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休息と勇者に関する考察

それにしても……


あたしは思わず溜息を吐く。

……あたし達はラードゥとの戦いの場から離れてしばらく逃げ続け、とりあえず人気の無い回廊に着いて一休みしていた。

とは言え、ここでも冒険者達と魔族が一戦やらかした後らしく、焼け焦げた闇鬼畜族(ダークオーク)や全身を切り刻まれた巨大な奇獣(キマイラ)の死骸が横たわり、至る処にモンスターと人の血痕が飛び散っている。 例によって人間の死体は無い。


死体と怨念の渦巻くこの場所は瘴気が特に強く立ち込めていて、さっきの戦闘ダメージの回復には打って付けと言えた。


(あたし達にとっては)快適な瘴気を全身に浴びて、あたしもメイちゃんも完全にキズは癒えたのだけど、気分までは回復出来なかった。


まずは、結局あの聖騎士や魔術師達に誤解が解けなかったと言うのが憂鬱の元の一つだ。 でも、確かに今のあたしは呪いのアイテムで完全武装したゾンビに過ぎない。 誤解を解くにはまず人間に蘇生してからの方が良いだろう。

それが何時になるのか、ちゃんと蘇生できるのか、問題は山積みで確実なアテは無いけど、かと言って疑っても仕方が無い。 だからこの問題は当面棚上げする事にした。


そして、もう一つの原因は……


「勇者かぁ……」


あたしはまた溜息を吐く。 勇者って言うのは、おとぎ話なんかでは姫騎士と並んで定番の主人公(ヒーロー)で、憧れる事はあってもまさか当の勇者に狩られる立場になるとは、全く考えもしていなかった。


つくづく人生とは奇妙なモノだ。 あたしはまたまた溜息を吐いて傍らの魔剣に尋ねた。


「ねぇ、セバスチャン」


「はい、何用で御座いましょうか?」


「勇者ってさぁ、世が乱れた時に現れるモノじゃないの? あたし達が迷宮(こんなとこ)を彷徨ってる間に、いつの間にか世が乱れてたのかな?」


「残念ながら、地上の事に関しては情報が少なすぎる為にお答え致しかねます。 ですが、勇者に関しては必ずしも世が乱れる事が出現条件とは限りません。 それは、元人間であられたお嬢様の方が詳しいかと存じます」


「そうね……」


勇者と魔王……この世界の歴史上何度も現れ、人界と魔界の覇権を賭けて何度も争ってきた両者についてあたし達が知っている事は決して多くは無い。


でも、魔王の定義は極めて解りやすい。

上級魔族の中でも特に強力な者が魔貴族を名乗る(ダグウェルやラードゥの様に)。 そしてその中から更に卓越した者が魔王を名乗る……実にシンプルだ。


だけど、勇者の定義は定かでは無い。 昔、冒険者が教えてくれたけど、勇者は魔王が人界を侵略して世が乱れた時に神の(あのキモデブの?)啓示を受けて選ばれし者が名乗る称号であるらしい。

その一方で、名も無い一介の冒険者や騎士等が魔王を倒して後から勇者の称号を賜る事もあったらしい。


はたまた、何処からかやってきた何者かが勇者の啓示を受けたり自称したりするケースもあったり(現にこの迷宮の魔王はイセカイとか言う遠い処からやってきた勇者に倒されたんだっけ)、レアケースとしては勇者の子孫に同じく卓越した能力を持つ者が現れた場合には、特に何もしてなくとも勇者と呼ばれる事もあるそうだ。


「要するに定義はあやふやだけど、魔王を倒したか倒せるくらい強い力を持った人を勇者って呼んでいいってワケだ」


「恐らくは」


ふむん……この迷宮に来るかもしれない勇者がどのケースに当たるかは判らないけど、勇者を名乗るからにはそれに見合った実力があることだけは間違い無さそうだ。


自慢じゃ無いケド、あたし達は今まで迷宮を彷徨っている内にかなりの経験を積んで、大抵のモンスターに遅れを取ること無く戦ってこれた。

でも、先のラードゥ戦で手こずった様に魔貴族を名乗る程の上級魔族との戦いには、まだまだ楽勝とは言いがたい。 それが、万が一魔王を倒す程の力を持った勇者と出くわしてしまった場合、果たして無事で済むだろうか……済まないだろうな。


「じゃあ、その勇者サマが現れない内にサッサと蘇生したほうが良さそうね」


もう完全にキズは癒えた、これ以上ここでのんびりしていると冒険者達の追撃を受けるかもしれない。 ならば長居は無用だ。 あたしはセバスチャンを引っつかんで立ち上がると、メイちゃんを促して更に迷宮の奥へと入って行った。







 


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