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腐敗の令嬢と勇者無双

いや、だって……ねぇ。


ビキニアーマーが使われてたのってかなり大昔だって聞いた事がある。 今でも一部の女戦士や女剣闘士が例外的に着けるって聞いた事はあるケド、正直これは同性のあたしでも……ちょっと引く。

ま、まぁ、百歩譲ってアリだとしても、このキワどいデザインが似合うのはもうちょっと……その、身体の一部に厚みが要るっていうか……


「……まず、アナタから始末されたいんですの?」


女勇者は切れ長の眼に殺意を込めてあたしを睨みつけた。 本気だ!


「ごめんなさい」


思わず謝るあたし。

でも、あたし達に向ける殺気は本物だ。 下手に答えたらさっきの上位悪魔(アークデーモン)みたいに一刀で斬り捨てられるかもしれない。


「ワタクシだって不本意ですのよ。 でも先祖伝来の勇者の鎧、装備せずに魔族の討伐に出向いたとあっては、勇者の家名の名折れになりますわ!」


なるほど、ご先祖様から伝わっているなら仕方が無い……のか?

でも、古式ゆかしいビキニアーマーが伝わっているなんて、この勇者の家って凄く凄く古い? あたしは改めて女勇者を観察した。

まあ格好はアレだけど、綺麗だし、なんか旧家っぽいし、口調といい、堂々とした立ち振る舞いといい、まさに本物のお嬢様って感じだ。

それだけに、その格好とそれによって際立つコトになった身体の線が何とも残念


「だから! ワタクシを! そんな眼で! 見るなと! 言っているでしょう!! ゾンビの! 分際で! 胸が!! 大きいからって! チョーシに乗るんじゃ! ありませんわ!!」


思っていることがスグに顔に出るのが、あたしの数多い短所の一つだ。

女勇者は怒りで顔を朱に染めながら、セリフの一区切りごとにあたし達に魔斬破(スラッシュウェーブ)を叩き込んできた。

光属性の魔力を帯びたそれは光精獣(ライトビースト)の自爆攻撃よりも強烈で、セバスチャンの耐魔法結界を持ってしても防ぎきれず、最後の一撃であたしは身体ごと吹き飛ばされてしまった。

壁に叩きつけられる寸前でメイちゃんが受け止めてくれたモノの、それでも二人して壁に激突してしまった。


まずい、今ので骨が何本か折れたみたいだ。 痛みは無いケド、衝撃で判った。 回復能力に頼りたいケド、女勇者の光のオーラに阻まれて闇の瘴気が上手く集まらないみたいだ。

格好はアレだけど流石に勇者だ。 強さも段違いだし何から何まであたしとは正反対で相性も最悪だ。


「流石は“腐敗の令嬢”しぶといですわね。 今ので跡形も無く切り刻んだつもりでしたのに」


女勇者は悠然と立ち上がれないあたしを見下ろしてる。 流石は勇者をなのるだけあって……って


「まって!? “腐敗の令嬢”ってナニよ!?」


「……ナニって、アナタがそう呼べと言ったのでしょう?」


間違って伝わってるー!? ってか変な称号みたいになってるし!! これ完全に魔貴族扱いじゃ……

その時、あたしと女勇者に向かって幾つもの巨大な火球が飛んできた。 周囲が爆炎と轟音で覆い尽くされ、堅牢な造りの大広間が衝撃であちこちが崩れ落ちた。


「うふふふふふふふふふふ、漫談に夢中でわたしの事を失念していたのが敗因でしたねぇ。 上位悪魔の一斉魔法攻撃にブレスのオマケ付きと来ては流石に勇者とて……」


ヨブはセリフを最後まで言えなかった。 女勇者は聖剣を振って爆炎をカーテンみたいに軽々と薙ぎ払うと、一気にヨブの手前まで跳躍して斬りかかったからだ。

上位悪魔が二体立ちはだかって楯代わりになったモノの、それをあっさりとまるで小鬼族ゴブリンでも相手にしてるかの様に軽々と切り倒す。

慌てたヨブは短距離の転移呪文で広間の隅に逃れて、辛うじて女勇者の間合いから逃れた。


「これはいけません! 一斉に掛かりなさい!!」


ヨブの号令で上位悪魔が一斉に女勇者に襲い掛かる。 あたし達は耐魔法結界と竜騎士の盾でどうにかダメージを防いだモノの、まだ立ち上がれる程には回復していない。

アーちゃんに、女勇者に気付かれる事の無いようにゆっくりと瘴気を集めて貰っているケド、まだ回復には程遠い……早く何とかしないと、ヨブか女勇者に為す術も無くやられてしまう。 そしたら次は……


そうしている間にも女勇者は上位悪魔を次々と斬り倒していく。 上位悪魔もただ突っ立ってるワケじゃ無くて様々な攻撃魔法を放ってはいるモノの、あたし同様に耐魔法結界を持っているみたいで、直撃を受けてもダメージになっていない。

時々上位悪魔の爪がその身体をかすめるが、それも白い肌にキズひとつ付けられない様だ。 ビキニアーマーは身を覆う場所は少ないが、魔法の防御力で全身を覆っているから平気って言い伝えは本当みたいだ。


たちまち二十体いた上位悪魔はその数を半分に減らした。 女勇者は身体にキズ一つ負っていないモノの、流石に上位のモンスターを複数相手にして疲労が出てきているみたいで、息が荒くなり始めている。

あたしは、もう少しで戦うのは難しくても身体は動くようになる。 そしたら……あたしは背後のメイちゃんに眼で合図を送った。 メイちゃんは意図を察してくれて、カチャンと小さく頷いた。


「ぐぬぬぬ……」


ヨブは剥きだしの歯を軋ませると、また両手を高く掲げた。 同時に胸のタリスマンの宝玉が緑色の光を放つ。 まずい! さらに援軍を召喚するつもりだ!

女勇者もヨブの意図を察したのか、背後に跳んで剣を逆手に持つとそれを地面に突き立てる様に両手で振り上げた。 あれは聖光爆破(ホーリブラスト)の構えだ!


ようやく身体が動くようになった。 あたしはメイちゃんに合図すると、折り重なった上級悪魔の死体の陰に隠れてゆっくりと移動する。

女勇者が剣を地面に振り下ろし、ヨブの周囲にまた上位悪魔が実体化し始めた瞬間! 同時にメイちゃんが上位悪魔の死体越しにヨブと勇者の間を目掛けて魔力弾を投げつけた。


聖光爆発と魔力弾の爆発が同時に広間を揺るがせ、同時にヨブの悲鳴も聞こえた。

今だ! あたし達は一斉にヨブの背後の出口に向かって走り出し、あたしは振り向き様にもう一発魔力弾を背後に投げつけた。 目くらましと足止めが目的だから、狙って投げてない。


二度目の爆音の直後に再び戦闘音と上位悪魔の咆哮が聞こえたが、決着がどうなったのか判らないし知ったことじゃない。 とにかく連中が追ってくる前に体勢を立て直す、あるいは蘇生設備にたどり着く為に、あたし達は全力で通路を疾走した。



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