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騒動を巡る回想

たしか、ギルドの受付のお姉さんは午後から初心者冒険者向けの講習があるから、聞いとけって言ってたっけ。

まだ時間がありそうだったし、どこかでお昼を食べようと武器屋を出て前の通りに出た途端、いきなり後ろから突き飛ばされて、あたしは盛大にすっ転んだ。


「ちょっと!気をつけなさいよ!!」


あたしは道に転んだまま、突き飛ばして来たヤツに怒鳴りつけながら上体だけ起こして振り向いて…目が丸くなった。


「え…鬼畜族(オーク)?」


いや、実際には只の人だったのだけど、あんまりにも太ってて人相が悪かったのでつい思わずそう呟いてしまったワケ。それに、トゲの付いた黒い革鎧なんか着てるし、腰からこれ見よがしにゴツい棍棒をぶら下げていたので、本当に鬼畜族(オーク)かと思ったのよ。


「誰が鬼畜族(オーク)じゃ、ゴルアァァ!!道のド真ん中をフラフラしてたのは、お前じゃろがい!!お前が謝らんかいオルァ!!!」


あたしの呟きを聞いて、そいつは鬼畜顔を真っ赤にして大声で怒鳴りつけてきた。係わり合いを恐れてあたし達から距離をとる通行人たち。ああ、やっぱり都会は薄情だわ……

でも、普通の女の子なら泣いてしまうかもしれないけど、あたしも宿屋で働いてた時にはこの手の酔っ払いや荒くれの相手をしてたもんよ。この程度怖くも無いし、怖がってたら冒険者なんて務まりっこない!あたしは生来の負けん気を出して勢い良く立ち上がると、鬼畜顔に詰め寄って反論した。


「道のド真ん中なんて歩いてないし、アンタがぶつかって来たんでしょうが!!謝るのはそっちよ!」


「ンだァ!?ガキだと思って下手に出てりゃあ、付け上がりやがって!ガキの癖に乳がデカイからって調子に乗ってナマ言ってんじゃ無ェぞオラ!」


いきなり鬼畜顔の下半身から声が聞こえて、びっくりしてそっちを見ると、似たような革鎧を付けた小男が鬼畜顔の後ろから顔を出してあたしを怒鳴りつけていた。

小さいから気が付かなかった。 しかもこいつもご丁寧に小鬼族(ゴブリン)みたいな顔してるし……


「よそ見してンじゃねェぞコラ!」


小鬼顔に気を取られた隙に、鬼畜顔があたしの胸ぐらを掴んできた。 しまった! と思った時には既に遅く、あたしはそのまま鬼畜顔に片手で持ち上げられた。


「ぐっ!離せ!」


あたしは鬼畜顔の手を振り解こうと両手でこいつの腕を掴んで、スネを蹴飛ばそうと、宙に浮いた脚をバタバタさせたけどビクともしない。


「ウヘヘヘ、良い気味だぜ。二度とナマ言えない様に、タップリとお仕置きしてやりましょうぜ兄貴。デュフフフ」


小鬼顔がそんな事をいいながら、下卑た笑みを浮かべてあたしのスカートに手をかけた。


(さわ)んな小鬼族(ゴブリン)野郎!」


「ゴブッ!?」


苦し紛れに放ったキックが小鬼顔のド真ん中に綺麗にヒットした。 小鬼顔は盛大に鼻血を噴き出して地面に倒れた。 やるじゃん、あたし。


「やりゃあがったな!!このアマ!!!」


子分をやられた鬼畜顔が、顔をますます赤くして自由な方の腕を振り上げた。 流石にこれは避けられない。 あたしは顔に落ちてくる拳を予想して思わず目を閉じたけど、いつまで経っても拳が来ない。

あたしは恐る恐る目を開けた。

鬼畜顔は、いつの間にか後ろに立っていた鎧姿の男に振り上げた拳を掴まれていた。 金髪を短く刈り込んで、顎ヒゲを少し伸ばしたワイルドな感じの若い男の人だった。


「一部始終を見てた訳じゃないが、ブサい男が二人に可愛い女の子が一人…と来れば、どう見てもおまえらのが悪役だよな」


金髪男はニヤ付きながら鬼畜顔の拳を片手で軽々と締め上げるついでに、あたしにウインクしてみせる。


「離しゃあがれっ!!」


鬼畜顔は金髪男の手を振り解こうとするけど、まったく動けない。 逆に金髪男に腕を逆に捻られて、悲鳴を上げてあたしを取り落とした。


「ギャフッ!」


いきなり手を離されて、あたしは地面に尻餅を付いた。 しばらく立てないでいると目の前に細い手が差し出され、あたしが立ち上がるのを助けてくれた。


「あ、ありがとう…」


「いえ、それよりも危ない所でしたね」


あたしを助け起こしてくれたのは、革鎧姿の線の細い黒髪の男だった。金髪男と同じくらいの歳だろうか、人の良さそうな優しい笑みを浮かべている。


「何だテメェら!!いきなり現れてこんな事して只で済むと思ってるのか!?」


鬼畜顔は苦痛に顔を歪めて、それでも威嚇をやめようとはしなかった。 なんとか金髪男から逃れようと身をよじっているが、明らかに無駄な努力に見えた。


「只じゃ済まないのはオマエの方だぜ」


いきなり後ろから声がして、あたしは思わず振り返った。いつの間にかあたしの後ろに銀髪の男の人が立っていた。 金髪男よりは背が少し低いけど、それでも十分な長身で銀の胸当てと黒い(チュニック)だけの軽装だ。 長い銀髪を後ろで無造作に纏めている。


その銀髪男は、やれやれと言った態度で鬼畜顔に諭すように行った。


「新人狩りはご法度だぜ、ポルゴン。 もし捕まったら冒険者資格剥奪の上に追放か懲役だぞ」


銀髪男の台詞に、ポルゴンと呼ばれた鬼畜顔の顔色が青くなった。 もがくのを止めて大人しくなる。


「そろそろ善良な市民が呼んだ衛兵が来るんじゃないか? 今回は貸しにしてやるから、子分を連れてさっさと消えな」


銀髪男の目配せで、金髪男がポルゴンを開放する。 ポルゴンは、何も言わずに真っ青になってよろめきながら人垣を乱暴に掻き分けて逃げていく 。ようやく起き上がった小鬼顔も、三人の男と逃げていくポルゴンを見て事情をさっしたらしく、憶えてやがれと月並みな捨て台詞を残してヨタヨタとポルゴンの後を追った。


「あ……助けてくれて、ありがとう」


あたしは助けてくれた三人に改めてお礼をいった。 銀髪男が軽く笑いながら会釈する。


「いいって、ここじゃ良くある話さ。 それよりアンタ新人だろ? ちょっと付き合いなよ」


「え?」


「見ての通りオレ達も冒険者さ。 まあ、ここじゃ何だから場所を変えよう。 衛兵が来ると事情聴取でメンドイぜ」


あたしは、誘われるままに三人に付いて行った。




回想がもうちょっと長くなるかも

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