自己憐憫と当て推量
……
ようやく死闘が終わった。 メイちゃんが途中で必死で止めてくれなかったら、今頃あたしの胸は無残にも怒りくるった勇者にもぎ取られていただろう。
「ありがと、メイちゃん」
メイちゃんは照れ臭そうに身をよじった。 ……なんかさっきから、あたしの裸に興奮してる気がするけど多分、気のせいだろう。 それよりも……あたしは床に座り込んで身動きしないユーちゃんに声を掛けた。
「そろそろ落ち着いた?」
「とっくに……落ちついてますわ」
そう言ってユーちゃんはあたしの方へ振り向いたけど、その綺麗な顔は涙で濡れてしまっていた。
そんな……泣くほど胸の事が悔しかったの? 最近は胸が無い方が人気って聞いた事があるけど、あれってガセだったの?
「そっちじゃありませんわ!! ワタクシは自分の不甲斐なさに腹が立っているだけですわ!!」
「え?」
ユーちゃんは溢れる涙をなんとか止めようと手で目を拭っているけど、それよりも涙の量が多すぎてますます顔が涙でグシャグシャになってしまう。
戸惑うあたし達を余所に、ユーちゃんは涙声で自分の身の上を語り始めた。
「ワタクシの家は、かの女勇者“魔族狩り”のシャルテの由緒ある血筋を引きながら、その後は大した活躍も無く没落する一方。 今や断絶したとすら思われて、完全に忘れられた存在になっていましたわ」
そうい言えば、セバスチャンがそんな事を言ったら激怒してたっけ。
「そして、ようやくワタクシが勇者の名に相応しい能力を発揮して一族の期待を集め、遂にはかの“シャルテ”の名前まで受け継ぎましたわ。 これでワタクシが没落したサンドルマ家を復興させる事が出来ると……そう思いましたのに、意気揚々と訪れたこの迷宮であっさりと夢が破れるなんて……」
「いや、まだ終わったワケじゃないし」
「とんだお笑い種ですわ。 調子に乗って聖騎士団まで引き連れてアドベルグにやってきて、多くの冒険者を引き連れて……相手は人間の悪党を操って陰謀を働く一介の魔貴族。 正直、楽勝だと思ってましたわ」
「ちょっと聞いてる? 人の話を」
「……それがまさか、すべてはワタクシを捕らえる為の茶番劇で、案内を依頼した冒険者ギルドで既にワナに掛かっていたなんて……」
「おーい、ユーちゃーん?」
「そして、何も知らずにノコノコとダグウェルの前に出た挙句に、あっさりと捕らわれて、助かったものの討伐には失敗とはシャルテの名が泣いてしまう程の失態ですわ。 どうか笑って下さいませ、伝説の女勇者の再来などと持て囃されて自惚れて、その挙句がこの有様……ワタクシなんて、所詮は只の」
「えい」
「あん」
とりあえず、あたしは自嘲を止めないユーちゃんにツッコミビンタを入れて、彼女を悲劇の舞台から現実に引き戻した。
「痛いですわ! 何をなさいますの!?」
「アンタが人の話を聞かないからでしょうが! まだ完全に終わってないのに、諦めるのが早すぎって言ってんの!」
「完全に……終わってない?」
……多分ね。 あたしのこの推理には何の確証も無い。 どっちかと言えば憶測とか当て推量、もっと言えば妄想の域を出ない。
でも今はユーちゃんを落ち着かせるのが先だ。 あたしはユーちゃんの目の前に同じように座り込むと、改めて説明を開始した。
「いい? アンタは触手に絡まれて、それどころじゃ無かったと思うけど、ダグウェルは魔王復活の儀式を止めに来たアンタに向かって、もう魔王の復活はとっくに済ませたって言ったの覚えてる?」
「そう言えば……」
「その魔王ってのは一体ドコ? ダグウェル達が示し合わせて嘘を言ってるんじゃ無かったら、その魔王ってのは復活を済ませてどこかに居るって事じゃない?」
「あ……」
「で、あたしの魔剣が言うには、奴等は上階で何か大きな魔力機械を動かしてるみたいなんだって。 だから、多分今頃にはさっきのド変態と件の復活した魔王は、上階で何か変な機械を使って、計画の第二段階とやらの真っ最中なんだと思うの」
「……」
「だから、今の状況は一刻の猶予もならない位逼迫してるかもなんだけど、完全に詰んでるワケでもない。 十分に逆転は可能だと思うの」
あたしはユーちゃんの前でまた立ち上がって、格好良く宣言してみせた。
「だから今すぐ上階に行って、そこに居るニコラスなり魔王なりを計画第二段階とやらで叩き潰せば、一発逆転! アンタは大手を振って地上に帰って御家を再興出来るし、あたしは無事に蘇生出来たら言う事なしなんだと思ううんだけど、どうかな?」
ユーちゃんは少し考えて、それからゆっくりと言葉を紡いだ。
「アナタの提案は一時保留として、ワタクシからも提案が有りますの」
え? なになに?
「いつまでも全裸でウロウロするのを止めなさい! いい加減にしないと、聖剣でその胸を削ぎ落としますわよ!!!」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! あたしは慌てて傍らのアーちゃんに手を伸ばした。




