消えてなくなる運命でした
これは悲しい悲しい恋の始まり…
「ごめんね、僕は君を好きになれない」
ずっとずっと片思いしていた
皇子様に告げられた一言。
その一言で
コーデリアの初恋は淡くも終わった。
コーデリア、もとい
ローゼンバル侯爵家の長女、コーデリア・マリア・ローゼンバルと
王国の皇太子ルードリヒは
物心ついたときからの
婚約者であった。
コーデリアは思った。
初めてルードリヒをその瞳に映した日。
あぁなんて素敵な皇子様なのかしらって。
それくらい
ルードリヒは
世間の女子が夢想する
皇子に近い存在だった。
金髪碧眼、整った顔立ち。
文武両道、剣や馬術も
その右に出る者はいなかった。
なんて素敵な方なのかしら
この方の妃になれるなんてなんて至福なのだろう
そう思ったその日から
コーデリアはお妃教育に切磋琢磨した。
心はルードリヒ殿下にふさわしい妃にならなくては
それしかなかった。
ルードリヒはというと
そんなコーデリアの熱っぽい視線に
紳士的な態度を崩さず
うっとりするような声音で告げるのだった
「ねぇコーデリア姫。そんなに無理しなくっていいんだよ。
君と僕はまだお互いをそんなによく知らないじゃない?」
だからゆっくりでいいんだよ、決して無理はしないでね
そう柔らかに困ったように
美しい相貌の目じりを下げて見つめる
皇太子に
コーデリアはうっとりとした気持ちを募らせ言った
「いいえ、これは私がしたくてしているのです」
自分がしたくてしている
その言葉をまざまざと受け入れたのは
コーデリアが16歳になってからだった。
同じ王立学院に
転入してからも
ルードリヒは紳士的な態度を崩さなかった。
一所懸命にルードリヒへの親愛を示そうとするコーデリアに
「そんなに急がなくていいからね。無理してはいけないよ」
と気遣わしげに告げる
コーデリアはそれをルードリヒの紳士的な態度と信じて疑わなかった。
それからあるときに
ルードリヒが執心する後輩があらわれたと
まことしやかに噂が流れた。
伯爵の娘。
噂に聞くと
コーデリアと対照的な
金髪に紫色の瞳をもつ美しい儚げな少女らしい
コーデリアは黒髪に茶色の瞳
伯爵の娘のうわさを聞くや否や
コーデリアは皇子殿下を貶める策略の1つにすぎないと信じ込んだ
だから、伯爵の娘
アーデライトを
王立学園の裏庭に呼び出し
叱り飛ばした
ねぇ、ルードリヒ殿下を貶めてはいけませんよ
彼は私の大切な大切な婚約者なのだから
コーデリアの侍女が彼女の足を引っ掛けるなどの
嫌がらせをしたらしい
翌日コーデリアはルードリヒ殿下から
王宮へと至急の呼び出しを受けた。
コーデリアは心を寄せる婚約者からの呼び出しに心を踊らせた
「何色のドレスがよいかしら?」
「お嬢様にはこちらの菫色のドレスがお似合いです」
うきうきした気持ちで王宮に向かうと
出迎えた皇子つきの近衛兵たちの表情は硬かった。
当のルードリヒは怒ってはいなかったが
とてもとても困った顔をしていた
「殿下、どうされたのですか?!」
目じりに涙を浮かせて尋ねるコーデリアに
皇子は困ったように告げた。
「あんまり思いつめてはいけないよ。君は優しくいないといけないよ」
と。
それから王宮の側近たちはコーデリアに冷たくなったが
ルードリヒは困ったように
それでも彼女が話しかけると答えてくれたから
コーデリアの思考回路は変わらなかった
傍若無人に
コーデリアの婚約者である皇太子殿下に
馴れ馴れしくふるまうアーデライトには苦言を呈したけれど。
周りのコーデリアの友人の令嬢たちも
同じ振る舞いをしたようだけれど
そうして冒頭のシーンにつながる
コーデリアは
優しい優しい愛してやまない
皇子様に告げられたのが
「僕らの婚約は解消しよう」と・・・・・・・・・・