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冥土の土産とブーイング

偽装魔人(ドッペルゲンガー)……標的とそっくりに化けて、本人を殺す魔族の一種。

殺した本人とすり替わって、人族の社会に混乱をもたらせる忌々しい存在……


「では……最初から……」


ユーちゃんはポツリと呟くと、力なくうな垂れた。 ようやく現状を察したみたいだ。

多分、ユーちゃんはどこかでアドベルグの迷宮でモンスターが現われて、同時に街の住人や新米冒険者の女の子が多数行方不明になっている事件を聞いて、それを解決する為に聖騎士を引き連れてここへ来たんだ。


その前に高レベル冒険者の美形野郎に成りすました偽装魔人が、ジャスティン達の取引現場に他の冒険者を引き連れて現われる事で、事件の存在と黒幕のダグウェルの存在をアピールした。

そのついでに、足が付いて用済みになったジャスティン達も始末した……と。 その時に、あたし達と言う邪魔が横から入ったけど、ゾンビに魔剣に幽甲冑(ゴーストメイル)のパーティーなら、バケモノ呼ばわりして追い払えば良かっただけ。


あたしが初めてアドベルグに着いた時には、勇者がここに来ているなんて話は聞いた事も無かった。 勇者と認められた人物が同じ街にいたなら、たとえマイナーな世襲の勇者でもその噂で持ちきりになる。 だから多分ユーちゃんがここに着いたのは、つい最近の事なのだろう。

で、冒険者ギルドで迷宮に詳しい冒険者を募って、やはり偽装魔人が成り済ましていた受付のお姉さん(ジャスティン達が生きてた頃には、あたしみたいな“カモ”となるチョロイ新米の選別もしてたに違いない)が数人の冒険者を斡旋する。

その中に偽装魔人の美形野郎が紛れ込んで、地下宮殿の手前までユーちゃん御一行を案内……と言うか誘導したんだ。 討伐隊の内部に手引きする魔族が紛れ込んでいれば、ダグウェル側は有利な状況で討伐隊を襲撃できる。

それで、討伐隊は大打撃を受けたけど、多分負けん気の強いユーちゃんは「ここからは、ワタクシ一人で充分ですわ!」とか言って、討伐隊を撤退させて一人で地下宮殿に乗り込んで来たに違いない。

ユーちゃんは「もうすぐ増援が来る」って言った。 それは多分、撤退する討伐隊に地上へ増援の要請を言付けたんだと思う。


……でも、ここにいる偽装魔人は「助けは来ない」と言った。


あたし達が百手巨人(ヘカトンケイル)から助け出した討伐隊の生き残り達は、この美形野郎に化けた偽装魔人に率いられていた。

……それが、あれから大して時間の経ってない今、コイツがここに居ると言う事は……生き残り達はおそらく今頃は全員……


「今頃は全員が喰人鬼(オーガー)の胃袋の中でしょうね」


不意に聞こえたニコラスの声があたしの考えと一致して、思わずバルコニーから身を乗り出して広間を見渡した。 どうやら魔族連中はユーちゃんに“冥土の土産”を渡している最中らしい。

ニコラスが芝居がかった仕草で、ユーちゃんをワナに掛けるまでの敬意を語って聞かせている。 一方のユーちゃんは、援軍の希望すら断たれて完全に心が折れたみたいで、うな垂れたまま触手に抗おうとすらしていない。


完全にマズイ状況だ。 あたしはユーちゃんを助ける為に役に立つアイテムは無いか魔力鞄(インベントリ)をまさぐった。 その間にも、下から得意げなニコラスの声が聞こえてくる。


「と、まぁ。 説明が些か長くなりましたが、そう言った次第です。 魔王復活の陰謀は確かにウソではありませんでした。 ですが、この長い茶番劇の目的は、騒ぎを聞きつけて現われた勇者を捕獲する事にあったのです」


