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総力戦と魔王退治

「僕を無視してイチャついてるんじゃねえええええ!!」


大音量の罵声と共に、機械巨人(ニコラス)が残った拳をあたし達に向けて叩きつけて来た。

確かにそれはヤツの言う通りだ。 あたしとユーちゃんは拳が降ってくる前に左右に散って回避する。 その直後に、大きな音を立ててニコラスの拳が床を叩き砕いた。

二人纏めて仕留め損ねたニコラスは怒りの叫びを上げると、全身から触手みたいなコードを延ばした。 それであたし達を捕まえるつもりみたいだ。


「で、どうしますのシネルさん? このデカブツを倒すのは少々骨が折れましてよ」


「あたしに考えがあるから、まずは邪魔な(コード)とかをブッタ切っちゃって!」


二人で頷き合うと、各々が向かってくる線の群れを剣で切り払う。 自分を狙って襲って来るので、逆に狙いが付けやすい。 たちまち動く線の数は半分近くに減った。


「お嬢様、足元を!」


へ? と思う間も無くあたしの脚が何かに引っ張られて、次の瞬間、身体が宙に浮いた。

しまった! ニコラスめ、こっそり線を一本足元に這わせていたんだ。 ヤツは怒りに任せてあたしを思いっきり振り回す。 ちょっと! まさかこのまま床に叩き付けるつもり!?

自分の身体が石畳にブチまけられたミートソースみたいになるのを想像して一瞬目を閉じた。 その時、線が千切れる音がして、あたしの身体がまた宙に浮く感触を覚えた。


何!? 目を開けたあたしの視界一杯にメイちゃんの顔が飛び込んでくる。 どうやら魔法攻撃で線を切って、それからあたしを助けにきてくれたみたいだ。

メイちゃんは金属の腕であたしをしっかり受け止めて、お嫁さん抱っこの状態で華麗に床に着地した。


「ありがとうメイちゃん!」


あたしは思わずメイちゃんに抱きついてしまう。 無事だとは思ってたけど、その上あたしをスグに助けにきてくれるなんて、ああもう何て可愛いの!!

メイちゃんは照れながらもあたしを優しく床に下ろしてくれる。 そんなあたし達をみてユーちゃんが剣で線の群れを捌きながら、少し不機嫌な声で諌めて来た。


「ニコラスじゃ有りませんが、イチャついてる場合じゃ無くってよ! 早くこの変態をどうにかしないと、こっちが不利になってしまいますわ!!」


それもそうだ。 でもこれで、あたしとメイちゃんとユーちゃんが揃い踏みになった。 ニコラスのヤツはまだ健在だけど、正直負ける気は全くしない!


「ウゥウウウゥゥオォォォオオォォォオオオオオオオンンンン!!」


その時、アーちゃんが大声で唸り声をあげた。 次の瞬間、無数のアーちゃんみたいな唸り声が広間全体を揺るがす程の大音量で響き渡った。


「「「「「ウウウウウウウウウウゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!」」」」」


何事!? 思わず天井を見上げると、おびただしい量の悪霊(レイス)の群れが上空を多い尽くしていた。 ニコラスの攻撃で消し飛ばされた仲間の幽甲冑(ゴーストメイル)が、形代の甲冑を失ってなお元の悪霊に戻って参戦してくれているんだ。


「これだけいれば絶対に勝てる! アーちゃんは悪霊の子達にニコラスの目くらましを頼んで! で、メイちゃんとユーちゃんはニコラスの脚を潰して! それが出来たら後はあたしが機械を止めるからトドメはヨロシク!!」


「止めるって、一体どうなさいますの!?」


「説明する時間は無い! とにかくお願い!!」


こうしてる間にも、ニコラスはあたし達に向けて幾つもの閃光を放ってきた。 あたし達は別々の方向に回避して、そのままニコラスの足元に飛び込んだ。 これで閃光攻撃は封じられるハズだ。

