表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/72

召喚師と呼んで無いのに来たアイツ

魔力鞄(インベントリ)には“生物以外”なら大きさ、容量を問わず収納が出来ると言う説明をセバスチャンから前に聞いてもしやと思ってやって見たケド、案外上手く行くものだ。

とは言え出入りが案外大変で、特に胸がつっかえて下手したら出れなくなりそうになったので、あんまり便利に多用するのは止めた方がよさそうだ。


それにしても、やっぱり地階に続く階段にも見張りがいた。 ダグウェルの一味がここで何を企んでるのかは、知らないし知りたいとも思わないが、例の蘇生設備が連中の目的だとしたら見張りは居てもおかしくないか。

でも魔族とは言え、生きているダグウェルや他の魔貴族達が自動迷宮造成機(ダンジョンツクーラー)だけでなく、蘇生施設を必要とする計画って何だろう?



考えられるとしたら、それは……



通路の先に明かりが見えたので、あたしは考えるのを一時中断して楯を構えてゆっくりと通路の先へと進んだ。

やがて開け放たれた入り口が現れたので、あたし達は戸口からゆっくりと内部を伺った。

そこは以前にラードゥと戦った時みたいな広場程もある広間だったので、あたしは少しゲンナリとしてしまった。 今までの経験上、こんな所では何か強力なモンスターが現れたからだ。

無用な衝突はゴメンだし、他に道はないかと引き返そうとした時、広間から皺枯れた声が聞こえて来た。


「お待ちなさい、もうあなた方の侵入は判っているのです。 逃げても無駄ですよ」


バレてる! と思うのと同時に、ああやっぱりね。 と言う両方の感情が頭に浮かんだ。 ここまで何の警戒も無く上手く潜入出来てるとは思ってたんだよねぇ。

まぁ、バレてるなら仕方が無い。 あたしはメイちゃんと目配せをして堂々と広間に入って行った。


「ようこそ、あなた方の死に場所へ」


そんなセリフと共に、広間の真ん中に黒いローブ姿の骸骨が忽然と現れた。 全身を不気味な装飾で飾り立てて(ダグウェルもそうだけど、動きにくくないのかな?) 首からは不気味に輝く緑色の宝玉の御守り(タリスマン)を下げている。


「あなた方がラードゥを倒してから、この宮殿に侵入するまでの顛末は全てわたしの使い魔(インプ)が中継しておりました。 上階の見張りをやり過ごす手並みは中々に愉快でしたが、全てはお見通しだったと言う訳です」


「で? アンタはそれを伝えたくて、ワザワザ一人でここに待機してたってワケ?」


「まさか。 わたしがここに居るのは単なる役割分担に因るものです。 わたしの役割は侵入者の排除、それを行いやすい場所にあなた方を導いたまでです」


そう言うなり、あたし達の背後の入り口が大きな金属製の落とし戸で轟音と共に塞がれてしまった。

と、同時に骸骨ローブが慇懃にお辞儀をしながら自己紹介をする。


「あなた方を始末する前に、まずは自己紹介を。 わたしの名はヨブ、屍導師(リッチ)出身の魔貴族です。 ですが、同じ魔貴族でもラードゥごときと同じに考えない方が良いでしょう」


言うなりヨブが両手を頭の上に掲げる……と同時に巨大な氷の礫とイカヅチの嵐があたし達に襲い掛かってきた。


「どうだ!? 氷大嵐(アイスストーム)電撃嵐(ボルトストーム)の同時攻撃、しかも無詠唱! 魔界広しと言えども、ここまで出来る術師などそうは……」


無傷のあたし達を見て、ヨブは骨だけのアゴを外してしまいそうにアングリと開けた。

でも、すぐに威厳を取り繕ってえらっそうに講釈を垂れた。


「そ、そうでした。 あなたは耐魔法結界を張れる魔剣セバスチャンを持っていたのでしたね。 つい油断しすぎて失念しておりました……ですが!」


ヨブは骨だけの指であたしを指して先を続ける。


「気付きませんか? さっきからこの広間に漂う呪詛の力を!? 実は前もってこの広間に死の呪いを掛けていたのです! 呪詛は光属性と同じく耐魔法結界の範疇外! あなた方はなす術も無く、呪詛の力で死んで行くのです!!」


「いや、あたし達とっくに死んでるし」


「……」


「もういい?」


あたしとメイちゃんは武器を構えてヨブに近づいて行った。 アレかな? 骨だけになった屍導師って、脳ミソまで無くなってしまうんだろうか?


