ブチ切れゾンビと起死回生
前回で総合評価200越え、ユニーク6000越えの快挙となりました。
自分の予想を遥かに上回るポイントに狂喜乱舞しております。 皆様のご支持に篤く感謝致します。
最後まで御愛読戴けましたら、これに勝る喜びは御座いません。
本当に、ありがとう御座います!!
……と言いながら誠に心苦しく思いますが、8/25~26日はお休みします。
「「「「ウウウウウォオオオオオンンンンン!!!!!」」」」
大きな塊の表面に醜いまでに苦痛に顔を歪めた人面を浮かべた、まるでアーちゃんみたいな叫びを挙げるそのドス黒い塊は、まるでアングラールの避難壕で見た亡霊の集合体みたいだった。
でも、彼ら……亡霊の顔の一つ一つはアングラールのそれとは比べ物にならない程の苦痛と怨念に満ちた表情を浮かべていた。
「これは悪霊の集合体の様です。 このフロアに満ちる瘴気の影響を受けて益々活性化している様で御座いますな」
それはこの塊を見れば解る。 彼らはアングラールの亡霊達に比べて、悪い意味で活力に溢れている。
悪霊の苦悶と憎悪に満ちた表情は、その一つ一つがクッキリと見える程にパワフルで、それらの顔が口々に呟く恨み言はあたしの腐りかけの耳にもハッキリと聞こえる程に怨念と憎悪に溢れていた。
「痛い痛い痛い痛い」
「何故私がこんな目に……」
「苦しい、苦しい、苦しい、苦しい」
「お願い、そこにいるお嬢さん……」
「「「「私たちの痛みと恨みを分かち合ってぇぇぇぇ!!!!」」」」
冗談じゃない! あたし達はこっちに向かってきた悪霊の集合体から全力で逃げ出した。
確かにあたしの魔剣セバスチャンと、メイちゃんの闇の瘴気を束ねた魔槍なら、この悪霊の塊にダメージを負わせる事もできるだろう。
でも相手の図体が大きすぎるし、何よりもローゼスとの連戦による疲労の蓄積があたし達の身体に地味に負担を掛けていた。
ここはどうにか悪霊達の手を逃れて、このフロアを脱出する方が賢いと思う。 でも、さっきのオート何とかの言う事が正しければこのフロアは上に昇る手段が断たれてて、完全に閉鎖された空間になっているとの事だった。
じゃあ何? このまま逃げ続けても何時かは悪霊達に捕まって殺されるし、逃げ続けてもニコラスの計画が完了したらあたし達はフロアごと押し潰されて一巻の終わりって事!?
いやいやいやいやいや! いくら性悪の神様でも、そんな当たり前の結末なんて神が望んでると思う?
アイツは猫ちゃんを愛でながらワインを嗜みつつ、笑ってあたしの醜態を楽しむゲス親爺ですよ!? アイツの性格を思えば、あっさり諦めたりしないで滑稽なまでに生き足掻く人に(面白がって)チャンスをくれるに違いない。
例えそれが違うとしても、あたしは最後の最後まで諦めたくない!
ゾンビは目当ての肉に有り付くまでは、決してその歩みを止めたりしない!
あたしはゾンビだ! 何があっても目標を諦めない! お腹一杯になるまではダメージも厭わない! 元々死んでるから死ぬことも怖くない!!
そうだ! ゾンビは世界で一番ポジティブなモンスターなんだ!! そんなあたしが負けるワケが無い!!!
あたしは根拠の無い勇気に駆られながら、血路を求めてフロアを縦横に走り回った。
しかし、現実は非情である。 あたし達はすぐに悪霊の群れに追いつかれて取り込まれてしまった。
取り込まれてすぐに、あたしの全身を濃密な怨念が覆い尽くす。 生きてる人間なら即死してしまう程の悪霊の恨み節があたしの頭を一杯に満たして行く。
「なぜ、私がこんな目に?」
「「騙された……悪役令嬢のアタクシに優しい言葉を投げかけてくれたあの方が……」」
ん?
「「「結局、あの方は最初から私の身体が望みだった……生贄として」」」
んんんん?
「「「「恨めしやニコラス、私達を騙して自分の欲望の為に利用したこの恨みは決して消える事は無い。 せめてこの恨みはお前の魂を嬲り尽くす事で一時の慰めを得る事としよう」」」」
ぶち
「あほかああああああああああああああああああ!!!!!」
あたしは怒りの余りに、状況も弁えずに怒りの雄叫びを上げた。 あたしの剣幕に恐れを為したか、悪霊の群れは一旦距離を置いたみたいだった。
「なんで、自分を嬲り殺した仇がまだ生きてて、更にスグ近くに居るのに無関係なあたしを殺す相手に決めるのよ! それってタダの八つ当たりじゃない!?」
「お嬢様! 状況は極めて不利で御座います! ここは穏便に」
いーや、これはそんな話で済む問題じゃない。
「メイちゃん、アーちゃん、通訳よろしく」
あたしは亡霊の類に言葉が通じる仲間に通訳を任せると、一気に感情の赴くままに悪霊達にまくし立てた。
「あほかって言ったのが気に障ったのなら謝らないよ、だって本当にあほなんだから。 だってそうでしょ? 自分の仇のニコラスが近くにいるのに、恨みを晴らさずにこんな所で八つ当たりで誤魔化そうとしてるんだから」
悪霊達はあたしの剣幕に呑まれたのか、身じろぎ一つしないであたしの話を聞いてくれている。 あたしは一気に自分の主張を悪霊達にたたき付ける。
「アンタ達を殺したニコラスは、今もピンピンしてて更に新たな犠牲者を増やそうと変な陰謀を練ってる最中なんだよ? それを何? 自分の仇を討つでも無く、地上の家族や友人を守るでも無く、こんな所で八つ当たり?」
「あたしもニコラスのせいでゾンビになって、こんな迷宮を彷徨うハメになった。 でも、あたしは諦めてなんかない! 必ず蘇生して……いや、それが構わなくてもせめてニコラスのクソ野郎には一矢を報いてやるつもり」
「ここで恨みを抱いて泣き続けていたいならどうぞ。 ちなみに、あたしもニコラスの手に掛かってゾンビになった身よ。 だからアイツにはそれなりの報いを受けて貰うつもり。 さぁ、あたしに付いて来るコはいない?」
「「「「ウオオオオオオオオン!!!!」」」」
すぐに大きな返事が返って来た。 上手く行くかは判らない……でも、これは世界の命運とか関係ないあたし達の問題だ。
あたしはセバスチャンを振り上げて叫んだ。
「よーーーーっし! あたしに付いて来たいコは付いてこい!! こっからは、人族でも魔族でも無いあたし達の舞台だ! ヤる事はタダ一つ!!」
凄い高揚感があたしを包んでいた。 あたしは天井をセバスチャンの切っ先で指し示して宣言した。
「復讐行くよ! こっからはあたし達のターンだ!!」




