迷宮の歴史と共通語の呪文
……えっと、ごめん。
共通語で話し掛けてくれてるのは判るんだけど、意味が頭に入ってこないって言うか…… で、アナタはドコのドナタ様ですって?
ローブ男の名乗りを理解できずに困惑するあたしに、セバスチャンがフォローを入れてくれた。
「魔法機械の自動迷宮造成機にも、私の様に知能が有るようです。 只、件の機械はあまりにも大きすぎる為に一つの機械に何人分もの知能が入っていて、目の前のオートマトンは、メインの人工知能……言うなれば家主を補佐する立場にあるようです」
解った様な解らない様な……とにかく、このローブ男は自動迷宮造成機の一部で、それでいて下っ端に位置すると言う事か。
で、こいつがそのオート何とかである証拠は、ここに来るまでの小道を作った事で証明されるのかもしれない。 でもまだ解らない事の方が多いので、敵意も無いみたいだしあたしはオート何とかに質問をぶつけてみた。
「その補佐役サマが何か御用? 何か様があるなら上役が直々に来ても良いんじゃない?」
「残念ながら、メインの人工知能は自我と会話機能を破損した状態から回復しておらず、交渉出来る状態ではない。 普通なら自己回復か外部からのメンテナンスを待つ状態であるが、そのどちらも望めない上に緊急事態が重なったので、動作可能な補佐オートマトンが合議して緊急避難における非常措置として諸君にコンタクトを取らせて戴いた」
「…………」
「つまり、彼らの代表は現在病気で寝込んでいて、非常事態がそこに重なった為にやむを得ず、残った者達で話し合って我々に接触を取ったと」
な、なるほど。 うんうん、きっとそういうコトだと思っていたのよ。 いやホントに。
「そ、それで? ワザワザ手の込んだ招待までしてもらった理由はナニ?」
「既に察しは付いている物と思われるが、地下宮殿の構造に手を入れて諸君を蘇生設備室まで誘導したのは我らである。 諸君に事の次第を見て貰って、そこから行動に出るか傍観を取るかを観察させて戴いた」
やっぱりあの拷問部屋と地下牢を見せた上で、広間のテラスまで誘導したのはコイツらか。
その上でユーちゃんがダグウェル一味に捕まる処までを見せた上で、あたし達がどう出るかを見ていたって?
「ずいぶんと回りクドい事をするじゃない。 で、あたし達はダグウェルを妨害してユーちゃんを助けた。 ニコラスは逃がしちゃったけどね。 それで観察の結果はどうなったっての?」
「合議の結果、幾つかの不確定要素はある物の、現在の地下宮殿内部に於いて現状を打破しうる力と判断力を兼ね備えた人物は諸君しか居ないと結論が出た。 その結論を踏まえて諸君らにクエストを依頼したい。 依頼の内容は……“我々を助けて欲しい”」
は?
いや、冗談じゃなく頭の中が“は?”って言葉で一杯になってしまった。
だって、そうでしょ? 自動迷宮造成機って言えば、今現在もこの地下迷宮を好き勝手に改装・拡張してる言わば、この迷宮そのものって言っても良い機械じゃない。
それがあたし達に助けを求めるって、一体どんな事態が起きてるってのよ?
「……数百年前、異世界から訪れた勇者によってこの迷宮の主にして、我ら自動迷宮造成機のマスターであった魔王が倒された。 魔王と我らとはちょうどその魔剣と同じような魂による契約で結ばれており、本来ならば魔王の死を持って契約は解除されて迷宮拡張の機能は停止される筈だった」
「……」
「だが、魔王が生前にメインオートマトンに何らかの細工を施していたらしく、魔王の死後にメインは機能を停止するどころか、我々サブの干渉を受け付けない一種の暴走状態となり、自我を失ったままで無秩序な迷宮の改装と拡張を続けていた。 我等、サブオートマトンはそれに干渉する権限を持たず、その機能は無秩序な迷宮の拡張により迷宮その物が崩落する事が無い様に、構造の細かい修正や補強をするだけに留まった」
「……」
「それが近年になって、亡き魔王のアカウントを使用してメインに干渉する者達が現われた……諸君らもご存知のダグウェル達だ。 例え魔王のアカウントであっても一旦契約が解除になったなら、再びそのアカウントでメインにアクセスする事は不可能な筈だった。 ところが、そのアカウントは機能の一部を連中に開放して、地下宮殿と迷宮内部のモンスターの制御を可能にした」
「……」
「原因は不明だが、魔王が生前にメインに施した細工が原因であるらしい。 その上で奴等はこの地下宮殿に大掛かりな魔法機械を持ち込んで、その機械の力で強引にメインの機能を掌握するつもりの様だ。 魔王がメインに何をしたのかは不明だが、これは不正なアクセスには違いない。 メインが自我を取り戻さない以上、機能を正しく取り戻す為には事情を知る第三者による外部からの物理的な力で、魔法機械による不正アクセスを排除する意外に事態解決の方法が無いとの結論に至った」
「……」
「すなわち、不正アクセスを試みる魔王及びその一党と、メインに干渉する魔法機械の排除が我らの依頼である。 無論、冒険者の流儀は理解しているので報酬は約束する。 どうか我らの依頼を受けては貰えないだろうか?」
「……うぅ」
「……? 如何した冒険者殿?」
……うぅ、うわぁあああああん! 機械がぁ、機械が難しいコト言って頭が悪い田舎娘のあたしをバカにするよぉぉぉぉ。 何とかしてよぉ、セバスチャアアアアン……
全く悔しい事に、オート何とかの言ってる事の半分もあたしには理解出来なかった。 あたしは冷静を装いながらも、心で号泣しながら傍らのセバスチャンに助けを求めた。
明日と明後日(8/16~17)はお休みします




