2 魔法練習とルピス村
さて、腹も満たされたわけだし、魔法の練習でもするとしよう。
街や村を目指すとしても道中が安全であるとは限らない。
魔物は……いるか分からないが、獣や盗賊の類いはいるだろう。
日本にいる時とは違う。自衛の為にも戦う手段はあった方がいい。
この世界で魔法を使う手順は
魔力を集中
↓
現象をイメージ
↓
呪文詠唱
↓
『鍵』となる言葉
である。
『鍵』となる言葉は『フャイヤーボール』とかだな。
威力は込めた魔力量に比例して大きくなる。
魔法ごとに最低魔力量が決まっていて下回ると発動しない。
イメージさえしっかりしていれば、無詠唱も可能。
ただ、そのぶん制御も難しくなって暴走しやすくなる。
ちなみに俺は無詠唱だ。
俺の場合、日本でアニメやゲーム、映画といった映像で見ることが出来るため、現象をイメージしやすい。
魔法も安定するし、気分も上がるから『鍵』となる言葉は言うけど。
まずは地属性魔法。
目の前に壁を作るイメージで。
『地盾』
目の前に土壁が出現する。
よし、無事成功。
次は槍をイメージ。これも問題なし。
思いつく限り試してみよう。
指先を蝋燭に見立てて火を灯したり、火の玉や鳥を作って火属性魔法を。
水の球や竜、凍らせて氷の槍を作ったり、風の刃や雷の槍で他の属性の魔法も練習した。
その結果、わかった事。
この世界の魔法ってマジ万能。お湯も沸かせるし、温風出せばドライヤーの代わりになる。
イメージして発動させられるだけの魔力さえあればいい。
治癒魔法も使えたし、魔力による身体強化も可能。
あと、『鍵』となる言葉はイメージに沿っているならなんでもいい事も分かった。
例をあげるなら。
汚れを落としてスッキリする、という事をイメージすれば、『清潔』でも『洗濯』でも同様に綺麗になる。
うん、何とかなりそうだ。
これで安心して旅ができるな。
一息着いてから、西に向かって歩き出す。
身体強化の練習をしていた時にジャンプしたら村らしきものを見つけたのだ。
練習も兼ねて強化しながら歩けば日が暮れるまでには辿り着けるだろう。
「さて、もうちょい、頑張るか」
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数時間後、やっと村の近くまでこれた。
今俺がいる場所は小高い丘になっていて、村の様子を見ることが出来る。
村は丸太で作られた柵で囲まれていて、入り口は一ヵ所だけ。そこには最低限の防具を身につけて槍を持った門番らしき男が一人、ヒマそうに立っている。
顔立ちは鼻が高く、彫りの深い西洋人ぽい感じで、服装はだいぶ着古した感じのシャツとズボン。
ちなみに俺の服装は白のシャツと黒のズボン、黒のローブ。ローブ以外はおそらく日本で着てた私物だと思う。
ローブの質もいいし、着てて違和感はないけど。
おかしくない……よな?
深く考えても分からないので、やめた。
さっさと村に行こう。
丘を下り、村に近づくと門番が俺に気づいて、声をかけてきた。
四十代前半くらいの濃い茶髪のおっさんだ。
「この村に人が来るなんて珍しいな。にいさん、旅人かい?」
「はい。気ままな一人旅なんですが、途中で道に迷いまして」
好印象を持たれるように、笑顔で出来るだけ丁寧に答える。
「それは、災難だったな。仕事なんで一応聞くが、村には何の用だい?」
この質問はくると思ってた。
事前に考えていた答えを返す。
「一晩泊めていただけると助かります」
「なるほど。そろそろ日が暮れるしな。まあ、何にもないど田舎の村だが、宿も雑貨屋もある。ゆっくりして行ってくれ。ようこそ、ルピス村へ。俺は門番のパッグだ」
「レントです。よろしくおねがいします」
パッグさんが良い人でよかった。
来るな、とか言われたら、ヘコむ。
門を通り抜けると、村人達の視線が集まる。
旅人が珍しいのかもしれないな。ちょっと恥ずかしい。
村は農業で生計を立てているのだろうか、畑仕事をしている人が多い。
土壁と木で出来た家に井戸。昔懐かしい風景が広がっている。
子供達は元気に走り回っているし、女性達は井戸端会議の真っ最中。
きっと、ここは良い村だ。そう、思った。