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地下の戦場と単眼巨人

この保存食の包み……あたしが冒険者の登録をした時、ギルドの売店で見たことある。

広間の床をよく見ると、同じ包みの袋やポーションの空き瓶に、様々なゴミが乱雑に散らかっていた。


「かなりの人数が入り込んでいるようですな。 おそらく数十人規模か……百人程度、或いはそれ以上かもしれません」


「百人って……」


こないだジャスティン一味と戦った後に乱入してきた冒険者達でも、三十人程度に見えた。 それが百人とか一体ここで何が起きてるんだろう?

この先にまだ居るんだろうか? この先は迷宮の構造が大幅に変わってなければ魔王の地下宮殿が近い、とセバスチャンは言っていた。 なら、この人達の目的も地下宮殿?


とにかく先へ行って見ないと何も判らない。 あたし達は慎重に先に進む事にした。


……


「うわ」


さっきの広間から幾つ目かの通路の角を曲がった時、そこに有るモノを見て思わず声が漏れた。

どうやらここで戦闘があったらしく、壁や通路に血が飛び散っている。 赤黒い人の血に、緑色の魔族の血がデタラメに入り混じって一種の模様みたいになっている。

そして、床の上には闇鬼畜族(ダークオーク)幽甲冑(ゴーストメイル)の死体や残骸が転がっていた。 どうやらここで、件の冒険者の一団が一戦交えた様だ。


「死体は魔族やモンスターばっかりだね」


「人の物と思しき血痕が大量にあるのに、死体が無いのは妙ですな。 恐らく件の冒険者達の中には、腕の良い回復術師(ヒーラー)が居るものと思われます」


「回復術師かぁ……」


「回復術師が神官であった場合は、対アンデッド用の光属性の攻撃魔法を同時に習得している場合が殆どです。 ご存知の通り、私の耐魔法結界は光属性に対してのみ効果が薄れますので、何卒御用心下さいませ」


「わかった」


神官ねぇ…… あたしは子供の頃から信仰には熱心な方じゃなかった。 祭壇のお供えとかつまみ食いしてたしね。 でも、神様に対しては別に悪い感情とか持ってはいなかった。

それが、この迷宮に入ってからは悪い奴らに騙されたり、ゾンビになったり延々と迷宮を彷徨ったりとロクな目にあってない。 最近では、何か神様が面白がってあたしの運命を操作してるんじゃないか、とさえ思ってしまう。


あたし達の神様は、天の上におわす白い(ローブ)を着た白いヒゲの優しげなお爺さんとして描かれる。 最近のあたしが抱く神様のイメージは、でっぷりと太った(すだれ)頭のチョビヒゲの中年男で、高価そうな椅子に掛けてて片手にワイングラス、もう片手で毛の長いふかふかの猫なんか撫でてて、下界のあたしを見て「ムホホホ」なんて笑ってるそんな感じだ。


もし蘇生も叶わずに本当に死んだりしたら、天国への階段を駆け上がって神様のブヨブヨのお腹に腹パンでもしてやらなきゃ収まらない。 そして頭の残り少ない毛を……


カシャカシャ


後ろからメイちゃんが、あたしの肩をつついて来たのであたしは神様への八つ当たり妄想を中断した。 続きは本当に死んだ時の為に取っておこう。


「なに?」


メイちゃんはあたしが妄想に浸ってる間に、幽甲冑の残骸を調べていたみたいだ。 で、メイちゃんはその残骸の隣に転がっている楯を指さした。

楯には三本首の竜の紋章が描かれている。 これって、あのジャスティン一味の上役っぽかった闇妖精族(ダークエルフ)の魔貴族ダグウェルの紋章だ。


「闇鬼畜族の鎧にも同じ紋章が有りますな。 これらは恐らくダグウェルの手の者で御座いましょう」


「じゃあ、冒険者ご一行様はダグウェルと戦っているって事よね?」


そう言えば、以前あたしをバケモノ呼ばわりした白い鎧の男は「お前達の陰謀はこれで終わりだ!」的な事を言っていた。

陰謀って言うのは、多分ダグウェルがジャスティン達を使って女の子を攫っていた件だろう。 その陰謀を潰して、いよいよ本丸のダグウェルの討伐に乗り出したって所なのだろうか?


