聖騎士団と強行突破
え? 手配書!? あたしってお尋ね者なの!? 何でそんな話になってんの!?
あたしの当惑を他所に、あたしを見つけたローブ姿の男が隣の白い神官服の女に目で合図すると、彼女の杖から白い光弾が幾つも飛んできた。 それはセバスチャンの結界で弾かれたモノの、少し衝撃が来た。
「光属性の魔光弾ですな。 一度に複数撃ってくるとはかなりの腕のようです。 今は牽制の様ですが、明らかに我々を敵視しております。 ここは一旦退却を進言致します」
「まぁ、それが良いんだろうけど……」
あたしがセバスチャンと話している間にも、立て続けに魔光弾が飛んできては結界に弾かれて派手な火花を散らす。 こないだの光精獣の攻撃に比べれば大した事はないけど、数的に不利だし何より相手は人間だ。 あんまり敵対すると後々面倒くさそうだ。
何よりも、あたしがお尋ね者になっているって一体どう言う事なのかも知っておきたい。 ここはまず、あの邪魔なモンスターを排除して、それから話し合おう。
モンスターを目の前で倒せば、あたしが敵じゃ無いって事を解って貰えるハズ。 とりあえずソレで……
そうセバスチャンに言おうとした時、甲冑姿の人物の一人が剣を地面に突き立てた。 次の瞬間、光精獣の自爆にも似た白い閃光と爆音が広間を満たした。
光が収まった時には闇鬼畜族の群れは跡形も無く消し飛び、単眼巨人も倒れてはいないモノの、全身が焼け焦げて辛うじて立っている状況で、戦況はたったの一撃で人間側の圧倒的有利となった。
「今のは聖光爆破、聖騎士の使う奥技で御座います。 おそらく今の一撃を放つ為に、残りの全員が時間を稼いでいたのでしょう」
聖騎士!? それって冒険者とかじゃなくって、国か神殿に仕えるちゃんとした騎士って事!? さすがのあたしでも、それくらいは知っている。
上級冒険者の大群が居るってだけでも十分に脅威なのに、更に聖騎士まで絡んでくるなんて何かコトが勝手に大きくなってない!?
あたしが呆然としている間に、瀕死の重傷を負った単眼巨人が聖騎士達に捨て身の突撃を行ったが、今度は後方の魔術師達から多数の攻撃魔法が飛んできて次々に巨体に直撃する。
それを受けて、今度こそ単眼巨人は地面に大きな音を立てて倒れ、そのまま動かなくなった。
「さて、次はお前だゾンビ女」
聖光爆破を放った先頭の聖騎士(他の聖騎士と全く同じ揃いの甲冑だけど、この人だけ兜に角が一本あるから多分この人がリーダーだろう)が、そのまま剣をあたしに向けて言った。 他の聖騎士や魔術師達もそれに倣う。
「まって! あたしは敵じゃないし、ダグウェルとも何の関係も」
最後まで言う事は出来なかった。 聖騎士達から一斉に魔斬波を飛ばして来たからだ。 同時に白い神官服の女が何か唱えると、あたし達が入って来た出入り口を遮る様に白い光の壁が現れた。
「しまった!」
「強力な魔力壁……言うまでも無く光属性ですな。 突破出来ない事はありませんが、多少のダメージを覚悟せねばなりません」
どうしよう? 多分逃げても追ってくるだろうし、今来た方向に逃げたら地下宮殿から遠ざかってしまう。
あたしが迷ってる間に、彼らはゆっくりと距離を詰めて来ている。 多分間合いに入ったら突っ込んでくるだろう。
ここは……
「メイちゃん、ここは“突破その1”で行くよ。 あたしが走ったら始めて」
メイちゃんはガシャンと力強く頷いて、少し後ろに下がって槍を地面に置いた。
あたし達はここまで来る長い道のりの間に、色々な連携攻撃を模索していた。 “突破その1”もその一つだ。 練習無しのぶっつけ本番で行くけど上手くいくかな……いや、いかなきゃ困る!
「いくよ!! アーちゃんお願い!!」
「ウォオオオオオオオオオンンン!!」
聖騎士達が突進してくるのと同時に、あたしは避ける事無く正面から突っ込んでいく。 同時にアーちゃんが闇の瘴気を集めて全身に纏わせる。
同時にセバスチャンを最大まで伸ばし、あからさまに振り上げてそのまま突進していく。
あたしが単身で突っ込んで来たのを受けて、連中は楯を構えて立ち止まり迎え撃つ姿勢をみせた。
好都合! メイちゃん、今だ!!
次の瞬間、あたしと聖騎士たちの間に爆発が巻き起こった。 よし、タイミングバッチリ!
「メイちゃん!! 来て!!」
いきなりの爆発で倒れる聖騎士も少しいたけど、大半はまだどうにか立っている。 魔力弾だけで倒せるとは思ってなかったけど、かなりの防御力だ。
とにかく爆炎の土煙が晴れない内に突破しないと、後方の魔術師の的になる。 あたしはすぐにセバスチャンを短剣サイズに縮めて角付きの聖騎士の横をすり抜けた。 まだ爆発のダメージから立ち直って無い聖騎士達はあたしを止められない。
あたしはと言えば、セバスチャンの結界のお陰でノーダメージだ。 光属性じゃなければ怖くない。
あたしが先陣を切って、会敵する寸前にメイちゃんが怪力で魔力弾を思いっきり投げつける。
で、爆発の中を結界を頼りに一気に突破する。 これが突破その1だ。
「まて!」
ようやく衝撃から立ち直った角付きがあたしの背後をを追撃しようとした時、槍を手にしたメイちゃんが思いっきり槍を横薙ぎにして突っ込んできた。
角付きとその両隣の聖騎士が避けきれずに薙ぎ倒され、メイちゃんはそのままあたしに続いて突破する。
完璧に決まった。 あたしはセバスチャンを長剣に伸ばして魔術師の一団に突っ込んで行く。
後方職の魔術師達は、いきなり飛び込んできたあたしにうろたえて魔光弾を乱射するが、大半は結界と瘴気に阻まれてダメージにはならない。
あたしは一気に魔術師達に飛び込むと、わかり易く剣を横に振るう。 浮き足立った魔術師達はバラバラに散って距離を取った。
よし、これで狙いやすくなった。 流石に全員を一度に相手には出来ない、あたしの標的は……神官服の女! こいつが回復術師で間違いない!
あたしは神官服の女に体当たりして転倒させると、彼女が起き上がる前にその首筋にセバスチャンを突きつけた。
「勝負あった! 仲間の命が惜しければ武器を捨てろ!!」
数で不利の上に、人間は出来るだけ殺したく無かったから仕方無かったとは言え、今のあたし達はあからさまな悪者にしか見えないだうな……とちょっとだけ思った。




