魔法機械と終わる使命
あたし達はその後も何度か光精獣の襲撃を受けたけど、どうにか撃退できた。
アングラールは大して広い街じゃない。 数回の戦闘を潜り抜けてようやく地下都市の天井に届く大きなエレベーター……メインシャフトが見えてきた。
「何?これ」
もう少しでメインシャフトのある中央広場にたどり着く所で、あたし達は道を完全に塞ぐバリケードに行く手を阻まれた。
バリケードは建物の瓦礫を材料に、建物の二階近くまでの高さに乱雑に積み上げてあった。
「このバリケードは作られてから、かなりの時間が経過しているようですな。 恐らくゾンビ災害に際してアングラールの住人が築いた物でしょう」
セバスチャンはそう説明するけど、問題はこのバリケードがいつ作られたかよりも、どう越えるかだと思う。 よじ登るには少し不安定で、半実体の光精獣ならともかく、鎧を着たあたしや鎧そのもののメイちゃんではキツそうだった。
どうしたモノか思案するあたしの肩を、メイちゃんがつつく。 何? とメイの方を振り向くと、彼女はバリケードの手前の廃屋を指差した。
なるほど、横の建物の中を通ればいいのか。 あたし達はその建物……酒場かな? に入って広場に抜ける戸口を探す。
建物の内部はやっぱり酒場か何かみたいで、ひっくり返ったテーブルが幾つか転がってて、奥にカウンターがある。 となれば、やっぱり集客上広場側にも出入り口が……あった。
広場側の窓は閉め切られて板が乱雑に打ち付けられ、入り口付近にはテーブルや椅子が積み上げてあった。
でも、窓の幾つかは外から突き破られた跡があり、入り口の簡素なバリケードも破壊されてドアも跡形も無い。 多分ゾンビ災害の際に慌ててバリケードを築いたけど、結局ここからゾンビの群れに突破されたのだろう。
でも、お陰でここからメインシャフトに行けそうだ。 あたし達は戸口からこっそり広場を覗き込んだ。
その瞬間、広場から白い光が稲妻みたいに差し込んできた。 肌にビリビリくるこの光は、間違い無く光精獣と同じ光属性の魔力によるモノだ。
……広場の中央には、まるで塔みたいに聳え立つメインシャフトが見えた。 その基部には馬車でも余裕で入れそうな大きなエレベーターの入り口があり、その手前にある大きな球体が白い光を放っていた。
大きな台座に据えられたその球体は、人が入れそうな大きさのガラス球で、光はその中から発せられている。
その球体の台座の前で、ボロボロのローブを着た人影が台座に固定された機械? を弄っている。 光は益々大きくなり、広場から闇の瘴気が消え失せる程に光の魔力が高まっていく。 そして球体から電光が走ったかと思うと、次の瞬間球体の中から光精獣が飛び出してローブの人物の隣に大人しく待機した。
「どうやら、あれが光精獣を合成する魔法機械の様ですな」
セバスチャンが小声であたしに説明する。 なるほど、つまりあの魔法機械を破壊すれば、これ以上新しく光精獣が現れる事は無いわけだ。 でも……
「何で今更光精獣を作ってるんだろう? って言うか、あのローブの人はだれ?」
「申し訳御座いません。 流石にそこまでは判りかねます」
まあね。 ともあれ、あのローブの人物が魔法機械を操っているならまずアイツを倒さなきゃならないだろう。
とか言ってる内にまた球体から電光が走って、もう一体の光精獣が現れた。 これ以上時間を掛けるとこっちが不利になる。 一気にケリを付けよう。
まず、あたしが正面からローブ男に突っ込んでいく。 侵入者に気付いたローブの人物は驚いたみたいに、こっちを振り向いた。
その顔はおそらく男……なんだと思う。 完全に骸骨になってて判別はできないけど……って、コイツもお仲間!?
骸骨男は二体の光精獣に指図して、こっちに向かわせた。 二体は連携の取れた動きで瞬時に距離を詰める。 こっちもアーちゃんに闇の瘴気を集めて貰って身体に纏う。
まず、あたしがセバスチャンを目一杯伸ばして、二体を一度に薙ぎ払う様に“わかり易く”振るう。
相手はそれを察知して、左右に分かれた……読みどおりに。
あたし達は、数回の戦闘で光精獣の行動パターンをある程度理解した。 コイツらは、攻撃力は今まで戦った相手の中ではズバ抜けているけど、頭はそれほど良くなくある程度パターン化した動きをしていた。
相手が同じく単純な動きをするアンデッドの群れならそれでも良いかもしれないけど、生憎あたし達は只のアンデッドじゃない!
普通なら、ここで同時攻撃をしてくる光精獣を迎撃するべく立ち止まらなければいけないところだけど、逆に装甲を生かして一気にガラ開きの正面を突破する。
さすがに無傷で突破とは行かず、多少のダメージを負ったけどコレくらいは許容範囲内。 瘴気の力で回復させながら一気に骸骨男との距離を詰める。
無視された形の光精獣は、ガラ開きのあたしの背後を狙うべく反転した瞬間、さらにその背後を付いて角材を構えたメイちゃんが飛び込んで、今度は確実に当てるための横薙ぎの攻撃を仕掛けた。
ごめん、すぐ仕留めるから持ちこたえてて!
心の中でメイちゃんにお願いしながら、あたしは骸骨男に突進する。 骸骨男は慌てて両手から火力弾を乱射するが、尽くセバスチャンの耐魔法結界に弾かれる。
光属性じゃ無かったら怖くない! あたしは一気に骸骨男目掛けて脳天からセバスチャンをふり下ろした。
骸骨男は寸前で回避を試みたけど、かわし切れずに肩口にザックリと斬撃を受けて、そのまま衝撃で魔法機械に叩きつけられた。
状態が半ば切断されかけて動く事もままならない骸骨男は、怨念の籠った声であたしに叫んだ。
「邪悪ナぞんび共メ! この光精獣合成機ハあんぐらーるノ最後ノ希望ダ! 破壊サレテナルモノカ!!」
え?
「あんでっどニ、コノ街ヲ蹂躙サセハセンゾ! 光精獣合成機ニ魔力ガ供給サレタ以上、ぞんび共ニ勝チ目ハ無イ! 必ズ住人ハ救助スルゾ!!」
ああ……
頭の悪いあたしでも、骸骨男の言わんとする事は理解できた。
……彼は、間に合わなかったのだ。 ようやくゾンビを一層出来る魔法機械をアングラールに持ち込む事が出来たけど、うまく作動せずに失敗して彼も死んでしまった。
で、今になって復活して、何故か動くようになった魔法機械を作動させてアンデッドの排除に動き出したんだ。
それが、かつてのアングラールの住人の亡霊であっても……
あたしは骸骨男に少し哀れみを感じた。 でも、彼の使命は逆に彼が護ろうとしたアングラールの住人の魂を脅かしている……
「ごめんなさい、でもあなたの使命はここで終わりなの……だから」
あたしは骸骨男の脳天にセバスチャンを一気に振り下ろした。
「……後はもう安らかに眠って」




