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18もう一匹仲間に加わりました

 彼らにとって危険な存在であるウィラール達を受け入れてくれた二人。

 どもりながら礼を言う皇子の頭を、くしゃくしゃと撫でながら立ち上がる。


「昼食を持ってくるよ。時間がかかりそうだから艦内で待ってて」


「駄目だっ手負いのジャバがどこに潜んでいるか……俺も行く!」


 慌ててウィラールも立ち上がる。

 

 穏やかで落ち着いた圭吾の人柄を彼は好ましく思っていた。

 人当たりがよいがあまり周囲に心を許さない彼の侍従も、圭吾に対しては気を許しているようだ。

 

 実際、タレスがひた隠しにしていた自然治癒(グリーンセラピー)を圭吾の目の前で実行したのが証拠だ。てっきり圭吾が裏山に行ってから行うと思っていたのに!

 

 とにかく危険な目にあわせたくない。


「動物の専門家をなめてもらっては困るよ。狐は警戒心が強い。犬や人間に巣穴をのぞかれただけで巣を移動するぐらいにね。手負いの場合はよほどの理由がない限り、逃げることを一番に考える」


 圭吾は艦外の地面に点々と続く血痕を指さす。


「ほら、血痕は僕の家とは反対の斜面で途切れているし」


 だから大丈夫、と笑う。どうやら野菊を探す際にあたりを軽く探索していたらしい。


「でも、万が一……」


「万が一ね、由依に傷一つでもつけたら地の果てまで追い詰めて、皮をはいで冬用の襟巻にしてやるつもりだから」


 ふふふ、と笑う圭吾を見て、正反対の性格の二人が意気投合した理由がわかってしまったウィラールだった。




「だめだ、俺にはわからんっ」


 艦長デッキのイスに足を投げ出す。


 昼食を取りに行った圭吾を待つ間、ウィラールはシステム復旧に取り組んでいた。

 本艦さえ修理できれば、二人そろって脱出できるのだ。


 しかし、何度再起動しても肝心のワープ機能が回復する気配はない。

 外装からはわからなかったが、無理な近接ワープは内部にダメージを与えていたようだ。



(あとはタレス頼みか……)


 機械に強いタレスなら、なんとかできるかもしれない。


 早々に諦めたウィラールは身体を大きく伸ばす。


 昨日の騒ぎが嘘のように、静寂な室内。

 その中に小さな不協和音を感じ、耳を澄ませる。

 寄せては返す波のように、繰り返される奇妙な音。


「くそっ、艦長室以外にもやられていたのか!」


 反動をつけて飛び起きる。


 見落としをしていたらしい被害を確認するために、音の発生源に走っていった。




「……いったい、これはどういうことかな?」


 圭吾が荷物を抱えて戻ってみると、ウィラールと一人の幼児が取っ組み合いのケンカをしていた。


「その子が例の?思った以上に幼いねぇ」


 自分の倍以上ある皇子に、ためらいなく飛びかかる小さな背中を見てつぶやく圭吾。

 人間でいうと4,5歳ぐらいの見かけだ。


「ああ、ギルっていう名……痛っ、こいつまた噛みつきやがった!」


「ギャウッ」と鳴き、得意気に蜂蜜色の髪からのぞく耳を動かす。


「でも、棺桶ごと運ぶって言ってたよね?逃げたりしたら面倒だからって。何で開けちゃったの?」


 ため息をつく。

 こんなことなら、麻酔吹き矢や捕獲網も持って来ればよかったと後悔する。



「だ、だってな、こいつが……」


 奇妙な音の発生源は、小さく身を縮めた幼子だった。

 棺桶型の収容容器に固定されていたため怪我はなかったのだが……


 一人にしないで、置いて行かないで、と泣いていた。


 その声に込められた深い悲しみと絶望。

 身体の傷とは違う、心の悲鳴。

 ウィラールには痛いほどわかってしまった。


 幼い自分を見ているようで、思わず手を伸ばしてしまった結果、今に至る。



 形勢は無傷で捕まえようとするウィラールに対し、すばしっこく、全身を使って攻撃するギルが優勢だった。


「子どもだと思って、手加減してやったら調子に乗りやがって!捕まえて、くすぐりの刑にかけてやる……!」

 

 渾身の飛び蹴りを頬にくらい、ゆらりとウィラールが立ち上がる。

 泣いて許しを乞うても絶対に許してやらん、と心に決めて。


 そんな彼をよそに、ギルはしきりに鼻を動かす。

 気になる匂いがあるようだ。


 あっさり皇子に背を向け、圭吾に近づくとその右ポケットをしきりに引っ張る。


「ああ、これが欲しいの?」


「ガウアウ!」


 小袋から圭吾が手の平に出した茶色の粉末をペロリ、と舐めると喉を鳴らしながら、圭吾の膝に頬ずりする。


「な、何なんだ、それは?」


 あれだけ反抗的な態度を見せていたギル。

 その態度をあっさり反転させた粉末。

 毒だと言われても不思議ではない。


「マタタビだよ。トラもネコ科だし、よく効いたね。さあ、皆でお昼ご飯を食べよう」

 ちらりと室内の掛時計に目をやり、皆を外に誘った。



 お重に詰めた弁当を、せっせとウィラールの皿に取り分ける圭吾。

 すでにギルは圭吾の膝上に座り、唐揚げをねだっている。


 マタタビ効果とはいえ、あまりに簡単に懐いたのがおもしろくなく、目の前に垂れていた尻尾を指ではじくと、お返しに頭をはたかれた。


 痛くはないが、腹が立つ。


「やっぱり、ここでどちらが上位者かはっきりさせないとなっ」


「グルルルッ!」


 第二試合(ラウンド)開始の合図(ゴング)が鳴る寸前、審判が笑顔で警告した。


「ケンカするような子達には、もうご飯作ってあげないよ?」

 

 にらみ合っていたウィラールとギルが凍りつく。

 二人は即座に白旗を上げたのだった。

  


 

 

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