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復活の儀式と罠の口

あたしはダグウェル達の儀式を見下ろしながら、セバスチャンに小声で聞いた。


「なんで今更、数百年も前に死んだ魔王の復活なワケ? この迷宮の魔王って人望が無いって言って無かった?」


「仰せの通り、確かに私の先代の所有者であられた魔王様は人望に乏しい御方でした。 ですが、元来魔王とはそうした物で、徳では無く力と恐怖で支配を行うので、その力が強いほど逆に反感から人望が無くなって行く物で御座います」


「じゃあ、ここの魔王は力は強かったってワケだ。 でも、それをダグウェルが復活させる意味って何? 闇妖精族(ダークエルフ)って、長生きなんだっけ? ひょっとして、それでも魔王を復活させようとする程の忠義を持った昔からの家来だとか?」


「いえ、以前見たダグウェルの紋章は魔王の現役当時には見ない図柄で御座いました。 恐らくここ数百年で勃興した新参の魔貴族かと」


そう言えば、以前にそんな話を聞いた気がする。 なら、益々ダグウェルが魔王を復活させようとする理由が判らない。 忠義じゃ無いなら、同じ種族のよしみだから? 確か例の魔王も同じ闇妖精なんだっけ?

でも、おとぎ話に出てくる闇妖精は残酷で姑息で陰険で薄情で、実際にそんな性格をしてるのが大半なんだっけ。 じゃあ、同族だからってのも違うのかな?


それに理由が何であれ、只復活を行うだけなら上にあった死体の意味が判らない。

こっそり復活の儀式をして魔王を復活させるだけなら、変に手の込んだ小細工をしない方が地上(うえ)の注意を引かずに……


「……お嬢様?」


セバスチャンが黙りこくったあたしに声を掛けてくる。 メイちゃんも心配そうにこっちを首を傾げているけど、あたしの頭の中では今までの情報の欠片がグルグル廻って何かの形を作ろうとしていたので、周囲に構っている余裕が無かった。


えーと? たしかこの迷宮は人知れず拡張を続けていたけど、最近モンスターが迷宮の外に現われる様になって国や冒険者の注意を引いた。


セバスチャンはずっと前に自動迷宮造成機(ダンジョンツクーラー)を通じて、故意にモンスターを操作しない限りは迷宮の外にモンスターは出ないって言ってた。


ダグウェルは自動迷宮造成機の少なくとも一部の機能をコントロールしている可能性がある。


で、ダグウェルはここで魔王復活を行う反面で、恐らくワザとモンスターを外に出して、更にニコラスやジャスティンを使って女の人を攫って地上に騒ぎを起こしていた。


密かに魔王復活の儀式を行う一方で、ワザワザ地上の注意を引く様な騒ぎを起こす目的って……そして、上階にあった見覚えのある男女の死体の存在……


……


わからない。 腐りかけの頭じゃ結論に至らない。 でも、もう少しで連中の企みが理解出来そうな気がした。 多分、まだパズルが完成する為には大事なピースが欠けているんだ。


「妙ですな」


セバスチャンがポツリと呟くのを聞いて、あたしはカラ回りする思考から現実に引き戻された。


「え? 何が?」


「ダグウェル達がさっきから行っている儀式が、で御座います。 連中は先程から闇の瘴気を集めたり、広間に耐魔力結界を張る呪文を行使するばかりで、蘇生装置を使用する気配が御座いません」


「そうなの?」


「はい。 少なくとも蘇生装置は先程から起動状態にはあるものの、連中が先程から唱えている魔法は装置とは関係の無い物ばかりです」


言われて件の蘇生装置を見下ろすと、確かに機械は低い唸りを上げているものの、それ以上作動する気配を見せてはいない。 それはあたしがさっきから胸に抱いている悪い予感を一層強いモノにした。


「セバスチャン! ここからスグに下に降りなきゃ!!」


そう言いながら階段なりハシゴなりを目で探したけど、全く見つからない。 ここに来るまでに通った抜け道にも、分かれ道は全く無かった。

ここにあたし達を誘導した誰かは、まるであたし達をこれから起こることの傍観者……あるいは観客に仕立てる為にこのバルコニーに誘い込んだかの様だった。


それとも、本当に観客になれば事態は進行するんだろうか?


そんな事を考えた瞬間この広大な広間を揺るがす様な爆発音が聞こえ、下の連中も驚いた様子で呪文の詠唱を止めた。 その中にあって、ダグウェル只一人が冷静さを保って余裕と言った感じで唯一の広間の出入り口である巨大な鉄扉に向かい合った。


……まるで、誰がここに来るのかを知っているかの様に。


それで、あたしも此処に誰が来るのかを察するコトが出来た。


パズルの最後のピースが埋まって、全体の絵がほとんど明らかになった。


あたしはダグウェルの計画の仕上げを阻止するために、一か八かバルコニーから飛び降りようとしたけど、寸前でメイちゃんに必死に抱き止められてしまった。


「お嬢様! 何をなされます!? どうかお気を確かに!!」


セバスチャンの言う事は判ってるが、どうしてもこの儀式は阻止しないといけない! 今やあたしはこの事態を完全に理解した。

ダグウェル達がさっきから熱心に行っているのは魔王復活の儀式だけじゃない! 言うなれば、これは陰謀のパズルを完成させる為に必要なお芝居……ワナなんだ!!


その時、広間の巨大な扉がおそらく魔法の力で軽々と吹き飛ばされてしまった。


遅かった……どうやらパズルの最後のピースがやって来たみたいだ。 あたしは広間に仕掛けられたワナの口がゆっくりと閉じられて行くのを、為す術も無く見守るしか無かった。



明日(7/30)は多分お休みします


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