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ぱーそなる・こんぴゅーた  作者: キタキツネ
はじまり
1/3

出会い

 機械は最高だ。


 機械と言っても様々な種類があるが、どれも素晴らしいものだ。


 工場などで使われる大型の機械から身近な携帯など小型のものまで全てが良い。


 人間の要求に従って困難な作業も熟す機械たち。素晴らしい。


 特にパソコン、最近はこれの進化がものすごい。


 小型化や高性能化、これにおいては底知れない伸びしろがある。


 俺はパソコンを組み立てるときが至高の時だ。


 様々なパーツを使って自分のパソコンが高性能になっていく、この感動にも似た感覚は何とも言えない。


 そして、ついにこの日が来た。

 ずっと追い続けていた新型パーツ、これが手に入ったのだ。


 純日本製で、日本限定で、それもわずか100個しか生産されていない超レアパーツ。


 処理速度が大幅に向上し、なおかつ学習能力があるため自分の使いやすいパソコンになっていくという。


 しかもこれが無償で使えるとなれば言うことはないだろう。


 無料でパーツが手に入るというイベントがあり、その超高倍率の抽選で選ばれた俺は、一生分の運を使ったかもしれない。


 俺は最高に幸運な男だ。


 さて、前置きはここまでにしよう。


 もう早く使いたくてうずうずしているのだ。


 パーツはすでに組み込み済み。

 あとは電源さえ入れてしまえばいいのだ。


 緊張の一瞬だ。

 電源ボタンに指を添える。


 そして、押し込む。

――バツン。


 部屋の電気が消えた。


「って、ちょーーーーっ!!」


 つい声を上げてしまう。

 夜ということを差し引いても何も見えない。


「マジかよ、停電?」


 スマホを確認する。


 どうやら日本各地で停電が起こっているようだ。


「最悪だ。せっかく新しいパソコンの性能を試そうって時に」


 仕方がない。いつ復旧するか目途が立たないらしいので今日は諦めるか。


 何とかスマホの光をもとにベッドに向かう。


 明日は学校だ。

 のんびりパソコンをいじるのも帰ってきてからとなる。


 ため息を吐きつつ、ベッドに倒れこむとそのまますぐに眠りに落ちていくのだった。





――ごそごそ。

 何かが動くような気配がした。


 が、まどろみの中で俺はそれを特に気にしなかった。


――とっ、とっ、とっ。


 何かが歩くような音。流石に俺は疑問に思う。

 足音が聞こえるはずがない。俺は一人暮らしなのだから。


――ドサッ。

「うわぁぁっ!」

 何かが俺が寝ているベッドに倒れこんできた。思わず飛び起きた。


 相変わらず真っ暗な部屋で、俺はベッドの隅に逃げた。


 相手は動かない。

 

 慣れてきた目はぼんやりと輪郭を捕える。


 大きさ的には人に近い。


(まさか、強盗か? でもベッドに倒れこんできたってことは、違うよな)


 それに動かないということは何かがおかしい。


 そっと、手さぐりで相手の正体を探る。


 ――ふにっ。

 

「!?」


 なにか柔らかめの感触に、思わず手を引く。


 い、今のは……。

(ひ、人なのか? とすると今のは、まさか)


 恐怖心よりも好奇心が勝り、もう一度手を伸ばす。


(今のは、今のはまさか……お、おっ)


 再び触れた瞬間、部屋の電気が点灯する。


 俺の手は見知らぬ女性の……頬に触れていた。


「頬かよっ!」


 一瞬でも女性特有のアレかと思った俺が恥ずかしい。


「う、うぅん」


 不意の声に驚き再びベッドの隅に逃げる。


 改めて横たわる女性に目を向ける。


 女性と表現したが、年齢は俺と同じくらいで16、7といったところだ。


 正直少女と表現したほうがあっているかもしれない。


 顔は今まで見たことのないほどの美少女だ。

 いや、見たことはあるかもしれない。


 俺の大好きなアイドル、市ノ瀬カンナに似ている。


 肩にかかるくらいの長さの黒髪、整った顔。ホクロが無いことなど若干の違いはあるがそっくりだ。


 服装は制服だ。

 それも見覚えがある。


 俺の通う紀ノ国高等学校の制服だ。


 だが、これほどの美少女なら見覚えがないなんてありえない。


(どういうことだ。そもそもどうやってこの部屋に入ったんだ。)


