逃走に至る回想
書体がコロコロ変わりますが、まだ不慣れで何とも…
その内修正します。
あたし……トルア村のシネルは、村はずれの平凡な農家に産まれたらしい。(あ、あたしの居る国では、平民に苗字は無いの)
らしい、って言うのはまだ幼い頃に本当の両親が流行り病で死んじゃったから。だから、あたしは両親の顔も生まれた家も覚えて無い。物心付いた頃には、家はとっくに嵐で崩れて土台だけになってた。
奇跡的に助かったあたしは、村で唯一の旅籠宿をやってる叔父の家に引き取られて、そこで下働きと給仕娘の仕事をしてた。
仕事はきつかったけど、ありがちな虐待とかは無かった。でも…何というか、やっぱりあたしは余計な食い扶持でしか無かったワケで、ちょっと居辛かったのは確かね。
トルア村は大きな街道から外れてて、滅多に金払いの良い客は来なかったし、叔父さんには五人の子供(つまり従兄妹)がいて暮らしぶりは良くなかったみたいだったし。
だから、あたしは早くここから出て冒険者として身を立てたかった。村は辺鄙な場所にあったから、周りにはよく小鬼族や山賊が出ていたみたいで、それを討伐する冒険者がよく宿に泊まっていたの。
お酒が入った彼らは、上機嫌でまだ小さかったあたしにいろんな武勇伝や面白い話を聞かせてくれた。あたしがしつっこくお話をせがむから、よく叔母さんに怒られたっけ。でも、村の外の冒険話に憧れて、いつかは冒険者になって、それでお金持ちになってお嬢様みたいな暮らしがしたいって、そう思ったの。
……まあ、世間知らずな私は世の中を甘く見てたワケで、今それをこうして後悔してるんだけどさ。
で、こないだ十四歳になって、冒険者になるって叔父さん夫婦に宣言してここを出るって言った時、叔父さんたちは喜んで私を送り出してくれた。まあ、食い扶持が自分から出て行ってくれるワケでみんなホッとした顔をしてたっけ。
まあ、ここまで育ててくれた恩はモチロン感じてるけど、もうちょっと寂しそうにしてくれても良いじゃない…まあ良いけどさ。
それで、あたしは行商人の馬車に乗せてもらって、村から離れたアドベルグの街にやってきたの。叔父さんの宿で冒険者の人に、今はこの街が稼げる。何でもこの街には大きな地下迷宮があって、沢山のモンスターとお宝が眠ってて、初心者にもチャンスがあるって教えてもらったから。
初めて見る大きな街は、居並ぶ大きな建物やら、朝も早いのに大勢の人ごみでごった返す大通りやら何もかもが珍しくって、しばらくキョロキョロと街中を見ていたけど、自分の目的をやっと思い出して行商人のオジサンに冒険者ギルドの近くで馬車から降ろしてもらい、オジサンにお礼を言って別れてから、あたしは意気揚々とギルドの中に入っていった。
ギルドの受付は大勢の人でごったがえしてて、あたしの順番が来るまでかなり待たされた。ようやく自分の番になってあたしは受付のお姉さんに自分が冒険者として登録したいと告げた。
お姉さんは私をジロジロ見て、剣技とか魔法とかの特技はあるかと聞いてきた。そこであたしは答えに詰まった。モチロンあたしは宿屋の下働きと給仕しかやった事は無い。だから、同い年の女の子に比べて力にはちょっと自信はあったが、言うまでも無く武術とか魔法は全く使えない。
「えーと……やっぱりそう言うのが無いとダメですか?」
あたしが自信無さげに言うと、お姉さんは眼鏡を直して(眼鏡なんて掛けてる人って始めて見た)軽く溜息を吐きながら教えてくれた。
「いけなくは無いわよ。最近はアナタみたいな素人の人も多いし、今は迷宮の攻略には猫の手も借りたい位だから。まあ、猫よりは役に立つでしょうね。じゃあこの書類に記入して」
大勢の人の登録で疲れ気味らしいお姉さんは、ぶっきらぼうに言うとこちらに書類を無造作に渡して来た。でも書類の記入なんて生まれて初めての事で、四苦八苦しながら最後には殆どお姉さんにやってもらって、ようやく晴れて冒険者として登録して身分証となる変わった首飾り(ドッグタグとか言うらしい)を貰ってギルドを出た頃にはとっくに昼を過ぎていた。
お腹は空いていたけど、憧れの冒険者になれたあたしはとにかく早く冒険がしたくって、お姉さんに教えてもらったギルドの建物の向かいにあるギルド提携の武器屋に飛び込んだ。
お金は、今までに貯めたお金や叔父さんに貰ったお餞別のお金が100G程あったけど、麗々しく並べられた強そうな剣や鎧にはとても手が出ない。何を買ったら良いか判らずにキョロキョロしてる私に、愛想のいい武器屋の店員のお兄さんが声をかけてきて、あたしは彼の勧めるままに“初心者向け装備セット(80G)”を購入した。
店の奥の更衣室で着替えて、店内の姿見で自分を見る。今まで伸ばしていた長い黒髪は、後ろでポニーテールに纏めた。服の上から付けたソフトレザーの胸当ては、あたしの胸にはすこしキツかったけど、これ以上大きなサイズは無いらしい。まあ防具なんだしこんな物だろうと納得した。
服はスカートとスパッツとズボンと選べたが、色々迷った挙句スカートにした。まあ女の子だし。ただスカートの丈が短いので、もう5G出して厚手のニーソックスを付けて、セットの膝下までのブーツを履く。
仕上げに革の手袋と付けて、短剣と小盾を持つと、中々の女戦士が鏡に映った。姿見の前でそれらしいポーズを取って表情を引き締めてみる。大き目のやや吊り目気味の目が我ながら精悍に見えて、自慢の青い瞳も輝いて見える。
「お似合いですよ」と店員のお兄さんにおだてられて、この時のあたしはもう一人前の冒険者どころか、昔話に出てくる姫騎士になった様な気分になってて、明らかに浮かれていたと思う。
あの時、もう少し気を引き締めていたら、あんな事にはならなかったかもなぁ……