越えられない壁と突破の手段
……とは言ったものの、まずはどうやってこのフロアを出たものか。
あたし達は悪霊の群れを引き連れたまま、とりあえず本来上に昇る階段のある場所まで辿り付いた。 なるほど、地図上ではこの先に階段があるハズなんだけど、真新しい石壁が通路を一杯に塞いでてアリ一匹通れそうにない。
無理に壁を破壊する? どうだろう? 地図に映し出されたこの壁は他の場所と同じくかなりブ厚そうだ。 あたしの物理攻撃とメイちゃんの魔法攻撃でもかなり時間が掛かりそうだし、その上もしこの壁の破壊に成功したとしても、この先にはまだ多くの壁が立ちはだかっているのだ。
「一々壁とか壊してたら、やっぱり間に合わないよねぇ」
さっきの高揚感もどこへやら、あたしは文字通り壁にぶち当たって先に進めなくなってしまった。
あたしの背後では、悪霊の群れがニコラスへの復讐を口々に誓いながら渦を巻いている。 もしココで……
“ごっめーん。 カッコいい事言っちゃったケド、壁が越えられないからやっぱ復讐はムリみたい。 てへ”
……なんて言おうモノなら、彼女達の怒りの矛先は今度こそこっちに向いてくるだろう。 復讐への意欲はマジだから、そんな事を言うつもりは全く無いけど。
待てよ? 彼女達は天井を破壊してこのフロアにやってきた。 同じように壁を壊す事は出来ないかな?
あたしはセバスチャンに聞いてみた。
「可能ではありますが、時間が掛かるでしょう。 元より実体の無い悪霊が壁や天井等に物理的な力を与えるにはかなりの霊力を消費します。 恐らく先の天井を破壊するのも一苦労だったと思われます。 それを全ての壁を破壊するとなれば、彼女達の幽体が持ちますまい」
むう……あ、でも悪霊の一体一体には実体が無いなら彼女達を先に向かわせる手もあるけど、あたし達が出られない事には変わらないか。 さっき彼女達が開けた穴から上のフロアには行けそうだけど、そっから先をどうするか……
「お嬢様、ここは一度武器庫に行って見ては如何でしょうか?」
そうだね、魔力弾か何か壁を壊す手段があるかもしれない。 あたし達はセバスチャンの提案に従って武器庫へ急いだ。
……
宝物庫同様、あたしとメイちゃんで扉を破壊して中に入る。 探しにくくなるから、悪霊達にはとりあえず外で待って貰った。
……アングラールの武器庫でも思ったんだけど、既に強い武器を持ってて更に便利な防具まで装備していると(メイちゃんに至っては自分で武器も出せる様になったし、何よりも自身が防具でもある)、武器庫にある大半のアイテムが無用の存在になってしまう。
かなりの広さを持つ武器庫の半分以上を占める武器や防具の類は、どれもあたしのセバスチャンやアーちゃんと比べると見劣りのするモノばかりで、全部スルーしてしまった。
奥は……マジックアイテムか。 あたし達はやたら数だけはある甲冑の間を通ってアイテムの棚の列へと向かった。
今すぐに役に立ちそうなモノは……あ、魔力弾みっけ。
アングラールで見つけた時よりも数は少ないけど、色々必要になるから全部貰って行こう。 壁を破壊するのも捗りそうだけど、全部の壁を壊すには不十分だ。
まだ何か無いかな? 魔法の杖の類は無用だし……これは何だろ? あたしは棚一杯に詰め込まれた丸めた紙の束を見つけた。
「これは、魔法の巻物ですな。 使い捨ての一回限りですが、これに書かれた字を朗読するだけで、魔法の心得の無い者でもそれに書かれた魔法を行使出来ます」
「ああ……そう。 朗読するだけで良いんだ、それはかなり便利だねぇ。 読めればね……」
字が読めなくて落ち込むあたしに、セバスチャンが慌ててフォローを入れる。
「いえいえ、例え読めずとも先のダグウェル戦で破邪閃光の槍の魔法を発動させた様に、読み方さえ覚えれば問題は御座いません」
ふむ、それなら使い道も無くは無いか。 あたしは巻物の封印に書かれた文字をセバスチャンに解読してもらった。 どうやら巻物に書かれた魔法の名前であるみたいだ。
火球、吹雪、解錠、浮遊、発光……今ひとつ地味な呪文ばかりだ。
一種類の魔法に付き、数巻ほど揃えてるみたいだ。 何かの役に立つかもしれないから、片端から魔法鞄に詰め込んでいく。 えーと、次の呪文は?