そしてメイちゃんとユーちゃんはニコラスの脚を攻撃し始める。 聖剣と闇の瘴気を集めて作られた槍の攻撃は、ニコラスの金属の脚を容易く砕き始める。


「やめろ! 僕をこれ以上傷つけるんじゃ無い!!」


ニコラスは脚をあげてあたし達を踏み潰そうとする一方で、上半身から触手みたいな(パイプ)を伸ばして攻撃してきた。


「ウォオオオオオオオン!!」


アーちゃんの号令で、悪霊達がニコラスの上半身に纏わりついて視界を塞いだ。 そのお陰で踏み潰しも管の攻撃も易々と回避できる。 その間にメイちゃんが魔推弾(マジックミサイル)で管を次々に焼き切っていった。 その間にあたしはセバスチャンに付いて巻物(スクロール)の呪文を読み上げる。


「変態さん、御足許が御留守でしてよ!!」


そして、ついにユーちゃんの会心の一撃がニコラスの片脚を斬り崩した。 そのままニコラスはバランスを崩して片膝を付く。

今だ! あたしは浮遊(レビテート)の巻物の効果で一気にニコラスの頭上に飛び上がった。 そして、最大に延ばしたセバスチャンを振り下ろして一気にニコラスの頭上に降下する。


「させるか!」


ニコラスはあたしの意図を読み取ったのか、線を高速で飛ばしてあたしを迎撃にかかる。 飛行(フライ)の魔法とは違って落下してるだけのあたしは、この線の攻撃を避けられない!


あたしは為す術も無く、胴体を両断されてしまった。


勝利を確信したニコラスは歓喜の叫びを上げる。


()ったぞ!!」


……普通の人間ならね。 でも生憎あたし(ゾンビ)はこの程度じゃ殺られない! このままニコラスの頭頂部にセバスチャンを翳して落下していく。


「でぇええええええええっりゃああああああああああああああああああ!!」


上半身だけのあたしは、そのままセバスチャンを頭頂部の扉部分……この機械の制御装置に成り果てた哀れな魔王の生首のあるあたりに突き立てた。


「ギャアアアアアアアアアア!!」


渾身の力で突き立てたセバスチャンは、扉部分を易々と貫いて柄まで深々と突き刺さる。 機械の内部から凄まじい絶叫が響いて、扉が音を立てて吹き飛んだ。 下半身の支えが無いあたしは、そのまま開いた機械の中に転げ落ちた。


中にいた魔王の生首は、セバスチャンの攻撃が完全に命中しておらず、ザックリと抉られた顔を苦痛に歪めながらあたしを睨み付けた。 そして、血に塗れた口を開いて一言だけ言葉を発した。


「……殺してくれ」


……あたしは黙って頷くと、片手剣に縮めたセバスチャンを力を込めて魔王の脳天に振り下ろした。

その瞬間機械が爆発を起こして、巻き込まれたあたしは機械から吹き飛ばされて宙を舞った。 眼下には、渦を巻く悪霊の群れとメイちゃんにユーちゃん、そして完全に動きを止めたニコラスの巨体が見えた。


「くそっ!! たかが制御装置をやられただけだ! 僕はまだ戦える! だから動け! 動け動け動け動け動け……動けえええええええええ!!」


広間をニコラスの絶叫のみが満たす。 それが一旦途絶えた間にあたしはメイちゃん達に叫ぶ。


「いまだ! トドメさして!!」


メイちゃんとユーちゃんは、動きを止めた機械の胴体部分……ニコラス自身が入っているあたりに渾身の力で武器を突き立てた。


「がああああああああああああ!! があああああああああああああああああああああああああ!!!」


広間全体をニコラスの苦痛に満ちた絶叫が満たす。 そして機械のあちこちから火花と小さな爆発が幾つか起こって、部品を撒き散らしながらニコラスの巨体は床に倒れ臥した。


やった! やっとあの変態を倒したんだ!!


あたしは一仕事やり遂げた充足感ってのに包まれながら、セバスチャンと一緒に床目掛けて落下して行った。

次回、最終回になります

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