01 朝
――夜が明けた。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光が目に沁みる。
時刻は朝の6時。
普段なら爆睡しているだろう。
だが、今日に限っては起きている。というか徹夜だったからな。
「うぅん」
そう、こいつのせいで。
女性に対しての免疫が全くない俺は、女の子が部屋にいるというだけで、ドキドキして大変だった。
俺の住んでいるこのボロアパートは、いわゆる1K。つまり一部屋なのだ。
そしてベッドにはリナが寝ている。
一緒に寝ると言い出したので、無理やりベッドで寝かせて、俺は床で寝ることにしたのだが。案の定眠れなかった。
変なことはしてないぞ? そもそもそんな度胸ないからな。
一晩中ドキドキしていた俺は、寝不足も相まってとてつもなく疲弊していた。
だが、それでも学校に行かねばならない。
制服にすばやく着替える。
ちなみに朝食は取らない派だ。
何気なしにPCデスクに目を向ける。
そこには本体が無くなり、接続されていないモニターと愛用のマウスしかない。
「はぁ、普段なら時間に余裕があるときはパソコンをいじっているのだが」
マウスを持ち上げつつ、独り言。
「私をいじるとか、えっちですね」
不意に後ろから聞こえた声に驚き、マウスを落としそうになる。
いつの間にか背後にはリナが立っていた。
「い、いつの間に起きたんだっ」
「たった今です。マウスの操作に反応して、目が覚めました」
それはまさにパソコンをスリープにしているときにマウスを動かしたときのそれだ。
「そうですよね~。時間があるときは私をいじってハァハァしてますもんね~」
「変な言い方するな!」
ハァハァはしてないぞ。ちょっと気が昂ぶるだけで。
「でも、そうだよな。お前がパソコンだって言うなら、もう『リナ』はカスタマイズ出来ないんだよな」
『リナ』、それは自作パソコンにつけた名前で、正確にはRIN-A168。
「そうでもないですよ? パーツを組み立てるのではなくて、教えるって方法ですけど」
「教える?」
俺の言葉に頷き、
「機械が人間に置き換わった、つまり勉強することで私を高性能に、鍛えることで高速化できます」
それはまるで人間と同じだ。
「なるほどな」
つまりほぼ完全に人間に置き換わったと思ったほうが良いのか。機械を組み立てる、その楽しみが減ったことは残念だが。
「それで、隆也さま。お食事を頂きたいのですが」
動くためにはエネルギーが必要。これは人間も機械も同じだ。
「ああ、適当にあるのを食ってくれ」
「隆也さまは朝食は摂られないのでしたね」
そう言って台所に向かい、
「隆也さま、即席の物しか無いのですが」
「そうだな」
普段はカップ麺か冷凍食品で済ませる。食事の時間すら惜しいからな。
リナはムッとして、
「これでは栄養が偏ってしまいます。今日から私がお食事を用意させていただきます。今は即席で我慢しますが」
女の子(元機械)の手料理という夢のような単語に、ドキッとしつつ、
「料理なんて出来るのか?」
「私のデータベースをなめないでください。インターネットの情報を網羅しているのですから」
と、豊かな胸を張る。
「まあいい。俺は今日は早く行く」
そう言って鞄を持って家を出ようとする。
「もう学校に行かれるのですか?」
「ああ。結城が新しい機械を持ってくるって言ってたからな。早く行かねば」
玄関に向かいつつ、
「そういえばリナ、お前家から出ないよな?」
「え、えーっと」
「まあ家を出てもいいけど、火の元栓くらいは閉じてくれよ。じゃあな」
そう言って家を飛び出した。
俺は新しい機械を見ることにワクワクしてて、リナのことは深く考えていなかったのだった。