表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/72

死闘と奇策

アブラー……何? あたしはラードゥを直視しない様に楯を構えながらセバスチャンに聞いた。


「アブラー脂闘術(しとうじゅつ)……歴史上唯一、闇鬼畜族(ダークオーク)から魔王の地位に昇り詰めたアブラーなる者が開祖の闇鬼畜族に伝わる伝説の格闘術で御座います」


「ウンチクじゃ無くて、具体的にどんな術なの?」


「失礼致しました。 脂闘術とは自らの脂肪に魔力を蓄積させ、それを攻撃や防御に転用する武術で御座います。 先ほどの様に、魔力で自分の身体を浮かせて肥満体でありながらの高速移動も可能です。 さらに、魔力を帯びた分厚い脂肪は魔法も打撃武器も通しませんし、全身を覆う脂汗は刃を弾く一方で、あくまでも汗なので火付きも悪い様で御座います」


「何よそれ!? 打つ手が無いじゃないよ!」


「いえ、脂肪が薄い部分や全く無い部分……例えば眼等への攻撃は有効で御座います。 それに……」


「おい、作戦タイムが長すぎでは無いか? 掛かって来ないならこちらから行くぞ?」


あたし達の会話に割って入ったラードゥは退屈そうに欠伸をしながら全身をプルプルと揺すると、いきなり頭上より高く跳躍した。


やば!?


あたしとメイちゃんは、ラードゥの攻撃を予測して左右に散った。 次の瞬間、今まであたし達が立っていた場所にラードゥが地響きを立てて尻から地面に落ちて来た。

魔力を込めたヒップアタックの威力は凄まじく、床の石畳が粉々に砕けて飛び散った。

あたし達も地面の衝撃で思わずバランスを崩す。


「ブファファファファファファ!!」


そのスキを逃さずにラードゥがあたしに向かって地面を高速でゴロゴロと転がって笑いながら突進してくる。 バランスを崩して回避が難しいので、楯を構えて攻撃を受け流そうとしたけど膨大な重量を捌ききれずに、弾き飛ばされて地面に倒れてしまった。

巨大な肉弾と化したラードゥはそのまま広場の端まで転がって方向転換し、さらに速度を上げて突っ込んでくる!


かわし切れず、ダメージ覚悟で楯を構えて肉弾を迎え撃とうとした時、メイちゃんが横から全力の体当たりでラードゥにぶつかった。

重量のある幽甲冑(ゴーストメイル)のメイちゃんでさえ勢いに負けて吹き飛ばされたけど、おかげで軌道が反れてギリギリであたしの横を反れていった肉弾は、勢いを止められずに広間の壁に激突して派手に壁を凹ませてようやくその動きが止まった。


「今ので腐った挽き肉に変えてやろうと思ったのに、中々やるでは無いか」


回転を止めたラードゥが余裕の笑みを浮かべて立ち上がる。 高速で連続回転した上に派手に壁にぶつかったのに、キズ一つ無いどころか足元もふら付いていない。


「おそらく、脂肪の中の魔力を回復に回しているのでしょう」


「あたしの闇の瘴気みたいなもんね。 最悪じゃない」


アブラー脂闘術なんてフザケた名前の武術だとちょっとバカにしてたけど、これはかなり手ごわい。

それに、問題はそれだけじゃ無くて……


「ねぇ、セバスチャン。 あのメデューサの石化って、ゾンビのあたしにも効くのかな?」


「おそらくは。 私やメイちゃん様は、魔力による擬似的な視力で物を見ているので影響はありませんが、腐っても肉眼をお持ちのお嬢様はメデューサの邪眼の影響を受けるかと思われます」