「それで、ワタクシを……どうする気ですの?」


「いいですね。 その完全に絶望に押し潰された弱々しい声! 聞くだけで思わず勃起してしまいますよ!!」


「ニコラス、下品が過ぎるぞ」


「これは、失礼致しました我が君(マイロード)。 では、計画の第二段階開始の時間も押しておりますので、手短に……これから我が君ダグウェル様は、この迷宮で手に入れた力と軍勢を持って地上に進軍なさいます。 それに先立って貴女の似姿を取った偽装魔人を地上に放ち、陽動と混乱を人間側に引き起こして侵略を容易にする手筈になっております」


「な……」


「その為には、もう少しメジャーな勇者が良かったのですが、まぁ古臭い家系とは言えども名門のサンドルマ家の末裔が手に入っただけでも良しと致しましょう」


「……その為に、ワタクシを……」


「いい感じに萎れてきましたね。 時間を掛けて真相を暴露した甲斐があったと言うモノです。 偽装魔人が完璧に似姿を取るまでには時間がかかります。 その間に暴れられると厄介ですからね」


ニコラスが目配せをすると、後ろに控えていた偽装魔人がゆっくりとユーちゃんに近づいて行く。

ユーちゃんは自分の運命を察して必死に抵抗を再開したけど、触手に締め上げられて苦悶の呻きを上げながら拘束されるがままになってしまった。


「ムダに暴れて折角の綺麗な身体にキズを付けさせないで下さいよ。 コトが済んだら死体は僕が貰えることになってるんです。 女勇者の死体なんて滅多に手に入るモノじゃありませんからね、今から凝った遊び方を考えないと……うふ、うふふふふふふふふふふ」


「そろそろ良いだろう。 早く済ませるが良い」


ダグウェルの催促に偽装魔人が短く肯くと、両手で頭のフードを取ってまた顔を曝した。

今度は誰の顔でもない、それどころか目鼻も口も頭髪も無い漆黒の頭部が現われた。 多分コレがアイツの素顔なのだろう。

って、ついにヤツらはユーちゃんを始末する気だ! あたし達はここでダグウェル達の陰謀劇が完結するのを見届ける観客でしかない?

ここまで抜け道であたし達を誘導して来た誰かは、ここに来てこのバルコニーで釘付けにされて観客で居ることを強いられてる。 いや、強いられているんだろうか?


「……試されているのかも」


あたしは思わずポツリと呟いた。


「試されている? 誰にです?」


セバスチャンはそれを聞きつけて、最もな問いを返してくる。 メイちゃんも不思議そうに首を傾げた。


「解らない。 でも、この陰謀劇を全部見せられてあたし達がどう動くかを、ここにあたし達を誘導して来た誰かが見極めようとしてる……そんな気がしたの」


「成る程。 ですが、ここまで親切に最短距離で案内しておいて、ここでの足止めはこれから起こる事のの全てを見届ける観客に徹して欲しい、と言う意思表示かもしれません」


むぅ、セバスチャンの言うとおりなのかな? でも、あたし達を誘導して来た誰かさんがここで何もして来ないのは、ユーちゃんを助けるのか、それとも観客に徹するのかをあたし達……あたしに選ばせようとしているみたいだった。


見れば、ユーちゃんは触手に繋がれたままで偽装魔人の眼前に突き出されている。 彼女は完全に諦めたみたいで触手のされるがままになってしまっている。

ニコラスは触手を操って、ユーちゃんの敏感な場所に触手を這わせて反応を楽しもうとしているみたいだったけど、彼女が何の反応も示さないのを見てつまんなそうにしている。

そしてダグウェルは全ての成り行きを退屈そうに見守っている……つまり、誰もあたし達に気が付いていない。


あたしの腹は既に決まっていた。 あたしはメイちゃんに手早く作戦を伝えると、急いでバルコニーの手摺に上って仁王立ちになり、そして下の魔族連中の注意を逸らすために大声で叫んだ。


「引っ込め、ヘボ役者ども!!」


そして叫ぶと同時に、手摺から思いっきりジャンプして、一気に飛び降りる。

あたしはこの不愉快な陰謀劇をぶち壊してやる為に、客席から舞台に乱入してお芝居の主役の座を乗っ取ってやる事にした。


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