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手に余る勇者冒険録  作者: ベル
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手に余る勇者冒険録

一章  全てはここから間違えた。


 ブ-ブ-。ブーブー。


 幼馴染であるつぐみからの着信だ。


 「もしもし」


 俺は太陽の地球全体を照らす光が眩しく、眠い目を擦る。

 

「かおるっ-遅い。もう二限終わって今野先生怒ってたよ」

 つぐみの声は電話越しでも生命力の強さが滲み出てくるような元気でかわいい声だ。

 

「今ついたけど三限間に合わね-かも。じゃっ」


 まだ話したそうにするつぐみの声を無視して電話を切る。

 校門の前には背丈は俺と同じくらいの百七十センチで髪が少し長い美少年が竹刀を弐本持っていた。中学の頃、ライバルだった早川誠だ。

 

「遅い。何日待たせれば気が済むのだ。金曜の夜から待っていたのだぞ。そこにあるダンボールをマイホームと呼んで暮らしてたのだぞ」


 今日は月曜だぞ。

 誠は持っていた竹刀の片方を俺に向かって投げてきたので、俺はよけた。竹刀が地面に落ちてカコンッと音が鳴る。そして誠の横を小走りで通り過ぎようとしたら誠に肩を強く掴まれる。


 「待つのだ」


 「だからもう剣はしねーって」


 「肩は完治したのだろ。あれほどの才能があればまだ間に合う。また剣の道に励み戦うのだ」


 「もう高二の夏だぜ。遅いだろ。それに・・・・・・」

 俺は暗くなる気持ちを隠せない。


 「興ざめだ。今日は帰るとするのだ」

 誠は落ちている竹刀を拾い、背筋を伸ばし姿勢良く遠ざかっていく。


 ブーブー。


 またつぐみから着信だ。


 「かおるっー、まだ? 三限始まるよ」


 「興ざめだ。今日は帰るとするのだ」


 「なに誠みたいなこと言ってんのよ」


 「じゃっ」


 「ちょっと待ってよ。なんかあったの?」


 ツーツー。

 特に何もない。何もなさすぎる。俺はそこそこ、かなり、ものすごく、十年に一人の逸材レベルで剣道が強かったと自分でも思う。

 でもそれは桃太郎と同じようにどうしようもない昔話の一つになった。

 今の俺は・・・・・・

 つまらない。何をするにしても無駄に思い、ただ働きをしている気分になる。学校にも大して行く意味が見つけられない。

 炎天下の中、学校まで歩いて来て何にもしないで帰るのは労力に見合わず無駄に疲れて癪なのでアイスを買って帰ろう。


 「ありがとうございました」

 平日の昼間からコンビニの店員なんかしてご苦労様です。コンビニから出ると一人の少女が泣いていた。無視するのも気が引けるのでしょうがなく暇つぶしで声をかけた。


 「ちみ、どうしたんだい? 迷子?」

 こういう状況では迷子案内には慣れてるようにかっこよく決めたいが、いざ声をかけようとするとこういう決まり文句しか出てこない。

 少女は返事代わりに俺の服で鼻をかむとアイスを奪って走って逃げた。何が起こったか理解できなかったが、足が動き少女を追いかける。今の時代にこんな昭和なことが起きるのか。


 「まてやー」

 予想以上に少女は速い。


 「見失ったか・・・・・・」

 少女を追うのに必死で気づいたらいつの間にか知らない場所に来ていた。しばらく歩きさまようと小さな公園があったので一休みすることにした。


 「何だ、あれ?」

 公園の中央に何かある。

 臭い。

 そこには絵にかいたようなでっかいまきぐそがあり、まきぐその中央を貫くようにして日本刀のような細い剣が刺さってる。

 これはまさか勇者の剣的な、誰も抜けずにいる的なあれなのか。でも普通、勇者の剣っていったらもっと大きくて、太くて、重そうなものだよな。公園にあるのもおかしい。日本刀は流石に世界観が合わないっていうか・・・・・・


