男の子、女の子
目が覚めたら全部夢でした。
って事にはなりませんでした。
目が覚めてもやっぱりミズキの身体のまま。
はぁ。自分が階段から落ちて死ぬ所からもう夢であったらよかったのに・・・。
ムクリと起きて、下半身の違和感に気付く。
ん?布団をめくると下半身が盛り上がっている事に気付きました。こ、これって・・・・・・。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
何これっ、何これっ!?
「どうした!?ミサキ!?」
私の悲鳴を聞いて、ミズキが部屋に駆け込んで来ました。
「ミズキィ・・・これ・・・何かの病気?」
「え?・・・ってあぁ〜。これは病気じゃなくて生理現象だよ。トイレ行きゃおさまるから・・・」
「えぇ・・・?」
ミズキは男はそんなもんだって言いましたが、毎朝こんな事になるのでしょうか?うぇぇぇ。
気を取り直して私はいつもの様に朝食を作って食卓に並べました。
「俺が飯作ってんの見るのはなんとも言えねぇな・・・」
「このままの姿で生きてかなきゃならないなら、ミズキも料理覚えなくちゃだよ。お嫁さんになれないよ」
「ヤローのとこに嫁になんて行くわけねぇだろーが!!」
ミズキが本気で否定しました。そうよね、そうなったら精神的にはBL展開よね・・・。でもミズキは男子校だから可能性は無きにしも・・・ってすみません私若干腐女子入ってます。なんせずっと乙女の園の中に居たもので。弟以外とは殿方と全く接点が無いので、殿方というものは、漫画とかの影響でファンタジーなものだと思っていました。でもなぁ、ミズキの通う壱乃葉高校はヤンキーの巣窟だから、そんな展開になったら嫌だなぁ。
「・・・なぁ。ミサキ。何か腹痛ぇんだけど。ここんとこ。トイレ行っても腹壊してるわけじゃねぇみたいだし」
ミズキは下腹部をさすっています。そんなとこ人前でさすらないでぇっ!
しかし、ミズキは私の身体でトイレに行くのに抵抗が無いのかな・・・。
「・・・ぁっ!・・・もしかして」
私は慌てて部屋に手帳を取りに行きました。手帳を開いて前回の生理日を確認して愕然としました。
そろそろ、生理が来る・・・。なんてタイミングなの・・・。
でも遅かれ早かれこうなる事だし・・・。結構アレ、グロいからミズキ卒倒しないといいんだけど・・・。
っていうか、弟に保健体育みたいな事教えなくちゃいけない日が来るとは思いませんでした。
はぁぁぁぁ。気が重い。
でも教えないで大変な目に合うのは可哀想だし。
私は大きな溜め息を吐きながらナプキンを持ってミズキの居るダイニングまで戻りました。
「いくらミズキが男の子でも、女の子には毎月生理が来るって事、知ってるよね?で、そろそろ私生理が来るの。生理中はお腹が痛くなったり頭痛やめまい、吐き気なんかもあったりするの」
「ちょっ、ちょっと待て!えっ?///」
「大事なことだから恥ずかしがらないで聞いて!でね、辛かったら学校や体育の時間お休みしていいから」
「お・・・おぅ」
「急に来ちゃったら大変だから、暫くこれ、ナプキン下着につけて生活して。ここをこうすると、こうなるから、このままこう・・・。わかった?」
「う、うぁぁぁぁぁ!!ダメだ!なんか聞いちゃいけねぇ事聞いてるみてぇで・・・!」
ミズキが顔を真っ赤にして勘弁してくれってジェスチャーをしています。
「・・・そうよね。いきなり言われてもよね。でも、これしないと大変な事になっちゃうから・・・」
「・・・ぅ・・・善処するっ!」
本当に、ドラマや漫画みたいに綺麗なとこだけ切り取って生活出来たらいいんだけど。年頃の男女の入れ替わりって凄く大変です。
朝食を食べ終えた私達はそれぞれの学校に休みの電話を入れ、リビングで作戦会議をする事にしました。
テーブルの上に置かれたアルバムや剥き出しの写真、連絡網等広げ、お互い仲の良い友達や学校の先生とかを教えあい、どうしようも無くなったら【頭をぶつけた事による記憶喪失モード発動】で切り抜ける作戦まで考えました。こればっかりは本当に記憶が無いのだから演技ではなく素でいけるだろうという事です。
ふと、私は1枚の写真に目が留まりました。
「あれ?これ隼斗くんだよね?わぁ、あんま変わらないね!高校も同じなの?そういや最近家に遊びに来ないね?」
「アイツは今バリバリのヤンキーだからな。家に連れてきたらミサキが怖がるだろ・・・あっ!」
「ん?」
慌てた様に口を手で覆う仕草をしたミズキ。まるで言うつもりは無かった事を言っちゃったって感じでバツの悪そうな顔をしています。
もしかしてミズキが良くない友達とつるんでいるのに、一回も家に連れて来ないのは私を思っての事だったのかな?さりげなく私の知らないトコで私の為に動いてくれてる所は昔から変わらないね。
しかし、ヤンキー・・・。あの学校に通っている生徒はもれなく、揃いも揃って見た目が怖いんですよね!
