勝利宣言と犯行声明
「な……」
あたし達は、突然のニコラスの裏切りと魔杖ザビーネがいきなり所有者のダグウェルに攻撃を仕掛けたのを目の当たりにして、触手に抗うのを忘れて呆然と事の成り行きを見守るしかなかった。
他の魔族もあたし達と同じく触手に捕らわれて必死でもがいている為に、ニコラスの謀反に割って入るどころでは無く、今この広間で唯一自由に動けるのはニコラス唯一人と言うありさまだった。
「……何の……マネだ?」
いきなり頭を撃たれて、床に倒れたまま起き上がれないダグウェルは、それでも半分焼け爛れた顔だけをニコラスに向けて苦しそうに呟いた。
一方のニコラスと言えば、余裕の笑みを浮かべながら瀕死のダグウェルを見下ろしている。
勿体ぶって一息ついたニコラスは、愉悦に満ちたクソみたいな笑みを満面に浮かべながら、芝居がかった大げさな仕草で説明タイムに入った。
「何? と言われましても、今説明した通りダグウェル様の計画を乗っ取らせて戴きました。 その上で、最早用済みとなったダグウェル様をこれから始末させて戴きます」
「気でも……狂ったのか?」
「はい、私はとっくに人で言う所の正気は捨て去っています。 その上で魔族にも同じ事を聞かれるとは、やはり私は魔族的にも狂ってるのでしょうね。 うふ、うふふふふふふふ……」
そして、両手を広げて広間にいる全員にアピールしてみせる。
「そんな狂人の私ですが、自分の目的とそれを為すための手段はキチンと認識しております。 私は私の野望のために人界を裏切って魔界に与し、ダグウェル様にお仕えする一方でこのチャンスを狙っていたのです!」
ニコラスはダグウェルの側まで歩み寄ると、床に転がったザビーネを拾い上げた。 魔杖は相変わらずのカンに障る口調で、いままで我が君と呼んでいたダグウェルを嘲り始めた。
「ごめんなさァい、ダグウェル様ァ。 でもォ、ダグウェル様もいけないんデスよォ? だァって、ダグウェル様ったらワタシを完全に只のモノ扱いして、全く愛して下さらないしィ、この頃は計画に夢中でサッパリあたしに構って下さらないんデスものォ」
「それで……その人間風情に付いたと言うのか」
「はァい。 ダグウェル様がワタシを置き去りにしてた時に、ニコラス様がやって来て、ご自分の謀反の企みと計画の目標を聞かせて下さいましてェ……で、ソッチの方が面白そうだったから、ワタシはニコラス様に寝返る事に決めたんデスゥ。 キャーハハハハハハハハハァ!!」
「それくらいにしてあげなさいザビーネ。 寝取られ男がカワイソウじゃありませんか」
ニコラスはそう言いながら、ダグウェルに見せ付ける様に手にしたザビーネに舌を這わせた。
「ァアン、はァい仰せのままにぃ我が君ォ」
「とまぁ、そんなワケなんですダグウェル様。 ここまでのお膳立て、誠に有難う御座いました。 これからの計画は私が引き継いで私利私欲の為に役立てますので、後はどうかこのまま地獄でゆっくりとくつろいで下さいませ」
ニコラスがそう言った瞬間ザビーネから再び電光が迸り、今度は完全にダグウェルの頭を呆気なく吹き飛ばした。 それは、今までこの迷宮の奥深くで陰謀を巡らせて来た魔貴族の、あまりにも呆気ない最期だった。
一瞬の沈黙の後、主を失った魔族達が一斉にニコラスに向けて怒号と罵声を浴びせた。 そのままニコラスに飛び掛って行く勢いだったが、依然として触手に絡まれたままなので、ヤツには指一本触れる事さえ出来なかった。
「煩い連中ですね。 こいつらはダグウェルの地獄へのお供にしましょう」
ニコラスがそう言うと、触手は魔族達を一斉に強く締め上げ始め……
肉と骨が砕ける音を次々に上げながら、屈強な魔族を一匹のこらず絞め殺してしまった。
「ひ……」
未だに口に触手を入れられたままのユーちゃんが、その恐ろしい光景を目の当たりにして、短い悲鳴を上げた。 ニコラスはあたし達だけを絞め殺さずに残した様だったが、触手の戒めは未だに解いてはくれなかった。
「さて、残るは女勇者様と私に屈辱を与えてくれたクソゾンビ御一行様だけですね」
「なんで、あたし達を残したの?」
「まず、女勇者には利用価値があります。 そして散々利用したら、あとは嬲り者にする愉しみが待っています」
ニコラスはまた触手でユーちゃんの身体を弄り始めた。 触手の細い先端がビキニアーマーの内側に侵入して、いやらしい音を立てながら大事な部分の表面を這い回る。
「んぅっ!? ンンンンンンッ!!」
ユーちゃんは悲鳴を上げて抗うけど、口の中の触手のせいでくぐもった声しかだせなかった。 だから代わりにあたしがド変態に怒鳴りつけた。
「やめなさいよ、このド変態! 女の子を苛める事が、謀反まで起こしてやる事だっての!?」
「はい。 そうですが、ソレが何か?」
ニコラスはあたしの挑発にあっさりと肯いたので、逆にあたしの方が呆気に取られて続く言葉が出なくなってしまった。 逆にニコラスはあたしの反応を楽しむかの様に微笑むと、ザビーネを掲げて高らかに宣言した。
「そう、それこそが、私の目的なんです。 私の性癖や趣味を思う存分に発揮すると、残念ながら人界のどこの国でも重罪に問われてしまいます。 実際に私はソレで幾つかの国で手配されていて、捕まったら死刑は免れないでしょう。 顔と名前を何度も変えて、欲望を満たしながらの逃避行を続けて来ましたが、それも限界が見えて来ました」
そして、床に臥したままのダグウェルの死体を踏みつけて告白を続ける。
「それで私は魔界に身を寄せて、この魔貴族の配下になりました。 そして、この迷宮で魔王復活の為の生贄を集める一方で、余禄として生贄の条件を満たせなかった女を思う存分に嬲り殺して一応の満足を得ました」
あたしは上階の拷問部屋と、そこに放置されていた惨たらしい死体の山を思い出した。 そうか、アレはこのクズがやったのか……
「ですが、魔貴族の配下として愉しみを得るのには限度があります。 実際にゾンビ女の出現で立場を悪くして、危うく切り捨てられそうになりましたしね」
ニコラスはあたしを憎しみの籠った視線で睨み付けたが、また元の笑顔に戻って完全にダグウェルの死体の上に乗っかってステップを踏みながら宣言した。
「結局、魔族の配下になっても何かに怯えながら欲望を満たして行くしかない。 でも、それでは心置きなく愉しめないし、ワザワザ人界を裏切って魔界に与した意味も無い……だから、私はこの計画を乗っ取って世界初の人間由来の魔王になり、自分の欲望を隠す事無く何時でも何処でも発揮できる理想の世界を創ろうと考えたのです!!」
そんな……そんな目的の為にコイツはここまでの事を……
「最低……」
あたしは心の底から沸き上がって溢れそうな嫌悪感を、思わず声にして吐き出した。