 「ってなんでうんこに刺さってんだぁーーー」

 声に出たツッコミはこれだった。間違ってはないだろう。


 「はい。間違えではないですけど合格ではないです」

 声のしたほうをみると鼻水少女がいた。


 「うわっ。いつからそこに、っていうかなんで心の声読んでんの? なんでツッコミ採点してんの?」


 「私、神なので基本ハイスペックなのです。人の心くらい余裕で読めます」

 少女は誇らしげに手を腰に当てる。


 「じゃ❘神様、この状況での合格のツッコミ見せてくれよ」

 少女の神ごっこに付き合うか。心読んだのもまぐれかたまたまか、偶然だろ。それに何よりツッコミにはそれなりに自信があったのに合格点をもらえないのが腹立つ。


 「いいでしょう」

 少女は大きく深呼吸して続けた。


 「チョコアイスよりバニラアイスのほうが良かったでーす」


 「いやそれツッコミじゃなくて盗み食いしたアイスの感想だろぉー」

 つくづくわけのわからない少女だ。本当に腹立ってくる。


 「まだ神だと信じてませんね」


 当たり前だ。

 「神ごっこしてる暇あるならアイス代寄こせ。俺は今月ピンチだから少女でも遠慮はしないぞ」

 俺は少女を逃がさないように手を伸ばしたのだが、すり抜ける。

 少女の小さい体のどこを触ろうとしてもすり抜ける。

 意味が分からない。まさかこいつ幽霊か。

 俺は四歳のころにサンタさんがお父さんであることを知った時、幽霊くらいでは驚かなくなるくらいの衝撃を受けた。これくらいでは全然驚かないし、体すり抜けることくらいあるよね。幽霊だって自動販売機と同じくらいいるよね。


 「だから神です。どうやら時間がないようです。私の名はショチケツァル。花と愛、喜びを重んじる生命の女神です。あなたの名前を教えてください」

 少女は急に焦りだした。


 「あたりまえのように心を読むのやめてくれないか。俺は風間薫だ」


 「これは三聖剣の一本である天羽々あまのはばきりです。いまから薫さんがこれを抜いて他の世界を救います」

 いや焦りすぎだろ。設定ありきたりでもこういうのはもっと時間かけるもんだろ。あーそういうことか、これ夢だ。夢ならありあり、いいよ、さっさと世界救わなきゃ起きちゃう。魔王じゃなくて俺が。

 夢くらいなら剣を持ってもいいか・・・・・・


 「ついにこの聖剣を抜くものが現われたのですね。貴方こそ真の勇者にふさわしいお方です。大いなる器をもつ勇者よ、世界を救い給え」


 「待てぇーい。まだ聖剣抜いてないしってあれ」

 腰に違和感がある。嫌な予感がする。手を当てて確認すると予感が的中した。腰に刀がぶらさがっている。


 「あのー神様、勇者なるんでせめて勇者になる瞬間、剣を抜くところだけもう一回やらせてもらえませんかね」


 「わかりました。」

 少女はめんどくさそうに両手を上ると手が光って剣がうんこに刺さっている状態に戻った。これが神の力か。


 「もうひとつお願いがあるんですけどいいですか?」


 「何ですか。早くしてください」


 「俺が剣を抜くまでそこの茂みに隠れていてください」


 「これでいいですか?」


 少女は呆れ顔で隠れた。


 「そうです。剣を抜いたら出てきてくださいね」

 男にしかわからないだろう勇者になる瞬間の大事さは。

 準備は整った。皆みててくれよ、俺輝くぜ、夢の中でも。


 「どうしてこんなところに剣が刺さっているんだ」

 少しわざとらしいが気にしない。こういうのはノリと愛嬌だ。うんこに刺さってても気にしない。

 「これはまさか伝説の剣か。感じる、感じるぞ、熱いパトスを」

 剣の前に其れらしく立ち、剣を抜く。

 「おりゃゃ」


 「ついにこの聖剣を抜くものが現れたのですね。貴方こそ真の勇者にふさわしいお方です。大いなる器をもつ勇者よ、世界を救い給え」

 グットタイミングで少女は茂みから出てくる。流石夢の世界。

 少女が両手を天にかざした瞬間、目を開けられない眩い光に包まれ、体が人の理を超えどこか遠くに運ばれる感覚がした。 


 「勇者薫、勇者薫よ」

 少女の声が直接脳に入ってくる。

 「宇宙は私たち神が創り出したものです。私たちは宇宙を四つ創り出しました。それぞれの宇宙は互いに干渉できず平行状態で同じ時間の中にあります。貴方が住んでいたのは其のうちのひとつ第四の宇宙であるアテナです。今から第二の宇宙であるコルンを神が与えし聖剣天羽々あまのはばきりと共に救ってください。第四の勇者よ、貴方に多くの幸あらんことを欲す。

                                                    



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