「怪物召喚、モンスターを召喚できる様ですな」
「モンスター? 竜でも呼べるの?」
「残念ながら、この巻物では術者が今までに実物を見た事の有るモンスターに限られる様です。 それに、この巻物では呼ぶ事しか出来ませんので、召喚師では無いお嬢様では呼んだ後の制御が出来ないでしょう」
「えー? でっかい竜でも呼んで壁とか壊して貰おうとおもったのに。 メイちゃんは召喚魔法とかできる? ……そうか、ムリなんだ。 じゃあ、コレは意味が無いなぁ」
あたしが今までに出会った大型のモンスターは、単眼巨人か上級悪魔くらい? 壁とかは壊せそうだけど、制御が出来ないんなら役には……
ん?
あたしの腐りかけの頭の、程よく熟成した部分がまたアイデアを生み出してくれた。
ヤツなら……壁も壊せるし、制御はムリでもひょっとしたら?
コレ、イケるかも! あたしは今思いついたばかりのアイデアをセバスチャンとメイちゃんに聞かせた。
「ふむ……理屈では可能かもしれませんが、危険で御座います。 下手をすれば無用のリスクを招くだけかと」
セバスチャンもメイちゃんも、あたしのアイデアに難色を示した。 ムリも無いか、思いつきで上手く行くかも解らないのに危険だけが大きいのだ。 でも、ここまで費やした時間を考えると他に手段を選べない様に思う。
あたしはセバスチャンに地図を出して貰った。 サブ何とかを表す黄色い光点は、四つから減っていない。
どうやらユーちゃんもどこかで閉じ込められたみたいだ。
そして最上階の緑色の光点は、輝きを取り戻して最初に見た時よりも大きな光を放っていた。
「このままじゃ、どの道ニコラスの計画が成功して、そうなったらあたし達は一巻の終わり。 どうせダメでも最後まで諦めたくない! でも、これを成功させるにはセバスチャンとメイちゃん、それにアーちゃんみんなの力が要るの! 無茶なのは解ってる! でもお願い、協力して!!」
あたしは浮遊するセバスチャンとその横のメイに頭を下げた。
「頭をお上げ下さい、お嬢様! 主に頭を下げさせるなど恐れ多い!! リスクばかりを懸念しておりましたが、お嬢様がお決めになられた事に是非も御座いません! 不肖このセバスチャン、最後までお嬢様のお供を致します!!」
セバスチャンの宣言と同時に、メイちゃんがあたしに思いっきり抱き付いて来た。 そしてアーちゃんも優しげな唸りを上げた。
言葉が通じなくても今までの付き合いでわかる。 二人とも私の無茶な提案を受けてくれて、さらに励ましてくれてるんだ。
「ありがとう……みんな」
あたしは思わず目じりに浮かんだ赤黒い涙を、指で拭った。
でも、しんみりするのは全部上手く行った後でもいい! あたしはセバスチャンを掴み取ると、大声で指示を出した。
「おまたせ、お外の悪霊達! パーティーの準備が整ったよ! 急いでこっちに来ておめかしを始めて!」
悪霊達が武器庫に一気に流れ込んで来る。 そっちは細かい指示の出せるメイちゃんに任せて、あたしは早速怪物召喚の巻物を広げてセバスチャンの後に付いて、短い呪文を唱え始める。
はやる気持ちを抑えて、あたしはあのモンスターの姿をクッキリと頭に思い描きながら呪文を唱え終えた。
その間に、悪霊達は“おめかし”が終わったみたいだ。 あとはメイちゃんに任せて、手はず通りあたしが先陣を切って武器庫を飛び出す。 そのまましばらく通路を走っていると、後ろで派手な破壊音が響いた。
ヤツだ! 負い付かれたら計画が台無しになる。 あたしはセバスチャンに疲労を感じる機能を切ってもらい、そして階段を塞ぐ壁めがけて全力でダッシュした。
さぁ、追って来い!!




