飢餓と節制
「餓餓餓餓餓餓餓餓餓ッ!!」
アタシは魔族共ノ死体ヲ踏み越えテ、一気に台座ノ前の鉄屑に魔剣を翳シて接近すル。
鉄屑はアタシの変化ニ戸惑ったミタイだった餓、ソノうすらデカい身体のアチコチ餓光ったかと思うト幾つもノ閃光がアタシや周りニ振り注いダ。
ソノ光は後ろノ魔族や幽甲冑を焼き払イ、床ヤ壁を縦横に焼き切ッテ行く。 ソノ内の一筋ノ閃光がコッチに向かって来タ餓、魔剣の結界で弾かレテ天井に穴を開ケたダケで終わッタ。
「飢飢飢飢飢飢飢!」
空腹ニ身を焦がさレな餓らモ、思わズ笑い餓もレてしマう。
鉄屑ハ狂ったミタイに光線を乱射しなガラ、触手ミタイな管を振り回シてアタシを仕留めようト必死ニなっている。
ダガ、今のアタシにはそんな動きハ死体ニ集る蛆虫ノ様に遅く感ジる。 行ク手を邪魔する管ヲ魔剣デ一閃して斬り払イ、狙ッタつもりだろう光線を結界で弾ク。
飢飢飢、焦れ焦レ! 恐怖デ自分の血肉ヲ美味しく味付ケするんダ! スグにその鉄屑カラ引きズリ出しテ、美味しク喰らッテやるカラ……
(それはまた後で! 今はユーちゃんを助けるのが先!)
ユーちゃん? ……アア、前に食べ損ねタあの肉ノ事カ! 居た! 食べヤスイ様に縛ッテクレルとは鉄屑モ中々気が効ク! オイ鎧! 一気に肉ノ所まで飛ぶカラ防御を頼むゾ!
「ウ……ウォオオオオオオオオオォン!」
良イ娘だ! アタシは瘴気を纏ッテ一気に鉄屑の足元ニ辿り着くト、渾身ノ力で魔剣を鉄屑ノ脛に叩き込ンダ。 タチマチ火花が飛んでアタシの顔ヲ焼く餓、熱くモ痛くも無い!
鉄屑ハ焦って拳ヲ足元のアタシに振り下ロスけど、むしろ好都合ダ! アタシはトロイ拳を紙一重デかわしテ、逆にソノ腕に取り付イてやる。
ソコカラ一気に腕を駆け上ガッテ、鉄屑ノ馬鹿デカイ胸のアタリまで昇る。 そんなアタシを捕まえようと、鉄屑ハ体中カラ線を延ばスけど、アタシは魔剣デ片端から切り払ってソノママ反対側の腕ニ向かってジャンプしタ。
「渇ァッ!!」
一気ニ反対側の腕ニ取り付イテ、その手ニ握られタ肉を見下ろす。
「ひぃっ……」
肉はアタシを見て怯エた悲鳴を上げタ。 可愛イ……この前ハ食べ損ネたが、今度は美味シク喰らって……
(だめ!)
ウルサイ! 邪魔ヲスルナ!
(ユーちゃんが美味しそうなのは解るけど、お願い! 我慢して!!)
コンナ柔ラカソウナ肉ヲ前ニシテ我慢ナンカ出来ルカ! イイカラ喰ワセロ!!
(その辺りは同感だけど、優先する事態ってモノが……ああもう面倒くさい! セバスチャン!!)
オイ! ヨセ! セメテヒトクチ!!
「ここまでで御座います、お嬢様」
ヤメロ魔剣! アタシはオマエの御主人様ダロウガ! ナラ大人しくあたしの言う事を……聞いてくれたから、こうしてあたしは自分を取り戻す事が出来た。
流石に二度目なら自分の食欲への対策も(際どい所だったけど)どうにか可能だ。 肉への欲望は正直今でもあるけど、それは蘇生してから思いっきり食べまくって解消するから! だから今だけは鎮まって!
「シネル……さん?」
肉……じゃない、ユーちゃんが半分怯え、半分安堵の混じった半泣きの顔であたしの顔を見る。
やめて! そんな目で見られたら、別の欲望が出て来ちゃうじゃない! あたしは自分の衝動を押し隠す為に、セバスチャンを最大に延ばしてニコラスの手首に思いっきり叩き付けた。
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!」
ニコラスは痛みを感じたのか、あたしを振り落とそうと腕を振り回す。
でも、逆にそのせいで手首がブチブチと音を立てて引き千切れて、あたしとユーちゃんはニコラスの手首ごと床に落下した。
結構な高さから落ちて死ななかったのは、あたし達がゾンビと勇者だったからだろう。
ともあれ、あたしは床からどうにか起き上がって、まだ手首の線に絡まれてるユーちゃんを助けに行った。 ユーちゃんの身体に絡まった線を振り解いて、まだダメージから回復しない彼女の身体を抱き起こしてやる。
「あ……ありがとう御座います、シネルさん」
ユーちゃんは目に薄っすらと涙をにじませて、顔を赤らめながらあたしにお礼を言った。 でも、あたしは自分の中に残った欲望を鎮めるのに精一杯で、彼女の言葉が全く耳に入らない状態だった。
あたしは、その欲望を鎮める為にユーちゃんの顔に自分の顔を近づけて……一気にその頬っぺたに軽く噛み付いた。
「な……ななななななななにを致しますのシネルさん!?」
ユーちゃんは慌ててあたしを強引に押しのける。 あ、いや待って! まだ物足りない!
せめて味見だけでもしとかないと、ユーちゃんを助ける為に頑張ってくれたあたしの食欲に悪いと思って……
悪びれずに正直に告白したあたしに、ユーちゃんの正義の鉄拳が炸裂した。




