強行突破と二人の哄笑
あれから武器庫のフロアを首尾良く突破したあたしは、全速力で迷宮の通路をダッシュで突っ走っていた。
背後で轟音と共に宮殿を揺るがす振動が起こり、思わず転びそうになったけど、辛うじて体勢を立て直して更に通路の奥を目指して走り続けた。
セバスチャンが地図を宙に映しながら、あたしに現状を説明してくれる。
「お嬢様、これで五つ目のサブジェネレータの破壊に成功した様です。 残るは後一つのみで御座います」
上等! 思いつきのアイデアにしては上手くやれてる。 このままサブを全部破壊して、後は一気にニコラスのド変態をブッ絞めるだけだ!
五つ目のサブのあった部屋から、轟音がこっちに迫ってくるのが聞こえて来た。 さっきよりも数が少ない気がする。
「先程の部屋に居た魔族共に、幾らか倒された様ですな」
ふむ、あのモンスター共は危険だけど、今はあたし達の貴重な戦力だ。 サブは後一つとは言え、心許ないからそろそろ補充しておこう。
あたしは一旦立ち止まり怪物召喚の巻物を広げて、あのモンスターを頭に思い描きながら書かれている呪文を唱える。
もう何度も唱えてる呪文だ、もうセバスチャンに手伝って貰わなくても詠唱が出来た。 程無く背後の轟音に新しい音が加わった。 召喚成功!
さあ、また追いかけっこだ! あたしはセバスチャンの案内に従って迷宮の回廊を駆け抜ける。 前もって使った加速の巻物の効果がまだ効いてるから、追いかけてくるモンスターには捕まらない。
下のフロアをモンスターの力を借りて突破して以来、巻物を使う以外に殆ど止まらずに走り続けているけど、セバスチャンに疲れを感じる機能を切ってもらってるし、それでも衰えてくる身体は、アーちゃんが途切れる事無く集めてくれる瘴気のお陰でこまめに回復を繰り返しているので、文字通りの疲れ知らずのまま全力失踪を続けてられていた。
元々呼吸しないから息が切れるなんて事も無いし、案外ゾンビは走るのに向いているんだな……と我ながら感心。
「お嬢様、この先の三叉路を右に折れて、その先の広間を突っ切って対面の入り口で御座います」
「わかった。 アーちゃん、瘴気もっと濃くして!」
「ウォオオオオオオオンンンンン!!」
通路を折れて、広間に飛び込んだ途端に正面から大量の攻撃魔法と矢が降り注いでくる。 思った通り、魔族共が待ち伏せをしていたみたいだ。
でも、魔法はセバスチャンの結界が、矢は楯とアーちゃんの瘴気で粗方防げた。 待ち伏せの効果が無いのを見て、闇妖精や闇鬼畜族共が動揺している。
その魔族共の向こうの壁際に、見覚えのある人影が見えた。 魔族に壁際に追い詰められながらも戦っていたと思われるその人物も、こっちに気が付いて大声を上げた。
「遅いですわよ、シネルさん! でも、どうやって此処まで辿り着きましたの?」
「ごっめーん、ユーちゃん。 パーティーの仕度に手間取っちゃって」
あたしは余裕を見せてユーちゃんに手を振ってみせた。
……それから背後の轟音が近付いて来たのを確認すると、迷わず魔族の群れ目掛けて一直線にダッシュした。
「な!? 相手が多すぎますわ! 幾ら何でも無謀が過ぎましてよ!?」
あたしは魔力弾を投げて、壁上に広間を塞ぐ魔族の軍勢の一角に突破口を開きながら、ユーちゃんに叫び返した。
「あいにく、今も無謀の真っ最中なの! すぐにヤツらがココに来るから、そしたらそこの通路にすぐに飛び込んで!!」
「ヤツら……? それって」
ユーちゃんが聞き返してくる前に、あたしの背後の通路が爆発する様に吹き飛んで土煙と瓦礫を撒き散らす。 そして、その煙の中からヤツらがその巨体をくねらせながら殺到して来た。
「「「「「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」」
のたうつ巨体で闇鬼畜族を押し潰し、頭部の触手で闇妖精をゴミみたいに弾き飛ばしながら全身から粘液を引いて押し寄せてくるモンスターの群れを見て、ユーちゃんは流石に動揺して叫んだ。
「屍喰巨蟲!? 一体何故こんなに!?」
「あたしが呼んだの! 巻き込まれたくなかったら走って!」
あたしとユーちゃんは、一気に広間の出口に飛び込んで一緒に横に並びながら通路を駆け抜ける。
流石は勇者、息も切らさずに疲れ知らずのゾンビのあたしにピッタリ着いて走っている。 まぁ、あたしよりも軽装だし、走るのに向いた体型だから……
「ワタクシの胸が何か?」
