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ゴーストタウンと初仕事

前回のお話、終盤にシネルを見て幽霊の群れが怯えるシーンと、言葉が通じない幽霊とシネルが念話の魔法で会話できるシーンを書き忘れたので加筆しました。


ご迷惑をお掛けして申し訳御座いません。

アングラール? この地下街の名前だろうか? 首を捻るあたしに、老人の顔が更に語りかける。


「どうか、ご無礼をお許下さい。 しかし我々は死後も安眠を妨げられて、平穏を失っているものが大半で御座います故」


ふむ、一体この幽霊達は何者なのだろう? あたしがそう考えただけで、幽霊は返事を念話で返してきた。

魔法って便利だ。


「アングラールはこの地下街(まち)の名前で御座います。 地上の荒廃に際し、この地下都市を建設してに移住したものの、幾つかの災いが重なり、ここで皆が死に絶えました」


老人の言葉に合せて他の人面が啜り泣き始める。 女の子の幽霊もシクシクと一緒に泣き始め、アーちゃんまで貰い泣きをウォオオオオンと始めた。


ああ、辛気臭い! まぁでも何かを伝えたいみたいだし、あたしは我慢して幽霊の話を聞いた。


セバスチャンが前に説明した様に、この街は超帝国時代(インペリアルエイジ)とか言う時代に造られた。 あたし達が住む人界を歴史上唯一、統一できた“超帝国”とか言う国が支配した平和な時代だったらしい。

でも、長い平和の末に色々と衰えた超帝国は、気候の悪化や疫病の発生、更には魔界からの度重なる侵攻で荒廃して遂には滅亡してしまったそうだ。


で、この地下都市アングラールは、超帝国の崩壊したあたりに、荒廃する地上から逃れる為に建設された、と言うことだ。


でも、結局アングラールの住人はみんな死んでしまって、ここは文字通りのゴーストタウンになってしまった……何故だろ?


あたしの疑問に老人が答えた。

……超帝国はその国力が衰えた辺りに、様々な要因が重なって滅びた。

その要因の中でも大きなモノが、ゾンビの大量発生による“ゾンビ災害(ハザード)”と疫病であったらしい。


ゾンビ災害によって現れたゾンビは、強力な呪術によって生み出されたモノで、通常のゾンビと違ってこのゾンビに殺されたりキズ付けられた人間もまた、ゾンビとして復活して更に人を襲って数を増やしたらしい。

で、この地方に於いて、爆発的に増えたゾンビから逃れるべくアングラールに避難したのだが、その住人の中に、ゾンビに襲われて軽症を追った事に気が付かなかった者が多数いたらしい。

結局その人たちがゾンビになって、アングラールの中でゾンビ災害が発生し、僅かに生き残った者達……つまりこの幽霊達がこの避難壕(シェルター)に逃げ込んだモノの、ゾンビだらけの外部に出る事が叶わずこの避難壕に閉じ込められる形となり、ついに食料不足と内部で発生した疫病で全員が死に絶えた……と言う。


なるほど、それでこの幽霊達はあたし(ゾンビ)を見て怯えたと言うワケか。 あと、女の子の幽霊が初めてあたし達を見て逃げ出したのも理解出来た。

要するに、この子はいきなり現れたあたし達に驚いたワケじゃ無くって、このあたしのゾンビ顔を見て怯えて逃げた、と。


……幽霊がゾンビに怯えるとか……まぁ、いいんだけどさ。


あ、待って?


あたしは妙な事に気が付いた。 ゾンビに閉じ込められてここで死んだって言うけど、避難壕の辺りにもそれ処かアングラールの街のどこにもゾンビなんて居なかった。

そのゾンビは何処に行ったんだろう?


「それが、この子を襲ったあの光精獣(ライトビースト)の仕業で御座います」


老人の幽霊は女の子の幽霊に寄り添って話を続けた。

その光精獣なるモンスターは、増え続けるゾンビに対抗するべく超帝国の魔術師達が造り出した、ゾンビ等のアンデッドモンスターを優先して攻撃し、自身が敗れた際には自爆して可能な限りのアンデッドを排除するのが目的の“人工精霊”とか言うモノであるらしい。

光属性の魔法エネルギーで出来た光精獣の攻撃力は凄まじく、ゾンビ等の下級のアンデッドなら跡形も無く消滅させる事も可能なのだそうだ。


結局、合成に時間と膨大な魔力が必要な為に、ゾンビ災害を覆すには至らなかったみたいだけど。

で、アングラールにも光精獣が配備される筈だったけど、その前にゾンビ災害が起きて活躍する事は無かったと言う。


しかし、最近になって何故か光精獣が何体か出没し、廃墟を徘徊するゾンビ共を駆逐したのは良いが自分達幽霊にまで襲いかかる為、ゾンビが居なくなっても結局避難壕から出られないままであるのだそうだ。

ちなみに何故か光精獣はシェルターには入ってこないらしい。


で、何故今になって光精獣が現れたのか、原因を探る為に……と女の子の幽霊が避難壕をこっそり抜け出して、あたし達と出くわして……そんで今に至る、と。


「何故、今になって光精獣が現れたのか皆目見当も付きません。 我々はここで無念の死を遂げて以来、幽霊としてこの街に留まり続けております。 天上に昇る事が叶わないならばせめて、このアングラールで平穏に留まり続けたい……それだけが望みで御座います」


お? これはひょっとして?


「そして、今こうして光精獣を容易く退治できた方が現れました! お願いです! 同じアンデッドのよしみで、何とかこのアングラールに平穏を取り戻して戴けませんでしょうか!? 無論、御礼は致します!!」


依頼(クエスト)きたああああ!!


思わずガッツポーズを取るあたしに、セバスチャンが小声で囁いて来た。


「この話を受ける気で御座いますか、お嬢様? 差し出がましい様で御座いますが、そろそろ本筋に戻られたほうが宜しいのでは?」


「まぁそうだけど、この寄り道でアーちゃんにも出会えたんだし、もうちょっとこの横道に付き合ってもいいんじゃない? なんかお礼もしてくれるって言うし。 ……それにゾンビになっちゃったけど、あたしは一応まだ冒険者のつもりなんだよね」


あたしは、首から下げた冒険者の身分を示すドッグタグを手に取った。


「冒険者であるからには、困った人……幽霊でも何でも、の依頼は断りたくない。 それに、ここまで話を聞いちゃったら、もう断れないじゃない?」


あたしの言葉にメイちゃんもカシャンと頷いて同意する。


「畏まりました。 このセバスチャンもお嬢様の冒険者としての初仕事を、全力でお手伝い致します」


セバスチャンに次いでアーちゃんも賛同するみたいな唸り声を上げた。

おっけ、あたしは幽霊の群れに高らかに宣言する。


「冒険者としてこの依頼、受けた!!」






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