうな雰囲気の方でした。隼斗くんはお母さん似ですかね。
ミズキ以外の人におかえりを言ってもらうのは久々です。
なんというか、本当に顔パスでした。ご迷惑じゃないといいのですが。
「ここ、俺の部屋。好きなとこに座って待ってて」
隼斗くんの部屋は黒とグレーで纏められていて、なんか大人っぽいお部屋でした。・・・隼斗くんのつけてる香水の香りに混じって、ほんのりタバコの匂いがします。隼斗くん、タバコ吸ってるのかな・・・。
私は中央に置かれたミニテーブルの脇に座りました。なんか、正座してしまう・・・。
ど、どうしましょう。ここに来て緊張MAXなんですけど。
「おっまたせ〜」
「ひゃ、ひゃいっ!」
ビクゥッてなってしまいました。
「あっははは!ひゃいっ!って(笑)そんなに緊張しなくても、とって食べたり・・・しないよ。多分」
「た、た、多分て!!」
「あははっ。はい、夕食。パスタとサラダだけど」
「わぁ、美味しそう!私外食以外で誰かが作ったもの食べるの久しぶり!」
「そっか、ご両親はアメリカなんだよね?」
「うん。留年したらアメリカだから、何としても回避しなくちゃ」
「ミズキ単位ヤバイもんね」
「うん、では!いただきまーす」
隼斗くんのお母さんが作ってくれたパスタは、ピリッと辛味のあるトマトと茄子のパスタでした。
「おっいしぃぃぃ!わぁ。これ後で教わりたいな!」
「おふくろ、喜ぶよ」
「んー、美味しくて幸せ〜♪」
ふと、気付くと隼斗くんがこちらをずっと見ている事に気付きました。
「な、な、な、なにかな?」
「んー、美味しいものを食べて幸せなミサキちゃんを見て幸せな俺♪」
「も、もう!隼斗くんはいつも恥ずかしい事をさらっと言うの、ズルい」
「ミサキちゃんに、ちゃんと俺の気持ち知ってほしいし」
「〜〜〜もう!アタシばっかり恥ずかしいもん」
「俺も、ドキドキしてんだけど、ホラ」
隼斗くんは私の手を取って、自分の胸にあてました。
ドッドッドッドッドッ
本当だ・・・。脈が早い・・・けど、これは隼斗くんのなのか、それとも自分のなのか。
「ミサキちゃん・・・」
隼斗くんの顔が、近づいてくる・・・!
思わずギュッと目を瞑りましたが、キスされる事はありませんでした。
そぉーっと目を開けると、真っ赤な顔をした隼斗くんが居ました。
「や、さすがに嫌がられるかなって思ったら、ミサキちゃん目を瞑るからっ!ここでキスしたら俺、止まらなくなっちゃいそう・・・」
隼斗くんが私からパッと離れました。
「“何もしない”って言ったからには、約束を守らなくちゃね」
「隼斗くん・・・」
「ゆっくりでいいから。ミサキちゃんが俺の事、好きになってくれるまで、待つよ」
『ゆっくり』。沙都子も言っていたな。今、私の蕾はどれくらいかな?
心臓がバクバクしてるのは、男性に免疫が無いせい?それとも・・・私も隼斗くんの事・・・。
今回もお読みくださり、有難う御座いました(^^)