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機械の事情とあたしの都合

サブタイトルを変更しました(8/19)

「落ち着いて下さいませ、お嬢様。 “ニコラスに追い着いて、計画の第二段階に至る前に連中を倒す”。 オートマトンが言っているのは我々の当初の目標と同じことで御座います」


あ、そうなの? あたしはセバスチャンの小声のフォローで一先ず落ち着きを取り戻した。


「つまり、“とっくに離婚して家から出て行ったハズの夫が、徒党を引き連れて不正な合鍵で家に押し入り再び世帯主になろうとしている。 既に母屋を乗っ取られて難儀しているから追い出してくれ”と言った依頼だと考えれば宜しいかと」


なるほど解りやすい。 さすがはセバスチャン、出来る魔剣は違う! その辺はそこのオート何とかも見習って欲しいモノだ。

でも、まだ今までの説明では解らない事がある。 あたしはオート何とか……オート氏にその辺を質問してみた。


「まず、何でユーちゃんじゃ無くてあたしに依頼なの? 魔王絡みなら、勇者のが打って付けなんじゃないの?」


オートは暫く考える様に沈黙してから返答した。


「……メインオートマトンを含めた我々自動迷宮造成機(ダンジョンツクーラー)の人工意思複合体の目的と存在意義は、健全な管理の下で行われる迷宮の拡張と維持管理にある。 然るに、例え以前のマスターであった魔王と言えども、不正なアクセスに因るシステムの乗っ取りは排除されるべきである。 一方で、勇者は魔王同様に我々を一連の事件の元凶と考えており、我々の申し出を拒否するか最悪の場合、魔王を排除した後に我々を次の敵に定める可能性が大である」


勇者云々の(くだり)はあたしにも理解出来た。 まぁねぇ、元々は自動迷宮造成機こそがお国から手配された討伐の対象だったワケだし、あの子の性格からしたら魔王もろとも成敗!! ってなるよねぇ。

一人で納得してるあたしを余所に、オートは更に説明を続ける。


「我々が可能な限り迷宮の内部に居る人物を精査した結果、貴女がこの問題に対して比較的中立で尚且つ利害から交渉が可能との結論に至った。 何よりも今の貴女の身の上は人間でも無く完全なモンスターでも無い、境界領域(マージナル)なポジションにいる人物であるのも大きな要素だ」


「簡潔にお願い」


「色々と調べた結果、あいにく貴女しか話せる人物のアテが無かった」


「最初からそう言いなさいよ。 でも、あたしはそんなに真ん中にいる人物ってワケじゃ無いよ? 多分ユーちゃんに合流したら、ここであった事を喋っちゃうと思うよ?」


「そこで、“利害からの交渉”と行きたい。 我々はあくまで機能保全の立場から、現在行われている魔王達による不正アクセスを排除してくれればそれで構わない。 メイン機能が回復すれば、我々は正常に拡張の機能を停止して迷宮の各所を転移しつつ、この迷宮の維持管理のみに徹する事になる。 貴女は魔王を排除してメインが機能を開始し、機械本体が安全圏に転移するまでこの依頼を第三者に対して沈黙してくれればそれでいい。 その後本体が発見されて破壊される事があってもそれは別の問題だと考える」


「そっちの事情(メリット)は(セバスチャンの通訳で)解ったわ。 それであたしの報酬(メリット)は? こっちにも色々と都合があるし、それなりのモノは提示出来るんでしょうね?」


……自分はこの事態で交渉出来る立場なのだろうか? でも、一方的に条件を飲んで機械の使い走りになるのも考え物だ。 オートはまた少し沈黙した後、口早く報酬の内容を提示した。


「隣室の蘇生設備の攻撃や災害および迷宮の崩落に対する最優先の保持と、万が一それでも蘇生装置が使い物に成らなかった場合の代替設備の座標は何があっても動かさないと言う確約と、隣室の設備の部屋と同等の安全保持。 それと、迷宮内の怪物は今後如何なる命令を受けても二度と外部に出さないと言う確約でどうか?」


「それを信じろって言うの? なんかあたしのメリットが薄い気がするし……」


「信じて貰うしかない」


あたしとオートはしばらく沈黙してにらみ合った。

その時、上から地響きの様な音が響いて広間全体が軽く揺れた。 それにつれてオートの姿が揺らいで消えかけたがどうにか元の姿に戻った。


「どうやら自動迷宮造成機に対する本格的な不正アクセスを開始する為に、専用の魔法機械を動かし始めた様だ。 現在は他の補助オートマトンがシステムを防衛している状態で、まだ時間に余裕はあるが、このままシステムへの侵食が進めば、私もこの姿を維持できなくなり結果的に交渉は反故となる。 そうなれば後は諸君だけの力で事態の解決に当たらねばならない……可能ならの話だが」


げ、ニコラスども、ついに第二段階とやらを始めたのか! ユーちゃんはまだ間に合って無いみたいだし……

戸惑うあたしを見たオートは広間の振動に構わず、落ち着いた態度であたしに交渉の続きを始めた。


「……では“前金替わり”として、直ちに上階にある宝物庫と武器庫に繋がる最短距離の通路を提供しよう。  更に現在把握する限りの地下宮殿マップの提供でどうか? これが最終条件だ」


……いいかもしんない。

宝物も勿論魅力的だけど、さっきのダグウェル達との戦いで魔力弾が尽きてしまっていた。 あたしとメイちゃんの連携攻撃や、奇襲のフォーメーションには魔力弾を使用したのが多い。 もし武器庫で補充が利くならかなり有利になるし、他にも有効な武器か何かがあるかもしれない。

何より依頼を受けるかどうかに関わらず、どの道ユーちゃんを追っかけて合流してニコラスや魔王を倒す事には間違いは無い。 なら宮殿のマップの存在はかなりの助けになるだろう。


再び地響きがして部屋の壁に亀裂が入った。 一瞬これもワナなんじゃ無いかと考えたけど、オートの話を信じる根拠も無いが疑うに足る根拠も無いとも考えた。


一か八かでここまで来たんだ。 もう少しだけ、この賭けに上積みしたって良いだろう。 ここまで来たら総取りか破産かだ!


「おっけ、交渉成立! 冒険者としてこの依頼……受けた!!」


あたしは覚悟を決めて、オートに右手を差し出した。







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