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失意を巡る回想……そして死に至る

今回で回想終わりです


「何……どう言う事?」


まだ事態が飲み込めないあたしを、三人が耳障りな声を上げて嘲笑う。 今までに見せた事の無い悪意に満ちた表情で。

ひとしきり笑い終えると、アクセルがあたしの耳元に顔を近づけて真相を告げた。


「悪いなシネルちゃん、早い話が俺たちは人攫いなんだ。 ……一応冒険者が本業なんだがね」


「え……」


唐突な話に、あたしは頭が真っ白になった。

そんなあたしの反応を楽しむ様に、ジャスティンがあたしの目の前まで顔を近づけて話を続けた。


「依頼主は、若い女を定期的に要求してる。 最初は街でナンパした女の子を攫ってたんだが、流石に街中の警備が厳しくなってな。 それで一々こんな手の込んだお芝居を打たなきゃならなくなったんだ」


ジャスティンはいかにも大変だよ、と言いたげに肩をすくめた。 あたしの首に短剣を突きつけたまま、ニコラスが更に話を続ける。


「冒険者ギルドの受付を張って、いかにも物知らずそうな初心者の女の子に目星を付けて、仲間に入れる。 そしてここまで連れてきて依頼人に引き渡す。 手間は掛かるけど、一人に付き最低でも五万Gの稼ぎになります。 場所柄、取引を見られる事は無いし、新米が一人消えてもよくある事案で終わる……正直、冒険者稼業よりも楽で美味しいですよ」


「くそっ!!」


騙されたと解って、なんとかアクセルの羽交い絞めから逃れようとあがいたけど、全くビクともしない。 ニコラスは笑顔のままあたしの喉元に短剣の切っ先を押し当てたので、大人しくするしか術がない。 あたしは手に持ってた短剣を、力なく床に落とした。


「大人しくして下さい。あなたの器量なら十万かそれ以上で売れるでしょう。 キズを付けて価値を下げたくありません。 ですが、あんまり大人しく出来ないなら少々痛い目に遭ってもらいますよ」


そう言いながらニコラスは短剣の先を喉元から下げて、あたしの胸の膨らみを切っ先でゆっくりとなぞった。


「まあ、僕的には可愛い女の子を血まみれにするのが、何よりも好きなんですがね」


……コイツが一番ゲスイ。


「まあ、そんな訳だ。 お前は最初から俺達の罠に掛かってたのさ。 昨日喧嘩したポルゴンとゴブンって憶えてるだろ? あいつらは実は俺達の手下なんだ。 ……中々上手いお芝居だったろ?」


ジャスティンの台詞に二人がどっと笑う。 あたしはと言えば、騙されたショックと屈辱で涙が溢れるのを止められなかった。

そんなあたしを満足げに見下ろしたジャスティンは、あたしの装備を剥ぎ取りに掛かった。 短剣、小盾、なけなしの全財産が入ったサイフに道具袋、余さず全部奪っていく。


「小銭もムダにしない主義なんでね。 それに奴隷にされるのか何に使われるのか知らないが、売られるお前には、もうこんな装備は必要無いしな」


そう言って最後の装備のソフトレザーの胸当ての剥ぎ取った。 すると、いままで窮屈に収まっていた胸が勢い良く飛び出して、アクセルが軽く口笛を吹いた。


「近くで見ると改めてスゲェな乳だな、ガキとは思えねえぜ。 なあジャスティン、依頼主が来るまでまだ時間あるだろ? それまでちょっとコイツで遊ばないか?」


「またかアクセル。 こないだもそうやって遊んでたら暴れられて、結局取り押さえるのに痛めつけるハメになって買い取り値が下がったろ。 地上(うえ)の商売女で我慢しろ」


「わかってませんねジャスティン、嫌がるのを無理やり犯るから良いんですよ。 依頼人は新品とか中古にはこだわって無いんだし、今度は傷つけずに手早く済ませますよ」


ジャスティンは二人の意見を聞いて、まずあたしの顔を見て、ついで胸を見てから下卑た笑みを浮かべる。


「仕方が無いな」


仕方が無いじゃ無い!!! あたしはこんな所でこんな奴らに大事なモノまで奪われる気はさらさら無い!

