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今後の方針

 




 途中、子供達に囲まれながらも、パッグさんに教えてもらった宿屋に到着した。

 名前は『紅樹亭』。

 木造二階建てで、村の中では立派な部類に入る大きさの建物だ。

 中に入る。一階は受付をするカウンターと食堂になっているようだ。

 掃除していたらしい恰幅のいい中年女性が俺に気づいて、声をかけてきた。


「あらあら、お客さんが来るなんて珍しいねぇ。あたしは女将のティルト。泊まりかい?」


 やっぱり、旅人は珍しいらしい。大丈夫だと思うけど一応聞いておこうっと。


「レントです。空いてますか?」

「空いてるよ。本来なら朝夕の二食付きで大銅貨一枚なんだけど、最近は不作続きでね。宿に回せる量が少ないんだ。だから悪いけど、値段はそのままで食事は朝一回だけになっちゃうんだけどいいかい?」


 ティルトさんは申し訳なさそうに確認してくる。

 正直な人だな、と思った。

 俺は、この世界の宿の相場を知らない。

 だから、安いのか、高いのかすら分からない。

 初めから一食付き大銅貨一枚と言われたって疑いすらしなかったと思う。

 この世界の人だって、初めからその値段なら「高いな」くらいしか思わないんじゃないだろうか。たぶん、だけど。

 言わなければ分からないのに、わざわざ教えてくれたティルトさんはきっと良い人なんだろうな。

 幸い、俺には【店舗】がある。そのおかげで、食事には困らないから問題ない。


「構いませんよ。じゃあ、三日分でお願いします」


 ポケットに手を入れ、道具箱アイテムボックスから500円玉サイズの銅貨を三枚取り出し、ティルトさんに渡す。なるほど、これが大銅貨か。お金についても後で確認しないとな。

 わざわざポケットから出したのは、道具箱アイテムボックスの価値が分からないからだ。

 もし、希少価値の高いスキルなら、いらぬトラブルの元になりかねない。慎重にいこう。


「はい、確かに。これが鍵だ。部屋は二階の角部屋だよ。ゆっくりしていっておくれ」

「ありがとうございます。あの、ここってお風呂ありますか?」


 これ、大事。

 日本人にとって風呂は命の洗濯。

 風呂好きの俺にとっては特に重要。

 だけど、俺は知っている。

 異世界転移モノにおいて、風呂に入れるのは貴族とか一部の金持ちだけだということを。

 そして、案の定ーー。


「風呂かい?そんな高価なもん、ウチにはないよ。持ってるのは貴族様くらいじゃないかねぇ。有料だけど、お湯が必要なら後で娘に持って行かせるよ」


 という俺にとっては絶望的なお言葉をいただきました。

 いや、魔法でも綺麗にはできるよ?

 でも、物足りない‼︎

 水が貴重なこの世界では、贅沢だって言われてもたっぷりとお湯をはった浴槽に浸かりたい。

 仕方ないから、しばらくは魔法で綺麗にするけど。

 いつか、絶対に風呂入ってやる‼︎

 と決意したわけだが。

 この時、俺は忘れていた。

 ものすごく単純で、重要なことを。



 それはさておき。

 丁寧にお湯を断った俺は、借りた部屋に向かう。

 部屋の中にはベッドが一つ置いてあるだけでかなりシンプルだ。

 そのベッドにしても、木枠に藁みたいな草を敷き詰めて布を被せただけの簡単なものだった。

 まぁ、昔本で読んだ中世ヨーロッパの話だと、基本雑魚寝でベッドがあるだけでも高級な方だって書いてあったし、『清潔』と『駆除』の魔法でもかければノミとかの心配もないだろ。


「『駆除』、『清潔』」


 魔法を唱えるとベッドが淡い光に包まれた。

 よし、綺麗になった。

 布が少しごわついているけど、日本ではないのだ。贅沢は言うまい。

 ベッドに寝転がり、今後について考える。

 ルピス村しか知らないから、確実にとは言えないけど、ここは中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だと思われる。だとすれば、ラノベで得た知識が役に立つかもしれない。

 まず、勇者と戦うのは論外。

 はっきり言って面倒くさい。

 特にやらなきゃいけないことはないし、のんびりと好きな事をして平穏に暮らせればそれでいいと思っている。

 となれば、魔王のステータスの高さを生かして冒険者になるか、【店舗】スキルを使って行商人、ってのもいいな。どうしよう。


 いや、待てよ。どっちか一つだけ選ぶんじゃなくて、兼業すれば良いんじゃね?

 メイン→行商人、サブ→冒険者みたいに。

 とりあえず、明日は雑貨屋に行ってみよう。

 大きな街とか人が多くいる場所に行く前に、この世界の常識を知っておきたい。


 俺は【店舗】を開き、「スーパーヤスイ」を選択する。

 食品のカテゴリーにある、5キロの塩を10袋購入する。

 支払いはお金と魔力の併用払いでやってみた。

 その結果、特にチャージする必要はなく、自動で差し引かれる事が分かった。


 ちなみに、はじめから持っていたお金は俺の全財産な。

 塩を鑑定してみる。


【食塩】

 日本で売られている一般的な塩。

 平民でもなんとか手に入る調味料。

 売る際の相場は1kg当たり大銅貨一枚。


 へえ、売る時の相場も教えてくれるのか。楽でいいな。

 え?塩ってそんなに高いの⁈

 宿代と同じじゃん‼︎

 え、マジで。

 じゃあ、定番商材の砂糖とか胡椒は?

 塩同様、購入して鑑定してみた。


【白砂糖】

 日本で売られている一般的な砂糖。

 最近、南のレイスネア大陸から輸入された交易品。

 出回っている量が少なく、まだ高い。

 相場は1kg当たり小銀貨一枚。


【胡椒】

 白胡椒と黒胡椒がある。

 出回っているのは黒胡椒の方。

 超がつく高級品。

 相場は10g当たり小金貨一枚。



 う〜ん、金貨や銀貨だし、高級品ってなってるから高いんだろうけど、貨幣価値が分からないからどのくらいなのか想像出来ない。

 というわけで調べてみた。鑑定様様だな。


 通貨単位はリル。


 1リル=鉄貨1枚=約10円

 10リル=小銅貨1枚=約100円

 100リル=大銅貨1枚=約1000円


 という風に10枚で一つ上の硬貨と交換できる。

 硬貨は鉄貨、小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨、白金貨、竜金貨と続く。

 硬貨の形は大陸ごとに違うが、価値は共通。


 確かに、高いな。砂糖も胡椒などの香辛料も日本では数百円で買うことができる。

 売れば思わず顔がにやけてしまうくらい儲けることができるだろうな。

 普通ならよし、売ろう‼︎となるに違いない。


「楽に稼げるのはいいけど、これ絶対に目立つよな?」


 問題はそこだ。

 大金は得たいが、目立ちたくはない。

 目立ったところでロクなことはない。目をつけられると後が厄介だ。

 今の所はお金に困っていないし、野菜とか果物とか食材を売ることにしよう。食糧難みたいだし。

 売るものは明日買うかな。

 さて、明日の為に今日はもう休もう。


「おやすみなさい」


 俺はそのまま、眠りについた。

































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