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後始末と失意……と頑張るゾン美少女のお嬢様!

一部記述を変更しました(9/9)

力尽きて落下するあたしを、メイちゃんとユーちゃんがしっかり受け止めてくれた。

ありがと、これでミートソースにならなくて済んだわ。 それからメイちゃんが見つけてくれたあたしの下半身を繋げて待つことしばし……両足がビクンと痙攣して動かせる感覚を取り戻した。

あたしはメイちゃんに肩を借りてゆっくりと起き上がり、台座に倒れこんだ機械巨人(ニコラス)の残骸に向かって歩き出した。


「シネルさん、まだ身体が繋がってないかもしれませんわ。 まだ安静になさい!」


「いや、まだ終わってないかもだよユーちゃん」


そのままメイちゃんに手伝ってもらいながら、台座に上って機械の胴部へ近付く。 その後をユーちゃんが追いかけてきた。

その時、胴部の機械が破裂音と煙をあげて吹き飛んで、破片を廻りに派手に撒き散らした。 そして煙が晴れると機械の中から血まみれのニコラスが這い出して来た。

身体中に纏わり付いた(コード)を振り払いながら上手く床に降り様としたみたいだけど、果たせずに無様に床に転げ落ちた。


「ぐへっ!」


カエルが踏み潰される様な声を上げて床にたたき付けられ、その拍子に手にしていたザビーネが床に転がった。 ニコラスは慌ててザビーネを拾おうと起き上がり、そこであたし達に気が付いてフラフラと後ずさった。


「や、やぁ。 皆さんお集まりでどうしたんです?」


「そりゃあ、今まで好き勝手やってきたツケってモノを払って貰おうと思ってさ」


「それって……僕を殺すって事ですか!? この半死半生で無抵抗の僕を!? 僕は魔族でもモンスターでも無い人間なんですよ? 同族(ひと)殺しに疑問を感じないんですか!?」


「だまれ! この人でなし!!」


あたしは怒りを抑えきれずにニコラスを蹴り倒した。 どうやら身体は完全に回復したみたいだ。


「ついでに言うなら、あたしは半死半生どころか完全に死んでるし、あんたは無抵抗の女の子を嬉々として嬲り殺してきたよね?」


「ぐぬぬ……」


「じゃあ、覚悟はいい? あ、今の内に言っとくけどあたしの好物は甘い物ね。 だから時間稼ぎの質問は無しってコトで」


セバスチャンを手に近付くあたしを見て、ニコラスはそれでも喚くコトを止めなかった。 ええい、見苦しい! あたしはそのお喋りな口を永遠に塞ぐ為にセバスチャンを振り上げて


「所詮、僕も貴女も同じバケモノなんです! 解るでしょう、人の世から排除される痛みと言うのが!!」


思わずその手が止まってしまった。 そして、あたしの頭の中をかつてバケモノ呼ばわりされた辛い記憶が満たし始めた。


「いけませんシネルさん! そいつの言葉に耳を貸してはいけませんわ!!」


背後からのユーちゃんの警告もどこか遠くに聞こえる。 動揺するあたしにニコラスは更に演説を続けた。


「ちょっとした過ちで人はあっけなく他人を罪人呼ばわりして、異端のレッテルを貼って社会から排斥します! 貴女も好んでゾンビになった訳ではないでしょう! でも、人は貴女がゾンビと言うだけで貴女をモンスター扱いして退治しようとして来ました! そう、そこの勇者が良い例です!」


「ワ……ワタクシは」


「耳を貸す必要はありませんよシネル。 それに仮に蘇生が上手く行ったとして、得られるモノは何でしょうか? 魔王を倒す程の力を得た貴女は、ただの村娘上がりの一介の新米冒険者に逆戻りです! 最悪の場合“腐敗の令嬢”であった貴女を覚えている誰かによって異端として告発されて、火炙りにされてしまうかも知れません!」


あたしはセバスチャンを持つ手を下に下ろした。


「かく言う僕も人間の身勝手な法によって迫害され、流浪の身になった挙句に魔族の手先に身を落としてしまいました。 それでもダグウェルを欺いてまでこの計画を乗っ取った理由は只一つ! “自分らしく生きる”ただそれだけです! シネルさん、まだ貴女を迫害した人族の世界に未練があるんですか? まだこの機械は再生の余地が有ります! 迫害された者同士で手を取り合って、理不尽な世界に復讐をしましょう! そして、勝利を収めた暁には共に幸せに暮らしましょう」