振り解けないまでも必死で抗うあたしの胸ぐらに、ジャスティンが手を掛けて、そのまま(クロース)の胸元を易々と引き裂いた。


安物め!


「裸に剥けば少しは大人しくなるだろう」


そう言いながら今度はスカートに手をかける。 ゴブンの時みたいに蹴飛ばしてやりたいけど、ニコラスの短剣とアクセルの羽交い絞めのせいで身動きもとれない。


口惜しい……


為す術も無く服まで剥ぎ取られる瞬間、耳をつんざくような雄叫びが響き渡り、次いでドスドスと言う重い足音が幾つも聞こえてきた。

思わず皆がそっちを振り向くと、この部屋に無数に開いている入り口のひとつから、牛の頭を持つ大男の群れがアクセルのそれよりも大きな斧を振り上げて乱入してきた。 戦闘の何匹かは手に松明を持ってて、部屋の中が一気に明るくなった。


大牛頭族(グレートミノタウロス)!? なんでモンスターがここに!? 話が違うぜ!」


アクセルは喚きながらあたしを壁に突き飛ばすと、素早く斧を構えた。 残り二人も同じく戦闘体制に入る。


「統制された隊列じゃない、おそらく野良だろう。 やっぱり気を抜くべきじゃ無かったな」


ジャスティンが剣に魔力を込めながら分析し、モンスターの群れに突っ込む前にあたしに恐ろしい顔をして言った。


「すぐに片付けるから、逃げるなよ。 逃げたら本当に殺すからな」


ただの脅しじゃ無い事は、アイツの表情と声で解った……でも、ここで大人しくしてても、アイツラのオモチャにされた上で誰かも判らない相手に売り飛ばされるのがオチだ。

ここがどこかも判らない。 一人で逃げてもモンスターか罠の餌食になるかもしれない。 けど、一か八かのチャンスに賭ける事にした。


「ブモォッ!!」


大牛頭族の一匹がジャスティンに切り倒されて、地面に倒れ伏す。 そいつの持ってた松明が、火が付いたままあたしの近くに転がってきた。


チャンスは今しか無い! あたしは素早く松明を拾うと、脱兎の如く手近な入り口に飛び込んだ。





後はご存知の通り。 あたしは迷宮を出鱈目に逃げ回って、その挙句に落とし穴に落ちて、ご丁寧に真下に置いてあった剣に貫かれて死のうとしている。


やっと長い回想が終わった。 目を閉じたまま最後を迎えようとしたけど、やっぱり我慢できなくて目を開けた。 例の黒い剣の切っ先は、今まさにあたしの胸の真下にあって……



そのまま一気にあたしの体を貫いた。



痛い! ……と言うよりも冷たかった。

悲鳴を上げようとしたけど出るのは血反吐だけで、ゴボッと咳込むような声しかでなかった。


視界が一気に朱く染まって……すぐに暗転した。


ああ……これで死ぬんだ。 あんな奴らに騙されて、こんな所で……一人で……


どうやらそのまま床に叩きつけられたらしく、全身を強い衝撃を襲った様に感じたけど、すぐにそれも分からなくなった。



あたしって……ホントバカみたい



意識が急速に消えて行くのが分かった。


全身の感覚はとっくに無い。


これであたしの人生は一巻の終わり。


身の程知らずの夢を見たバカで世間知らずの小娘は、それに相応しい惨めな最後を遂げましたとさ。


でも……



死にたくない……死にたく無いよぉ……



しかし現実は非常である。 あたしの意識はそのまま闇に呑み込まれ……すぐに何も分からなくなって行った。



こうしてあたしはしにました。 めでたし めでた……






(いかん!このままでは完全に死んでしまう!! 今暫くのご辛抱を! 必ずお助け致しますぞ……御主人様(マスター)!!)








今回でシネルは死にましたが、まだお話は続きます。


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