まいったな…… 聖騎士を倒すべきじゃ無かったかな? でも、誤解が解けないままじゃさっきみたいに諸共に攻撃されるかもだし……

やっぱり、あたし達で倒すしかないか。 あたしはメイちゃんに目配せで作戦を伝える。 ここは“挟撃その4”で行くしかない。

メイちゃんには負担がかかるけど、メデューサの邪眼の影響を受けないなら正面で攻撃を受け止めて貰うしか方法がない。


今、あたしの腐りかけの頭で考えた作戦はかなりリスキーなモノだ。 上手く行くかどうかは賭けでしかない。 でも、悔しいがラードゥはかなりの使い手だ。 長引くとこっちの不利になる。 危険だけど、ここは勝負に出るべきだろう。


「メイちゃん、正面でアイツの足を出来るだけ止めてて」


メイちゃんは力強く頷いた。 そしてラードゥがまた高速で飛ぶように突撃して来るのと同時に、メイちゃんも槍を構えて正面から突っ込んで行った。


さあ、作戦が成功する為にはもう一つ仕込みが必要だ。 あたしは広間の片隅で成り行きを見守ってる魔術師達に向き直って叫んだ。


「天井の照明を魔法で破壊して! 今すぐ!!」


魔術師は困惑した表情を浮かべた。 まぁ、無理も無いと思うけど長々と交渉してる時間は無い。


「状況を見たら解るでしょ!! 今は駆け引きを打ってる場合じゃ無い!! あたし達がやられたら次はアンタ達だよ!? ブタのエサになりたく無かったら早く!!」


こうしてる間にも、メイちゃんとラードゥはお互いに一歩も引かない攻防を見せていた。 メイちゃんは巧みに槍を突き出すのだけど、尽く脂肪と脂汗に阻まれて有効なダメージを与えられない。

一方のラードゥは涼しい顔でメイちゃんの攻撃を受けていたけど、メイちゃんが槍を引き戻す一瞬のスキを突いて、素早く屈んで懐に潜り込むと同時にメイちゃんの腕を蹴り上げた。


頑丈な甲冑の身体を持つメイちゃんの右腕が真ん中で大きく凹み、たまらずに槍を取り落とした。


「デブァーーーーーッ!!!」


ラードゥは一気に勝負を着けるべく雄叫びを上げて必殺の突きを繰り出したが、メイちゃんは上体を大きくかわして回避する。 そのまま大きく仰け反ったと思ったら両手を地面に突けて逆立ちの姿勢になり、勢い良く伸ばした両腕の反動を生かしての両脚での蹴りをラードゥの顎に叩き込んだ。


「ブギィッ!?」


予期しない蹴り攻撃でラードゥは尻餅を突いて転倒したけど、今の逆立ちが祟ってメイちゃんの右腕が完全にひん曲がってしまい、バランスを崩してメイちゃんも地面に転倒してしまった。


「お願い! 早く!!」


あたしは魔術師達に叫ぶと同時に楯を捨てて、背中を見せているラードゥにセバスチャンを腰だめに構えて突進した。

こうなったら一か八かだ! 段取りはセバスチャンに伝えてある。 照明が消えれば成功率は上がるけど、これ以上時間は掛けられない。


「ブファファッファファファ! 明かりを落とせばメデューサの邪眼を封じられると思ったか? 残念だったな、このまま石になれぇい!!」


ラードゥの口ぶりからすると、やっぱり照明は落とされなかったみたいだ。 それならそれで問題無い、おそらくアイツはあたしを石にするべくメデューサの干し首をこちらに突きつけているに違いないのだ。


でも、それが致命的なスキになる!


あたしは構わずにラードゥの腹にある唯一の弱点……ヘソに思いっきりセバスチャンを突きたてた。

細かいズレはセバスチャンがあたしの身体を引っ張って修正してくれる。 手ごたえと共にラードゥの絶叫が耳に入った。 どうやら正確にラードゥのヘソにセバスチャンが入った様だ。


「お嬢様! メイちゃん様がラードゥから干し首を奪いました。 もう眼を戻しても大丈夫ですぞ」


おっけ。 あたしは魔力鞄(インベントリ)から自分の目玉を取り出すと、片方ずつ眼の穴に嵌めこんでいった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