結成を巡る回想
あたしは三人組の冒険者に誘われるままに、さっき大立ち回りを演じた通りから少し離れた酒場に連れてかれた。 そこでとりあえず少し遅めの昼食をとりながら、彼らから自己紹介を受けた。
まず金髪のワイルドな印象の男が、昼間からジョッキでエールを何杯もお代わりしながら挨拶する。
「俺はアクセルだ。 見ての通りの戦士家業さ 。ただ、こいつら(彼の仲間)みたいに器用なクチじゃないんでね、武器はもっぱらコレさ」
と言ってテーブルに立てかけた大きな斧をジョッキで示した。 次に、細身の黒髪の男が軽く咳払いしてから、にこやかに挨拶する。
「僕はニコラスと言います。 頼りなく見えるかもしれませんが、罠と鍵の解除には自信があります」
そう言う彼の腰には二本の短剣が下がってる。 きっとそれも得意なんだろう。 最後に銀髪の男が食事の手を置いて、立ち上がって挨拶する。
「で、オレがこのパーティーのリーダーのジャスティンだ。 一応魔法剣士ってのをやってる。 アンタは?」
「あ、あたしはトルア村のシネルです。特技は……何だろ」
あたしのセリフに三人が大笑いした。 うう……ボケたつもりじゃ無いのに、ちょっと恥ずかしい。
ひとしきり笑い終えたジャスティンが、一口ワインを飲んでからあたしに話しかけた。
「悪い悪い。 でもまあ、そんな初心者だから用があるのさ。 短刀直入に言えば、オレ達のパーティーに入って欲しい」
「えっ!?」
あたしはパンを喉に詰まらせそうになった。 だって、彼らはかなりの実力者に見える。 さっきポルゴンを軽くあしらったのを見ても明らかだ。 それがなんであたしを?…ああ、ひょっとしてあたしが美少女だから?ふっ、あたしって罪なオ・ン・ナ。
「ああ、別にやましい目的がある訳じゃ在りませんよ」
ニコラスの台詞に私は心の中でずっこけた。 まあ、そりゃそうか。ジャスティンはニコラスの言葉にうなずいて、話を続けた。
「あんたもアドベルグに来たからには知ってると思うが、この街の郊外には広大な地下迷宮が広がってる。 で、お宝も山のようにあるってんで、大勢の人間が一攫千金を求めて冒険者になって迷宮に潜ってる。 問題は、その新人冒険者にズブの素人……本当に武術も魔法も使えないやつが大勢いるって事だ」
あたしはジャスティンの言葉に少し俯いてしまう。 そんなあたしを見てアクセルがフォローを入れてくれた。
「しょげるなよ、初めは皆素人さ。 ただ、始めるのが早い遅いの違いでしかねぇよ」
「まあな。 ギルドも来るものは拒まずの原則があるし、今はとにかく人手不足だ。 登録は基本的に断れない。 だが、そんな素人がモンスターや罠で一杯の迷宮にノコノコ入って無事で済むわけがない。 迷宮のゾンビやスケルトンの数をいたずらに増やす事になるのがオチさ」
ジャスティンがアクセルのフォローから説明を続けてくれるが、まだあたしには話が見えてこない。 構わずにジャスティンは説明を続ける。
「で、ギルドでは、犠牲者を減らす為の対策を考えたのさ。 要するに、素人の新米をベテランのパーティーに入れて一人前になるまでサポートするって寸法だ。 新米の育成に協力したパーティーには報奨金がでるし、色々と特典が付くんだ」
ようやく話が見えた。 つまり彼らは何も出来ないあたしを鍛えてくれるってワケだ。 でも、なんであたし?
怪訝な顔をした私を見て、ほろ酔い加減のアクセルが上機嫌で理由を教えてくれた。
「そりゃあ、このパーティーは見ての通りの男所帯、これ以上男は要らねぇ! って俺が言ったからさ。 で、女の子の新人は居ないかギルドに聞いて見ようと思ったら、アンタとポルゴンの大立ち回りに出くわしたってワケさ!!」
アクセルは何杯目か判らないジョッキを一気に呷ると、また陽気に話を続ける。 それを見てニコラスがやれやれって感じで肩をすくめて苦笑した。
「カッコ良かったぜシネルちゃん! 特にゴブン(小鬼顔の男の名前らしい)の野郎のツラに蹴りをかました時と言ったら! で、度胸と威勢の良さが気に入って俺があの娘がいいって言ったって訳だ。 後はご存知の通りよ」
更に呑み続けるアクセルに続いてジャスティンがあたしに身を乗り出して話し出した。 おお、顔が近い。 最初はちょっと怖かったけど、近くで見ると中々に丹精で……ああ、いやいや今は説明に集中しないと。
「ちょっと話が長くなったが、あんたをパーティーに誘いたかったのはそんな理由だ。 もちろん無理強いはしないが、はっきり言って俺たちは冒険者としての経験が長いし、この迷宮にも結構詳しい。 悪い話じゃ無いと思うがな。 言っとくが俺たちも暇じゃない、イヤならここでこの話はお仕舞いだ。 他をあたる事になるがどうする?」
う……いきなり決断を迫られても……でも、あたしは確かに何も出来ない。 そんなあたしを鍛えてくれるなら、願っても無い。 それに……皆タイプは違うけど美形揃いだしね。
あたしは勢い良く首を縦に振った。
「仲間に入れて下さい!」
あたしの言葉に三人の表情がほころんだ。
「よし、契約成立だ! 手続きはこっちでやっとく。 これからヨロシクな」
「バシバシ鍛えてやるからな! 期待しとけよ!!」
「全力でサポートしますから、安心して下さい」
あたしは三人と握手を交わして、改めてこのパーティーの新入りとしての挨拶を交わす。 それにしてもツイてる。 ギルドに加入して、すぐにこんなに頼れる仲間が出来るなんて……
……ん? ギルド?
「ああああああああああああ!!! 初心者講習受けるの忘れてたあああ!!!」
いきなり大声を上げた私に皆が驚いた顔をしていたが、すぐにアクセルが笑いながら教えてくれた。
「いいってそんなの。 どーせ退屈な規約の説明と今俺らが話したサポート制度の説明だけなんだからよ。 手間が省けて良かったじゃねーか」
「そか」
それなら問題ない……か。
結局それからアクセルが新人のパーティー加入祝いとか言い出して、そのまま宴会に突入。 遅くまでみんなで呑めや歌えで盛り上がって、あたしもこんなに呑んだのは初めてで、夜も遅くなってからフラフラになってこの酒場の二階にある部屋に泊めてもらった。
冒険者初日……色々あったけど、幸運に恵まれてあたしは最高のスタートを切ったのだった。
回想、もちょっと続きます。
そろそろ本筋へ復帰の予定…