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混戦と拘束……と突然の翻意

その次の瞬間、あたしの手の中でメデューサの干し首が音を立てて弾け飛んだ。


「あつっ!?」


実際には痛みも熱さも感じないのだけど、生前のクセは未だに抜けない。 何が起きたのか理解出来ずに自分の手を見ると、手のひらを大きなダーツが貫通して突き刺さっていた。


「ゾンビさぁん? 石化攻撃は戴けませんわねェ? そんなズルい(チート)アイテムは厄介だから、悪いけど破ァ壊させてもらいましたわァ」


ダグウェルが手にする魔杖(ザビーネ)があたしにそう言う傍らで、空中に多数のダーツが浮遊しているのが見えた。


「いけません、お嬢様! 早く石像(ここ)から降りて下さいませ!」


セバスチャンの警告と同時にあたしは闇鬼畜族(ダークオーク)の石像から慌てて飛び降りた。

次の瞬間、あたしがいた場所を多数のダーツが高速で飛来して、標的を外したダーツの群れは反対側にいた大牛頭族(グレートミノタウロス)に次々と突き刺さった。


「ブモォオオオオオオッ!?」


ダーツは大牛頭族の巨体に深々と突き刺さり、そいつはそれが致命傷になって転倒して息絶えた。


「成る程、ザビーネめ考えましたな。 念動力の魔法で加速したダーツなら、耐魔法結界で念動力の魔法を防いでも慣性の付いたダーツの運動エネルギー自体は止まらない。 結界対策としては、かなり洗練された手段と言えましょう」


「いやいや、感心してる場合じゃないって!」


あたしは手のひらに突き刺さったダーツを引き抜いて、再びセバスチャンを構え直した。

大牛頭族の身体を易々と貫いたダーツの直撃を受けて、この程度のダメージで済んだのはアーちゃんの防御力と闇の瘴気のお陰だったけど、この左手の穴が塞がるにはまだ少し時間が掛かりそうだった。

それよりも、かなりのお便利アイテムだったメデューサの干し首を失った方が痛手だった。 これがあればこそ、あえて危険を冒してこの広間に飛び込む勝算があったと言うのに。


「ブヒイイイイイイイッ!!」


そうしている間にも魔族の群れは石像の壁を押し倒しながら、闇鬼畜族を先頭にして殺到してきた。 まだ左手の穴は塞ぎ切っていない。 些か不利だけど、片手で連中を相手に戦わなければならなかった。


と思った瞬間、メイちゃんがあたしと魔族の間に飛び込んできて、鮮やかな槍捌きで魔族を次々と突き倒していった。 石像の壁に次いで死体の山がたちまちの内に築かれて、魔族の軍勢は再び行く手を塞がれた格好になった。


「メイちゃん、グッジョブ!」


やっと手のひらのキズが完全に塞がったあたしは、セバスチャンを最大まで伸ばしてメイちゃんの隣に付いた。 メイちゃんは敵に集中しながらも、少し照れた感じで首を振ってみせた……やっぱ可愛い。


とりあえず、さっきまでの石化攻撃とメイちゃんの攻撃でこっちの魔族は半分以上、その数を減じる事に成功した。 一方で、ユーちゃんも一人で魔族の軍勢相手に互角以上の戦いを見せて、完全に敵を圧倒していた。

流石は勇者、今や彼女は完全に本来の強さを取り戻したみたいだった。 ダグウェルはこの乱戦で同士討ちを恐れてか、あれから魔法もダーツも撃って来ない。

今や大物の魔族はあらかた駆逐して残るは闇鬼畜族、これならいける! あたしはセバスチャンを横薙ぎに振るって目の前の闇鬼畜族を斬り飛ばしながら、一気にダグウェルに飛びかかり……


……そこで身動きが取れなくなってしまった。


「な、なに!?」


いつの間にか全身に、さっき見たような触手が絡み着いてあたしの動きを完全に封じていた。

傍らのメイちゃんも同様で、彼女の怪力を持ってしても触手を完全に振り解くことが出来ないみたいだった。


「い、嫌ああああああぁ!?」


向こうからもユーちゃんの悲鳴が聞こえて来た。 恐らく、再び触手に絡まれてしまったのだろう。 でも、ダグウェルは呪文を唱えた気配は全く無かった。 なら、この触手は一体誰が!?