 部屋を見渡すが、寝る前と違いは……


「なっ!? 俺のパソコンが、無い!」


 寝ている美少女を跨いでベッドから降り、PCデスクに駆け寄る。


 モニターはある。だがパソコン本体がない。


 ほかに変わったところはない。何故かパソコンだけがないのだ。


「俺の、俺のパソコンがぁ」


 がっくりと床にへたり込む。

 俺の最高傑作であるパソコン、さらに超希少な最新パーツ・・・・・・


「ふぁーい、呼びましたかぁ」

 背後から声が聞こえて、俺はベッドに寝ていた美少女の存在を思い出す。


 そうだ。パソコンがなくなって女の子が現れた。何か知っているかもしれない。


「おい、お前。俺のパソコンをどうした」


 女の子に詰め寄るが、彼女はぼーっと俺の顔を眺め。


「ですから、呼びましたかと」

「呼んだんじゃない。聞いているんだ。俺のパソコンをどこにやった」


 女の子は少し困った顔をした。


「? ですからここに」


「ここに? どこにもないだろ」


 俺は辺りを見回す。


「あの、私です。私がパソコンです」

「はぁ?」


 私がパソコン? この子は寝ぼけているのだろうか。


「あのな、俺は機械のパソコンを探してる。君は人間で女の子。まったく違う」


「えーっと、製造コード1199002。型番はRIN-A168」

「それ、俺が使っているパソコンのコードと型番だ」


「そうです。そしてあなたの名前は二ノ宮 隆也。パソコンのパスワードはKANNA。あなたの好きな市ノ瀬カンナの名前ですね」

「な、なんでそれを」

「それにカンナさんの画像がたくさん保存されてましたね。あ、でもカンナさん以外の女性ではちょっとエッチなものもありましたね。男の子ですし仕方ないですよね」


 確かに、俺は市ノ瀬カンナの画像をパソコンに保存していたし、秘密フォルダもある。厳重に管理していたはずだが。

 それに俺の名前やパスワードまで知っているなんて、この子は何者なんだ。


「お分かりいただけましたか? 私があなたのパソコンなんだって」

「いやいや。たとえ俺のパソコンの製造コードやパスワード知っていたとしても、君がパソコンだなんてありえないよ。君は人間だし」


「うーん、そうですね。では証拠を見せましょう」


 そう言うと座っていたベッドからデスクに近づく。そしてモニターに触れる。


「ではモニターさん、画面をお願いしますね」


 すると、モニターが点き、いつも通りのデスクトップ画面が表示される。


「え、どういうことだ」

 

