02 騒動
紀ノ国学園。日本有数の成績を誇るこの学園には中等部と高等部が存在する。
俺はこの学園の高等部1年生。
中等部と高等部は校舎が向かい合っており、つい数ヶ月前まで中等部に通っていた俺は、時々校舎を間違えそうになる。
俺が学園に通うのは、勉強のためではない。もちろん機械のためだ。
中等部で出会った結城とはウマも合うし、結城が金持ちのため、最新の機械をよく触らせてくれるのだ。
今日も最新の機械を持ってくるらしい。
教室に鞄だけ置いて、用務員室に向かう。
この学園には常駐の用務員は居らず、空き部屋になっていたところを使わせてもらっている(結城の力で)。
ドアノブを開くと、鍵は開いている。どうやら結城のほうが先に来ていたようだ。
「おはよう、結――」
挨拶しつつ、ドアを開けて。
・・・・・・白だった。
いや、目の前がではなく、結城の下着の色だ。
「え、あ! 隆也! もう来たの?」
四つんばいになっている結城が、こちらを向く。
「丁度よかった。部品落としちゃって・・・・・・隆也?」
「あ、あぁ」
パンツが丸見えの結城は、それに気がついていないようだ。
――結城 朋。俺の唯一と言っていい女子の友人だ。髪はいつもぼさぼさで、ところどころ髪の毛がはねている。視力が悪いらしく、分厚いレンズの眼鏡をかけており、はっきり言ってダサい。フローラルの香りというよりオイルの香りがしている女の子だ。あまりに無防備すぎて、こうやってパンツが見えてしまうことも時々ある。なんとも心配だ。実家がお金持ちだが、見た目のこともあり、付き合いやすい(なお男受けは悪く、浮ついた話は聞いたことない)。
パンツは出来るだけ意識しないようにして、結城の隣に行く。
「この辺に転がっていったみたいなんだけど」
再び四つんばいになって床を探し始める。
「どんな部品なんだ?」
結城の隣で俺も四つんばいになる。
「えっとねー」
言うが早いか、結城は勢いよく立ち上がる。おかげで再びパンツが見えてしまうが、気にしない。
机から小さな部品を持ってきて。
「これと同じのだよ」
「ずいぶん小さいな。これ見つかるのか?」
大きさでいえば5mmほどだろうか。探すには一苦労しそうだ。
「大丈夫。隆也が見つけるでしょ?」
「俺頼りかよ」
「だって、隆也頼りになるし」
そう言われてしまうと、なにも言えなくなる。
「わかった。何とか探そう」
――30分後、無事に見つけたが、結城が最新の機械をばらばらに分解していたため、組み立てるのに苦労して、時間が無くなっていたのだった。
「気になるのはわかるが、その分解癖なんとかしたほうがいいぞ」
「隆也が来る前には組み立てる予定だったんだよ」
結局最新の機械のお披露目は昼休みに持ち越しになった。
結城と教室に向かいつつ、
「そういえば今日は随分と早く来たんだね。いつもならパソコンいじりでもっと遅く来てたのに」
「そうだな、ちょっと問題があってだな」
結城になんと説明しようか考えていると、いつの間にか教室に着いていた。
「なんていうか、言いづらいから昼休みに話すよ」
「そっか、わかったー」
こういう気の使えるところも結城のいいところだ。
予鈴が鳴り、席につく。俺の席は窓側の後ろ。ちなみに結城は正反対、廊下側の後ろだ。
担任の緒方 茜先生が教室に入ってくるのと同時に、クラス委員長が号令をかける。
「はい、おはようございます」
緒方先生は、まだ教師になって日が浅く、しかし真面目な性格で人気がある(美人というのも拍車をかけていた)。
「今日は、転入生が来ています。」
一瞬で教室内がざわめく。いつもなら緒方先生が注意するのだが、なぜか今日はしない。
「――では、入ってきてください」
入り口から、二人の女生徒が現れて、教室内が静まり返る。
「――なっ」
その二人には見覚えがあった。皆が同じだっただろう。
正確に言えば、皆は一方のみを見知っていて、俺だけは二人とも知っているというか。
「「い、市ノ瀬カンナ!! が、二人!?」」
教室中が騒ぎ出す。
教室に入ってきたのは、市ノ瀬カンナとリナだったのだ。
「あ、隆也さまー」
あとから入ってきたほう、つまりリナが俺に手を振る。
「あ、バカっ・・・・・・」
教室中の視線が俺に向けられる。
「「たかやぁーーーーー!」」
教室中の男子が詰め寄ってくる。女子はきゃーきゃー叫びつつリナとカンナに寄っていく。
教室はカオス状態だった。
俺は男子にもみくちゃにされながら、今までの日常が崩れ去っていくのを感じていた。