「あ、3年に諒輔兄ちゃん居るけど学校じゃあんま接点がねぇなぁ」
「えっ!本当?って諒助兄ちゃんもヤンキーなの?」
「や、諒輔兄ちゃんは普通な感じだけどな。でも見た目じゃわかんねぇからな」
諒輔兄ちゃんは私達の幼馴染で小学校5年生まではよく一緒に遊んでいたのだけど、諒輔兄ちゃんが中学に上がるのと同時に隣の学区に引っ越していってしまってからは疎遠になっていた。
諒輔兄ちゃんは読書が好きで、頭が良くて、優しくて、格好よくて。思えば私の初恋は諒輔兄ちゃんかもしれない・・・。
諒輔兄ちゃんが居るならあの学校に通うのもちょっとは悪くないかもって思った私はゲンキンですかね。
「なぁ、ミサキ・・・。やっぱ心配なんだけど。ミサキが俺の学校通うの。見た目は俺でも中身はミサキだからさ。最悪ガッコ辞めてもいいぜ?」
「何言ってるの!それはダメ!いくらヤンキー校でも辞めるのはダメ!お父さんとお母さんに約束したでしょ!何があっても高校は必ず卒業する事って!高校辞めたらアタシはアメリカ行かなくちゃいけないんだからね?」
「う・・・。そうだった」
私達の両親は仕事の関係でアメリカに居ます。私達が日本に残って二人暮らしする条件は、『高校は必ず卒業する事』でした。遊び呆けて留年や退学などした場合は即アメリカの両親と一緒に暮らすって事になっています。
昨夜みたいな大惨事があった場合はどうなっていた事やら・・・。この状況はあまり手放しでは喜べませんが、生き返る事が出来て両親に要らぬ心配と迷惑をかける事が回避出来たという事だけでもあの天使に感謝しないとですね。
「あ、スマホも交換しとかないとだね・・・。はい」
「お、俺のはちょっと待って?・・・えと、これとこれは削除・・・。ん!」
男の子だから色々見られたくないものがあったのかしら。
「ミズキ、彼女居ないの?女の子から連絡来たりしない?」
「ばっ、ばか!居る訳ねぇだろ!そ、そっちこそ居るのか?かっ・・・彼氏とか」
「居ないよー。居たら真っ先にミズキに紹介するってー。今も昔も私の傍に居る異性はミズキしか居ないよー」
「そっ、そうかっ!良かった///」
あ、自分で言っててちょっと切なくなりました。唯一仲のいい異性が自分の弟しか居ないって・・・。
でも、私に彼氏が居ないと知ったミズキが、なんだか嬉しそうにしているのを見たら、まぁいっか!って気持ちになりました。お姉ちゃんが彼氏を作ったら仲間はずれにされた気分になって寂しくなっちゃうもんね。
ふふ。ミズキは本当に寂しがりやさんなんだから。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございます┏○ペコッ