答え合わせと偽りの味方
「くっ! 放しなさい!!」
ユーちゃんは全身に絡みつく触手を振り解こうともがいたが、その程度では一本も身体から離す事は出来なかった。 それどころか、細かい触手が微妙な部位を弄り始めて、彼女は身を竦ませて嫌悪混じりの悲鳴を上げた。
「い……嫌ぁあああっ!?」
彼女の細い肢体には、元よりキワどいデザインのビキニアーマーしか着けられていない。 正直、全裸よりも恥ずかしい格好なのにそこに触手が纏わり付いて、それを振り解こうと抗って悲鳴を上げながら身体をくねらせる様は、同じ女の子のあたしでも……
「そのくらいにしておけ、ニコラス。 余は下卑た趣好は好まぬ」
ダグウェルの一言で触手はユーちゃんの縛めを解かないものの、一先ずその動きを止めた。
「失礼致しました、我が君」
ニコラスは畏まって後ろへ下がったが、それでもユーちゃんの身体を好色な視線で犯す事を止めはしなかった。
いけないいけない、あたしもあのド変態と同じレベルに堕ちる所だった……それにしても、あの変態までここにいたなんてね。 思ったよりは下っ端ってワケじゃ無かったんだ。
「たかが小娘一人に、大したお膳立てですわね。 魔貴族ともあろうものが姑息に過ぎませんこと?」
ユーちゃんは精一杯の虚勢を張ってみせるが、細い身体が微かに震えているのがここからでも判る。 ダグウェルは鼻で軽く嗤うと、ユーちゃんに一歩近づいた。
「計画には慎重を重ねる必要があったのでね。 もっと大物の勇者が掛かるのを期待していたのだが……まぁ、衰えたとは言えサンドルマ家の末裔を手に入れただけでも良しとしておこう」
「ワタクシを生贄か鬼畜族じみた欲望の掃け口にでもするつもり? でも、もうじき援軍がここにくるわ。 そうすればお前達の企みも命もおしまいですわ。 今、降伏すれば命だけは助けてあげても良くってよ」
あたしは思わず目を閉じてしまった。
ああ、やっぱりユーちゃんはまだ自分の立場を完全に理解していないんだ……まだ、自分が助かると思い込んでしまっている。
ダグウェル達はそんなユーちゃんを嘲笑してみせて、期せずしてあたしの妄想の答え合わせを始めてくれた。
「意外とお目出度い性格だな。 まだ自分が助かると思っているのだからな」
「当たり前ですわ。 もうじき冒険者ギルドから更に腕利きの冒険者達が援軍にやってきますわ。 そうすれば……」
「援軍など来ませんよ、勇者殿」
ユーちゃんのセリフを遮ったのは、ダグウェルでも、お喋りな魔杖でも、ニコラスでもなく、最後に控えていたローブの人物だった。
そいつは、聞き覚えのある声でユーちゃんに援軍は来ないと告げた……思った通りだ。
「その声は……い、一体どう言う事ですの?」
ユーちゃんは震える声でローブの男に問いかけた。 彼女も、ローブの人物の声に聞き覚えがあるみたいだ。
「それは、こう言う事ですよ」
ローブの人物は、頭を覆うフードを取って素顔をユーちゃんに曝した。
……これで、まず最初の答え合せが済んでしまった。
やっぱり自分の考えの方が間違っているんじゃないかと言う楽観的な希望が、熱したフライパンの上のラードみたいにあっさりと溶けて流れてしまった。
そこに現われた顔は……以前、ジャスティン一味と戦って、誘拐されかけた女の子を救った時にあたしをバケモノ呼ばわりして、その後百手巨人からも救い出して二度目のバケモノ呼ばわりをされ……そして、ついさっき上階の地下牢で死体を見つけたあの美形の冒険者に他ならなかった。
「な……」
呆然となって言葉を失ったユーちゃんに、美形野郎は得意げに芝居がかった仕草で真相を告げた。
「驚きましたか? そうでしょうね? 貴女に迷宮で起きているジャスティン一味や、黒幕のダグウェルの正体を掴んだと語って聞かせて、先遣隊を率いてここまでやって来た上ランクの冒険者がここにいるのですから」
「ジャスティンだけで無く、お前までもが魔族の手先だったと言うの!? そんな馬鹿な!? お前ははぐれモノのジャスティンやニコラスとは違って、れっきとした冒険者ギルドから推薦を受けて協力を申し出て来た……」
「その、私を紹介したギルドの係員はこんな顔ではありませんでしたか?」
美形野郎は、またフードを深く被ったかと思うと、今度もやはり聞き覚えのある女の声でユーちゃんに語りながら、フード脱いで素顔を曝す。
そのメガネを掛けた女の顔にもやっぱり見覚えがあった……忘れようが無かった。
だってそれは、あたしが初めて冒険者として登録をした時に長い時間を掛けて書類の書き方を教えてくれてって言うか殆ど代わりに記入してくれて、あたしが書いた書名を“シネヨ”って書き間違えているって指摘してくれた、そして拷問部屋の死体の山の中から現われたのと同じ……冒険者ギルドの受付のお姉さんの顔だったからだ。
「そんな……そんな……」
手がかりを見つけたあたし達と違って、いきなり驚くべき真実を見せ付けられたユーちゃんは、呆然となって蒼白な顔で力ない呟きを繰り返していた。
「これは……恐らく、偽装魔人で御座います」
セバスチャンが驚きを隠せないと言った口ぶりで、あたしに説明してくれた。