「う……ふ……うふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」


ヤケになったのか、ヨブは不気味な笑い声を上げて再び両手を頭上に掲げた。


「今までの茶番は同時に無詠唱で練っていた術式を発動させる為の時間稼ぎに過ぎません!! ……本当です! そんな眼で見ないで下さい!!」


その時、周囲の景色が陽炎みたいに歪みだし、闇の瘴気の濃度が一気に上がって行った。 本当に何か術を練っていたのか!?

その陽炎からにじみ出るみたいに、大きな角と黒い翼を持った、筋骨隆々の人間とヒキガエルを半端に掛け合わせたみたいな醜い巨人が十体も現れた。


「これは上位悪魔(アークデーモン)!? この屍導師は召喚師(サモナー)の様で御座います! 亜竜(レッサードラゴン)に匹敵する力を持ったモンスターを無詠唱で、しかも同時に十体も召喚するとは、かなりの術者ですぞ!!」


流石に不味いかな? あたしとメイちゃんは死角を作らない様に背中合わせになって、上位悪魔を牽制した。

あたし達は結構長い間、色んなモンスターと戦って来てそれなりに戦闘技能も向上したと思う。 でも、いくら腕を上げても物量の差はどうにもならない。 それが上位のモンスターとなれば尚更だ。


「驚きましたか? でも、まだ何とかなりそうって表情をしていますねぇ。 気に入りませんねぇ。 ならばコレでどうです?」


ヨブが再び手を振ると、また上位悪魔が十体も現れた。 結構な広さを持つ広間は巨大な悪魔が密集しているせいで、手狭にさえ見えてしまう。

ちょっと!? コレってかなりマズイんじゃない!? あたしは手元のセバスチャンに策が無いか聞いて見た。


「状況は率直に申しまして、極めて不利で御座います。 ですが、この状況を切り抜ける手立ては無くも御座いません」


「マジで!? じゃあ、それで早くここを突破しよう!!」


「ですが、この手段はお嬢様の心身に激しい負担を伴います。 極めてリスクが高く……」


「今以上にどんなリスクが在るって言うのよ!? 早くしないとここであたし達バッドエンドでしょ!!」


「畏まりました。 それでは……」


その時、背後の金属扉が音を立てて吹き飛び、背後に居た上位悪魔にぶつかった。

その上位悪魔は怒りの形相で振り返ったが、同時に通路から飛んできた魔斬波(スラッシュウェーブ)で身体を切り裂かれて消滅した。


「やっと追いつきましたわ」


可憐な少女の声と共に強烈な光のオーラが漂ってきて、ヨブも上位悪魔もついでにあたし達も思わず怯んでしまった。 闇の瘴気で澱んでいた広間が一気に正常な空気で満たされていく。 正直、ちょっと息苦しい。


「冒険者や聖騎士達が大分お世話になりましたわね。 でも、このワタクシを同じに考えてると痛い目を見る事になりますわよ」


げ、これって……


入り口から光のオーラを纏いながら、剣を手にした少女が広間に入って来た。 年のころはあたしと同じくらいか? 手にした光を放つ長剣は聖剣以外の何者でもなさそうだ。

綺麗な金髪を後ろに撫で付けて、腰の近くまで流した髪はそれ自体が綺麗なマントみたいだ。

胸の辺りまで伸ばしたもみ上げは、優雅な縦ロールになっている。

切れ長の青い瞳の眼に、キッと結ばれた小さな唇と透けるように白い肌はまるでお人形さんみたいな整った美貌を湛えていた。


「現われたな、勇者め」


ヨブが何処と無く怯えた声で小さく呟いた。 そうじゃないかと思ったケド、やっぱりあの美少女(アイツ)が勇者なのか。

なるほど、可憐な中にも強さを秘めた外見は正に正統派の女勇者と言えた……ただ二つの違和感を除いて。


まず、剣はともかく問題は防具だった。 ふつう、ここまでお人形然としている外見なら相応しい防具はドレスアーマーか、そうで無ければ凛々しい甲冑であるべきだろう。

でも、彼女が身に付けているのは金属製のビキニアーマー、それもキワドイ露出のマイクロタイプだった。


まぁ、百歩譲ってそれはアリとしても、ふつうコレほどのキワドイ防具を着けるならそれなりの体型が求められるモノだ。

でも、彼女の体型は……何と言うか……


「ワタクシの胸が何か!? ちょっと! その“可哀想なモノ”を見る眼を今すぐ辞めなさい!!」


彼女は剣を持っていない左手で平たい胸を隠すと、あたしに向かって殺気の籠った怒声を放った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