突然の告白にあたしの死体色の頬が燃える様な朱に染まった……そんな感触を覚えた。

あたしはニコラスの告白に応える為に、満面の笑顔で彼の胸元に飛び込み


「えい」


彼を台座の下に蹴り落とした。


「あ?」


ニコラスは自分の身に起きた事を理解出来ないと言った表情で台座から落下した。

そこをすかさず悪霊(レイス)の群れが襲い掛かる。


「恨めしやニコラス!」


「この機会をどれだけ待ちわびたか!」


「「「「「私たちの痛みと苦しみを思い知れ!!!!!」」」」」


何十と言う悪霊に襲い掛かられたニコラスは、まるで飢えた猟犬の群れの中に投げ込まれた豚肉そのものだった。 たちまちの内に悪霊の群れに喰らい付かれ、捻られ引っ張られ振り回され……そして悲鳴を上げる間も無く八つ裂きにされて喰らい尽くされ、肉片一つ残さずこの世から消え去った。


「人族がどうとかゾンビがどうとかじゃ無くて、変態(アンタ)と同じ(サイド)に付くって事自体あり得ないから」


あたしはニコラスの最後をキッチリ見届けて、ゆっくりとそう断言した。 まったく、変なこと言うから頬が思わず赤くなったじゃないの。 怒りで。


すると広間の天井あたりが明るくなり、肌にビリビリ来るような神聖な光が広間に降り注いだ。 ニコラスに復讐を果たした悪霊達は、まるで憑き物が落ちた様に綺麗な乙女の霊体に変わって、まるで昇天するみたいに次々と光の中に吸い込まれて行った。


綺麗……


あたしも、あの中に吸い込まれて天国に行きたい誘惑に駆られたけど、すんでの所で思い留まった。

せっかくここまで頑張って来たのに、このまま救済されて終わるのはなにか違う気がしたからだった。 少しは勿体無い気がしたけど、これで良いんだと思う。


“まぁお前が選んだ道だ、好きにするがよい。 今後も下界の更に地下で無様に足掻いて、ワシを面白がらせるが良いぞ。 ムホホホホホホ”


“にゃにゃにゃにゃ(実際そのナリで天国(コッチ)来られても困るわ。 お前、死臭酷いし)”


そんなあたしの耳に神様と飼い猫の声が届いたような気がした。 まぁ、気のせいだろう……そう言うことにしとく。

これで良かったのか悪かったのか、結論を出せずに立ち尽くすあたしの背中をメイちゃんが優しく抱きしめてくれた。 そしてアーちゃんもあたしを慰めるみたいな優しい唸り声を上げてくれる。


「……ありがとう、みんな。 あたしの為に昇天しなかったんだね」


思わず赤黒い涙が零れる。 そんなあたしを、更にユーちゃんが抱きしめてくれた。


「アナタは危なっかしくて世話が焼けますものね。 みんな心配して昇天どころじゃ無いでしょうよ」


「左様で御座います。 お嬢様がお暇を下さるまでは、このセバスチャンも休まる暇は御座いません」


「ユーちゃん、セバスチャン…それに皆……ありがとう、ってもう一仕事忘れてたわ」


あたしは機械の残骸の傍らに、隠れる様に転がってたザビーネの所まで歩いていった。 ザビーネは危機を覚えたのか、慌てた口調であたしにおべっかを並べ立てる。


「あ……あらァ、怖い顔をしないで下さいませ我が君(マイロード)、道具はあくまで道具に過ぎませんわ。 邪悪な者の手に渡れば邪悪に、善人の手に渡れば善良に振舞うモノですわ。 だから、アナタ様の手に渡ればきっと素晴らしい働きを……」


「あのさぁ、アンタはあたしに取り入るに当たって、三つ程過ちを犯してるのに気付かない?」


「……え? 過ち?」


「やっぱ解らないか。 まず、一つ目はあたしを“肥やし臭い田舎娘のゾンビ”って言ったのと、セバスチャンに“ボロ魔剣”って言ったのを修正して無いこと」


「あ……いや、ソレはダグウェル様の手元にあった都合で、仕方なくそう呼んだだけでェ」


あたしはザビーネ弁解に構わず先を続けた。


「二つ目は戦士系のあたしに杖が自分を売り込んでる事。 そして三つ目は!」


あたしはザビーネを引っつかんで宣言する。


「あたしの呼び方を間違えてる! あたしは“君”じゃ無くて“お嬢様”だ!!」


そのままザビーネを魔力鞄(インベントリ)に突っ込んで、“永遠に倉庫の肥やし”の刑にしてやる。

魔力鞄を閉じる瞬間、ザビーネの怨念に満ちた絶叫が聞こえて来た。


「この人で無しぃぃぃぃぃぃ!!」


まぁ、あたしはゾンビだしね。

ようやく一仕事を終えて軽く放心していたあたし達の前に、唐突にローブ姿の男……自動迷宮造成機(ダンジョンツクーラー)の人造意思ナントカ……オートの姿が現われた。


「今、魔王が造ったメインオートマトンへの不正アクセス用の機械の完全停止を確認した。 意思集合体を代表して、お礼を申し上げる」


「え? ああ。 まぁ、冒険者としての使命を果たしたまでだし。 で、メイン何とかは無事だったの?」


「まだ、不正アクセスの影響から回復しきってはいないが、最悪の状態は脱した。 これで迷宮の無秩序な拡張は停止した。 後は貴女に報酬を渡すだけだ。 今、例の蘇生装置の魔力供給を再開した。 後は速やかに蘇生を済ませるが良いだろう」