 モニターに駆け寄り、接続を確認するが本体に繋ぐはずのコネクタには何も繋がれていない。

 が、マウスを動かすとカーソルは普段と変わらないように動く。


 そして彼女が手を放すと画面は消えた。


「ほ、本当にパソコン、なのか」

「はい。私は隆也さま所有のパソコンです」


 にこやかにそう答える。

 パソコンが人間に、いわゆる擬人化といった感じだ。


「だが、なんで突然こんなことに」

「それは隆也さまが人化パーツを私に組み込んだからです」

「人化パーツ?」


 初めて聞く。そもそも人化ってなんだよ。


「今から約3時間と22分前、あなたは人化パーツを私に組み込みました。そして電力を供給なされたために作動、人化が成されたということです」

「それって、あの限定パーツのことか? あれは性能を向上させるためのパーツであって、そんなこと聞いてないぞ」


「それはそうです。なぜならこれは秘密のプロジェクトですから」


 彼女はそう言うと再びベッドに座る。


「今、機械たちはものすごい進化を続けています。身近ではスマホやパソコン、テレビなどですね。そして機能が特に進化しているのは、人工知能です」


 人工知能、確かにこれの進化は目覚ましい。


「人工知能は私の生みの親です。最新の人工知能が人化パーツを生み出しました。科学だけでは説明のつかない、とても不思議な力ですが」

「そりゃそうだ。機械が人間になるなんて。それに無からそんな柔らかい人肌を生み出すことなんて不可能だ」


 すると彼女は少し頬を染めて。

「私に触ったんですか? 流石は隆也さま。えっちです」

「ちょっ、不可抗力! 何も見えなかったから仕方なかったんだよ」


 まったくの真実ではないが、嘘はついていないぞ。真っ暗で見えなかったし。


「そうですね。確かに無からこの体を生み出すことは普通はできないかもしれません。でも、私はここにいます。これが事実です」


 そうは言っても未だに彼女がパソコンであることは半信半疑なのだが。


「とりあえず君がパソコンかどうかは置いといて、秘密のプロジェクトってなんだ」


「はい。私たちを生み出した人工知能『HARU』は人間だけでは機械を管理し続けることは難しいと判断しました。そこで生活に密接に関わっているパソコンを人化させ、そのパソコンたちの管理能力についてテストをすることにしたのです」


「それが君ってことか」

「はい」


 つまり、人間に代わって機械を管理するものを作ろうとしているわけか。


「なあ、なんで人間には難しいんだ」


「それは、人間の知識には偏りがあるうえに感情的に動きすぎてしまうからです」

「だが、人間の知識や知能を結集させたのが機械なんじゃないのか」

「はい。私たち機械は膨大な情報を処理、保管できます。たとえばインターネット上に存在する情報をすべて知りえる人間はいません。しかし、私たちはそれができるのです」


「まあそうかもしれないが、今までうまくやってきてるぞ」


「『HARU』の計算によれば近いうちあまりよくないことが起きかねないのです」


「よくないこと?」


「はい。人工知能が発達しすぎて、人間の破滅を引き起こす。そういう可能性を危惧したのです」


 なんとも突拍子のない話だ。

 だが、『HARU』といえば日本が生み出した世界最高峰の人工知能だ。俺だって機械オタクの端くれ、その人工知能が優秀であることは理解している。

 その人工知能が人間に警鐘を鳴らし、その上でこうして対策に乗り出している、ということか。


「わかった」

「隆也さま!」


 少女は飛び跳ねるように立ち上がった。


「とりあえず君の話は信じてもいい。まだ君が俺のパソコンかは置いておくが、『HARU』のことは信じよう」

 俺の言葉に少女は微妙な顔をする。


「そこを信じてくださるなら、私がパソコンだって信じてくださいよぉ」

 そう言って、少女は俺にしがみつく。


「っ!」


 俺は咄嗟に少女から離れる。

 機械ばかり相手にしてきたため、女性に対して免疫が全然ないのだ。


「隆也さま?」

 首をかしげる自称パソコン。その見た目は俺の大好きなアイドルそっくりで・・・・・・

 改めて見るとスタイルも良いし、俺の好みにどストライクというか。


「あ、そういうことですか」

「ん?」

 少女はにまにまと笑顔を浮かべる。


「隆也さま、私に見惚れちゃってますね」

「なっ!?」


 急激に体温が高くなったように暑くなり、顔が火照る。


「仕方ないですよ、私がこの家に来てから一度も女性の気配がないですし。それに私の容姿は隆也さまの好む姿になってるはずですから」

「ど、どういうことだ」

「人化する際に、人体を形成するデータはパソコン内のデータを参照したので、見た目は市ノ瀬カンナさんにそっくりで、身体は隆也さまの『閲覧禁止極秘フォルダ』の写真を総合して決めました」


 市ノ瀬カンナは抜群に美少女なのだが、スレンダーな体型なのだ。ゆえにスタイルは俺の極秘フォルダから持ってきた。つまり見た目・スタイルが抜群の美少女が出来上がったということらしい。


「どうですか」

 そう言ってポーズをとる。

 見てる俺が恥ずかしくなって目を逸らした。

「初心ですね~」とか聞こえたが、無視する。


「そ、そうだ。君の事はなんて呼べばいい?」

「え? それはもちろん普段通りでいいですよ」


「普段通り、つまり『リナ』?」

「はいっ!」


 とびっきりの笑顔にドキッとする。

 『リナ』。それは型番RIN-A168から付けた『RINA』である。

 俺は愛着のある機械には名前を付けたりしていた。


「そうか。じゃあよろしく、リナ」

「よろしくお願いします! 隆也さまっ」


 ――こうして、俺とリナ(自称パソコン)との共同生活が始まるのだった。

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