「いい格好ですね、ゾンビ女」


戸惑うあたしの耳に、広間の片隅から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 でも、この声の主はついさっき死んだはず!? あたしは唯一自由な首を曲げて、声のした方を振り返った。

そこには、ダグウェルの魔法攻撃を受けて粛清されたハズのニコラスが、嘲りの笑みを浮かべてた立っていた。


「さっきのダグウェル様の魔法で死んだと思いましたか? 残念! 透明化の魔法と短距離の転移魔法の組み合わせによる欺瞞工作でした!!」


……つまり、さっきの粛清劇もお芝居だったと言うワケ? ニコラスはダグウェルの魔法を食らって処刑された様に見せかけて、魔法で姿を消した上でどっか見えない所に転移して身を隠し、また触手を召喚するまで魔族の軍勢に時間稼ぎをさせていた……と、そう言うワケ?


「まぁ、そんな所ですね。 ダグウェル様がそう簡単に私の様な逸材を切り捨てる訳が有りませんからね」


ニコラスはそう言ってはいるものの、ローブの各所は焼け焦げて身体のあちこちにも火傷を負っているみたいだった。 相変わらず、用済みになったら切り捨てられるポジションには違いないんじゃないの?

って、変態の心配なんかしてる場合じゃ無い! あたし達は必死で触手の縛めから抜け出そうと身をよじったけど、まったく抜け出せない。 必死で触手に抗うあたし達を見ながら、ダグウェルが勝ち誇った笑い声を上げた。


「勝負あったな。 勇者はまだ利用価値があるから生かしておいてやるが、他の者はこのまま地獄なり淫界(ノクターン)なりに堕ちるが良い」


ちょ!? 冗談じゃない! ここまで来てやっと蘇生のチャンスが見えて来たって言うのに、生き返るどころか淫界送りにされて触手や鬼畜族に「ひぎぃ!」とか「んほぉぉぉ!?」とか弄ばれる末路なんて絶対にゴメンだ!

でも、あたし達は完全に触手に巻きつかれて腕一本動かせない有様で、ユーちゃんも同様に拘束された上に口の中に触手を突っ込まれて、呪文の詠唱も自害も出来ない状態にされていた。


「散々手こずらせてくれたが、これで計画の第一段階は完了だ。 代わりの偽装魔人(ドッペルゲンガー)を呼び寄せて勇者の完全な似姿を取り次第、直ちに第二段階……地上への侵攻に取り掛かる」


「仰せのままにィ、我が君(マイロード)


ダグウェルの宣言に会わせて、ザビーネが調子をあわせる。 その時、広間の隅っこに控えたままのニコラスがダグウェルに問いを発した。


「一つだけ、お聞きしたい事が御座います。 我が君」


「なんだ?」


「は、ダグウェル様の地上侵攻に際し、その目的……真意をお聞き致したく」


ダグウェルは、ニコラスを虫でも見るような目で見下ろすと、それでも仕方が無いと言った風に話しはじめた。


「フッ、卑小な人間の身では魔貴族の真意を計る事は出来まいな。 魔族として生まれたからには、強さを極めて魔王の座に上り詰め、魔界と人界の両方に覇を唱えて“大魔王”となる。 この魔族としての野心と武人の本能は、貴様のような凡俗には理解は出来まい」



「おっしゃる通り全く理解出来ません……ですが、これで安心致しました。 いかにも脳筋の魔族らしい凡庸な動機故に、心置きなく計画を乗っ取る事ができそうです」



「何? 今、何と」


ダグウェルがニコラスに今の言葉の真意を問いただそうとした時、彼が手にしていたザビーネが、いきなりダグウェルの側頭部を目掛けて強力な魔電光(ライトニングボルト)を放った。


「ぐぁっ!?」


頭に強力な魔法の一撃を受けたダグウェルは、堪らずに床に倒れ伏す。


突然の出来事に、声も無く呆然としているあたし達を他所に、ニコラスは勝ち誇った様子で両手を広げて倒れたままのダグウェルに告げた。


「実際、貴方の計画の動機がもっと面白いモノだったら、このまま便乗するつもりだったのですが……やはりその程度の動機でしたか。 ならばこのまま計画を乗っ取って、自分の目的の為に利用させて戴きましょう」

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