そう言ってオートはあたしの前から姿を消した。 中々に律儀なヤツだ。

なら、グズグズしてはいられない! やっと手にいれた報酬だ、早く蘇生していい加減にこの迷宮から出たい! あたし達は急いで蘇生装置のある下の階層に降りて行った。


……


……


……


“蘇生に必要な生体エネルギーが不足しています。 直ちに必要な生体エネルギーを充填して下さい”


……何ソレ?

あたしは蘇生装置の操作盤の画面に浮かんだ文字を、セバスチャンに訳して貰ったものの、その言葉の意味を図り損ねた。


「……つまり、この蘇生装置は対象を蘇生させる代わりに、複数の犠牲者の魂をエネルギーとして必要とする様で御座います」


何ソレ!? ああ、ダグウェルやニコラスが言ってた“魔王復活の為の生贄”ってそう言う……

って、それじゃ何? あたしが蘇生するには何十人もの女の子の魂の犠牲が必要ってワケ!? そんなの聞いてないよセバスチャン!?


「申し訳御座いません。 ここには蘇生装置があると言う情報だけで、実際にはどの様な装置かは聞き及んではおりませんでした」


今更そんな事言われても……いや、確かにセバスチャンはここに蘇生装置があると言っただけだ。 オートに詳しく機械の詳細を聞かなかったあたしのミスとも言えるだろう。


「……それで、どうなさいますかお嬢様?」


落ち込むあたしに、セバスチャンが気遣わしげな声を掛けてきた。 でも、あたしの腹はとっくに決まっていた。 あたしはセバスチャンを振り上げて、一気に機械の操作盤目掛けて振り下ろした。

操作盤を破壊された機械は火花を撒き散らして、その機能を停止した。


「な、何をなさいますの!?」


「……いや、コレで良いんだよ。 あたしはゾンビだけど、心までモンスターじゃない。 だから、ダグウェルやニコラスがやったみたいに、無関係の人を犠牲にしてまで復活なんてしたくないんだ。 それに、こうすればこの機械で犠牲になる女の子ももう出ないしね……」


「本当にそれで良いんですの?」


「……良いって良いって。 あたしはゾンビだから時間はタップリあるし、それにまだ蘇生の手段は無いワケじゃ無いんだし、ねぇセバスチャン」


「左様で御座います。 只今、自動迷宮造成機より報酬の地図が送られて参りました。 これによれば、次に近いのは死をも克服する究極の霊薬“ネクタール”の貯蔵庫で御座いましょう」


「それって、あたしが飲んでも大丈夫なの? まぁ現物を見ないと判んないし、んじゃ次はソレ行ってみよう!」


意気揚々と蘇生施設の間を出ようとしたあたしの前に、ユーちゃんが立ちふさがって宣言した。


「お待ちなさい! アナタ達だけでは危なっかしいから、ワタクシも付いて行きますわ」


「いやいやいやいや、ユーちゃんは魔王討伐の報酬を貰って、サンドルマの御家を建て直すんじゃないの?」


「御心配無く。 しばしの寄り道で傾く程サンドルマ家はヤワではありませんわ! 伊達にニ千年の間清貧に耐えて来た訳では……オホン、とにかくワタクシが付き合うと決めたら決めたのですわ! よろしくて?」


……ハイ。


ともあれ、あたしは新たな目標を目指して迷宮の更なる奥へと旅立つことにした。

でも、不安は何も無い。 頼れる執事のセバスチャンに幽甲冑(ゴーストメイル)のメイちゃんに素敵なドレスアーマーのアーちゃん。 それに加えて勇者のユーちゃんまで付いてきてくれるなら、この先に何があっても恐れる事なんて無い! そして何よりも……


あたしはゾン美少女のシネル、世界一元気なゾンビのお嬢様だ!

これでシネルと仲間達の冒険は一区切りです。

「死んでも元気なゾン美少女」のドタバタを書きたくて書いた本作ですが、当初の目標(最低十万字は書く、三十話は書く、出来はどうあれ絶対に完結はさせる)を遥かに超える結果と反響に只々感謝の気持ちで一杯です。


最後まで読んで頂いて、本当に有難う御座います!!

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