「何でもない! 何でもないから、剣を収めて今は走るのに集中して!」
そんなやり取りをしながら走ってると、背後から再び轟音が迫って来た。 どうやら魔族の軍勢は壊走したみたいだ。
次第に迫ってくる轟音を背に、全力で走りながらもユーちゃんが質問をぶつけてくる。
「一体、何が起きてるんですの!? 何故、群れないハズの屍喰巨蟲がこんなに!?」
「だから、あたしが巻物でまとめて呼んだの! ほら、コイツらって地面掘ったりするじゃない? そんで、壁とか壊すのに良いんじゃないかって思ったワケ。 で、モンスターを操ったりは出来ないけど、あたしの女の色香で惑わせて誘導してるってワケ!!」
「死臭とおっしゃいなさい!! じゃあ、何ですの? アナタは自分をエサ……オトリにしてアイツらを引き付けてここまで来た……と?」
「そ、中々のアイデアでしょ!!」
「アナタって、本当に……」
そこまでユーちゃんが言いかけた時、いきなり足元の床が振動で波打ち、思わず転倒したあたし達の背後の床から、新手の屍喰巨蟲が触手をくねらせながら這い昇って来た。
「ギュアアァアアアアアアァァァァ!!!」
「やっば、少し呼び過ぎたかな? ユーちゃん! 走って!!」
あたしは魔力弾を目くらまし代わりに叩き込むと、素早く起き上がって再びユーちゃんと通路を疾走する。
背後では屍喰巨蟲が暴れる轟音と共に、何かが爆発する音が連続して聞こえて来た。
「な、なんですの!?」
「巨蟲って図体がデカいじゃない。 で、アイツらが暴れる度に壁とかの魔力の伝達管っての? アレも一緒に壊れて爆発してるみたい」
「思わぬ副次効果で御座いますな。 これで他の区画から最上階に供給される魔力は更に減少している模様です。 お嬢様、次の角を曲がった所が最後のサブジェネレータで御座います」
あたしはセバスチャンの言葉に肯いて、ユーちゃんに指示を出す。
「いい、ユーちゃん? 次の角を曲がったら、突き当たりに壁があるからそこでアイツらを待つよ!」
「え!? 行き止まり!? 冗談じゃ無いですわ! 追い詰められたらあの蟲共に潰されてしまいますわ!!」
「いいから! とにかく、あたしが合図したら通路の隅に飛び込んで伏せてて!」
角を曲がってしばらく走ると、すぐに真新しい壁が通路を塞いでいるのが見えた。 あたし達は壁を背にして、巨蟲が殺到するのを待った。 次第に音が大きくなり、通路全体が振動する。
そして角の向こうから巨蟲が現われ、物凄い速度でこっちに迫って来た。
「今!!」
あたしの合図で、二人は左右の通路の隅に飛び込んで伏せる。 その頭上を勢いが付いて止まらなくなった巨蟲が壁に飛び込んで行き……そのまま石壁をブチ破って動きを止めた。
「よし、今回も成功! 今の内に中へ入って!」
あたし達二人は壁の向こうにあった入り口から中に入る。 そこには既に見慣れた大きな機械が、床や壁から伝わる伝達管に接続されて、低い作動音をさせている。
これが最後のサブジェネレータだ。 あたしは魔力弾を数発叩き込んで、機械を完全に破壊した。
「今回も……って、ずっとこんな方法で壁を破って来たんですの?」
「うん。 これで壁を破ってサブまで行って魔力弾で破壊する、もしも巨蟲が殺到して壊すヒマが無かったら、後続のメイちゃん達が破壊する。 完璧でしょ!」
「はぁ、アナタって本当に」
その時、頭から壁に突っ込んで動きを止めてた巨蟲がまた動き始めた。 その背後からも、更にお仲間が殺到する音が聞こえて来る。
「お嬢様、お急ぎ下さい! 後はニコラスが居ると思われる最上階の壁を残すのみです!」
「おっけ! 行くよユーちゃん!」
あたし達は、この部屋にあった階段を伝って上階に逃げる。 そしてまたセバスチャンの案内に従って通路を全力で走りながら、あたしはユーちゃんに気になった事を聞いてみた。
「ねぇ、ユーちゃん。 さっきから何か言いかけてるよね? あたしが一体なに?」
「……なら言わせて貰いますわ。 アナタって……アナタって、本当にイカレてますわ!!」
「あっはっはっはっはっはっはははははははははははははははははははははははははは!!」
こんな時に思わず笑いが出てしまった。 でも、なんだか愉快な気分が止まらなくて全然笑いが止まらない。 そんなあたしを見てユーちゃんは思わず噴き出してしまい、いつの間にか二人で大声で笑いながらニコラスの居る最上階に向かって巨蟲共を引き連れて突進していった。
明日(8/29)は休みます