「まだ判りません。 単なる偶発的な遭遇戦の可能性も捨て切れません……ただ」


「ただ……何?」


「はい。 現在地は地下宮殿がかなり近いと思われる階層です。 そこに冒険者とダグウェルの一味が居て互いに争っているのだとすれば、二つの状況が考えられます。 一つ目はダグウェルが既に地下宮殿を占拠していて、冒険者がそれを討伐に来た場合」


「もう一つは?」


「まだダグウェルが地下宮殿を占拠しておらず、そこに在る何かか地下宮殿その物を先に入手するために、冒険者と争っている場合です。 問題はどちらの場合でも、目的の蘇生設備にたどり着くには片方、最悪の場合は両方の勢力との接触と交戦が予想される事で御座います」


うぇ、最悪。 あたしは只、地下宮殿にある蘇生設備を使いたいだけなのに、変な争いに巻き込まれるのはゴメンだなあ。 まあ、蘇生出来たら冒険者側に付いてもいいんだけど、今のままじゃねぇ……


「ともあれ、現状では推測の域を出ません。 まずは地下宮殿に辿りつくのが先決かと」


「だね。 まだどっちも宮殿に辿りついてないなら、あたし達にもチャンスがある。 急ごう」


あたし達は死体を避けながら、さらに先に進んだ。 通路や部屋を抜ける度に、モンスターや魔族の死体や戦闘の痕跡が増えてくる。 今のところ人間の死体はまだ無い。 回復術師が優秀なのか、それとも全員が強者揃いなのか……


あたし達は唐突に広い空間に出た。 広場と言って良いくらいの円形の空間で天井もかなり高い。 周囲は階段状の無人の座席が取り巻いている。

天井からはかなり強い光が降り注いで、広場一面を照らしている。 そこで複数の人間達と巨大なモンスターが死闘を繰り広げていた。


モンスターの中でまず目を引くのが、人間の数倍はありそうな巨人だ。 頭に一本だけ角が生えていて顔の真ん中に大きな目が一つだけある。

その巨人の足元には十数人の闇鬼畜族がいて、巨人に踏み潰されない様に器用に距離を取って人間と戦っている。


人間側は、十五人くらいか。 揃いの銀の甲冑を身に付けた十人位の人達が、大きな楯と剣を手に闇鬼畜族とやり合っている。 後方には五人のローブの人達が様々な攻撃魔法を放って、巨人を牽制している。


「あの巨人は単眼巨人(サイクロプス)ですな。 状況はほぼ互角の様ですが、あの単眼巨人が前線に出てくれば恐らく人間側に勝ち目は無いでしょう。 やり過ごして先に行くのが得策と思われますが、如何なさいますか、お嬢様?」


うーん……ちょっと悩んだけど、ここは人間に味方するべきだろう。 今のあたしはゾンビだけど、心まではモンスターじゃないんだ。 人間側が不利なら見捨てておけない。

人間側に加勢するためにメイちゃんと一緒に広場に入った時、ローブ姿の男があたし達に気が付いて警告の叫びを上げた。


「新手のモンスターだ!! ゾンビと幽甲冑が一体ずつ!」


まあ、そうなるよね。 バケモノ扱いも二度目なら慣れてくる……少しはね。

とにかく単眼巨人くらいは倒しておけば、後は彼らが何とかするだろう。 あたしたちは敵じゃない! って無駄だけど一応叫んでみようか……と思った時、不審げにあたしの顔を見ていた男の顔が驚愕に彩られた。


「あいつは手配書のゾンビ女だ! 優先して撃破するぞ!! 対アンデッド戦用意!!」

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