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夢の鎧と厳しい現実

“防具専門店”の内部は、他の店同様に比べれば比較的商品が残っていて、様々な鎧や楯やその他ローブや(クロース)なんかが展示されていた……


いた……と言うのは、その大半が数百年の時のせいで錆びてたり朽ちてたりして殆ど原型を留めていないモノばかりだったからだ。


「むぅ。 期待はずれも良い所じゃない」


あたしは、床に転がってる錆び朽ちた兜をつま先で軽く蹴飛ばしたが、転がりもせずにボロボロに崩れてしまった。


「まだ判りませんぞ、お嬢様。 貴重な魔法の品等は、盗難を恐れて店の奥などに保管されている可能性が御座います」


なるほど。 あたしはセバスチャンの意見を聞いて、更に店の奥に入っていった。 いかにも厳重な鉄の扉があったので、メイちゃんに叩き壊してもらう。

半ば朽ちた鉄の扉は、メイちゃんの蹴り一発で呆気なく蝶番から壊れて、大きな音と共に床に叩きつけられて盛大なホコリを巻き上げた。


「おおー」


部屋の中は店内の売り場くらい広く、床や大小様々な木箱にはホコリが分厚く積もってはいるものの、やっぱりネズミは勿論クモの巣さえ掛かっていない。

一層濃くなった闇の瘴気のせいだろうか、あたし達には最早爽やかにすら感じてしまうこの瘴気は、小動物や小さな虫にとってはきっと命取りな濃さなのだろう。


「うーん……。 何か変なモノとか在るのかな」


「所謂呪いのアイテム等が在るかもしれません。ご用心を」


脅かさないでよ……とりあえず手近な箱から開けていく。 セバスチャンによれば、この木箱には保存の魔法が掛かっているらしく、木箱自身と箱の中身は時間のもたらす風化からは無縁でいられるらしい。 理屈はともかく、何か良い物はないかな? あたしは次々と箱を開けていった。


なるほど、箱の中身には高価そうな鎧とか楯とかローブ何かが入っていたけど、どれもあたしには大きすぎたり重かったりして、ピンと来る様なモノが見つからない。


これは何だろう? 棚にあった小さな木箱を開けて……中々良いモノを見つけた。


「メイちゃん、こっちきて」


あたしは、木箱を大きい順に運び出しているメイちゃんを手招きして呼んだ。 彼女はなんだろ? と言う風に首を傾げながらこっちに来た。


「ちょっと後ろ向いてしゃがんで。 そうそう、そのまま動かないでね」


あたしはメイちゃんの頭……兜の天辺にある角飾りに、いま見つけた良いモノを着けてみた。


「おっけ、メイちゃん。 こっち向いて」


あたしは振り向いたメイちゃんに、売り場から持ってきてた鏡を見せた。

鏡には、頭に大きな赤いリボン飾りを着けたメイちゃんが映っていた。 後ろから見ると、まるで大きな赤い蝶が(はね)を広げている様にみえる。

厳つい幽甲冑(ゴーストメイル)の兜に、リボン飾りは最初はミスマッチかな? と思ったけど、メイちゃん自信の女の子らしい仕草もあって、中々に可愛らしく見えた。


「ほらメイちゃんも女の子だし、何かオシャレしないとって思ってさ。 保存の魔法が掛かってるから、少々の戦闘でも破れないってセバスチャンがそう言ってたよ」


そう言いながら、あたしもいい加減古くなった結い紐を外して、もう一本あった同じリボンを髪に結ぶ。


「ほら、お揃い。 どう? 気に入った?」


メイちゃんは鏡を見たまま微動だにしない。 なんか肩かカチカチと小刻みに震えている。

あ、あれ? 気に入らなかったかな? あたしは不安になってメイちゃんに近づいて……いきなりあらん限りの力で抱きしめられた。 ちょ! 苦し……



メキメキメキ……バキベキボキボキボキ!!



ちょっと休憩……



「ふう」


やっとあばら骨と背骨がくっ付いた……瘴気が濃いお陰で、骨折の回復も早い。 どうにか動ける様になったあたしは、プルプルと小刻みに震えるメイちゃんの頭を撫でて言った。


「全然怒ってないって、愛情表現だってわかってるから。 セバスチャンも、もう責めないで。 ほら、元気出して」


いきなり胴体を折られる位抱きしめられたのにはちょっと驚いたけど、まぁ喜んでくれて何よりだ。

メイちゃんはカシャンと頷いて、あたしが立ち上がるのに手を貸してくれた。

さて、本題に戻ろうか。 あと鎧とか入ってそうな箱は残り一つだ。 厳重な封印がされた大きな木箱が一つ、曰く有り気に部屋の一番奥に鎮座していた。

メイちゃんに封印を破ってもらい、あたしが木箱の観音開きの扉を開けた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


あたしは、思わず歓喜の叫びを上げた。 それもそのはず、木箱の中には純白のドレスアーマー一揃いが入っていたのだ!!


ドレスアーマー!!


おとぎ話に出てくる姫騎士や、女勇者が必ずと言っていい程着ているあのドレスアーマー!! 冒険者になったからには、いつか着てやろうと夢見ていたあのドレスアーマーが目の前に!!


「もらったああああああああああああああ!!」


あたしはドレスアーマーに飛びつく様に抱きつくと、メイちゃんに着付けを手伝って貰いながら鎧を装着した。 ご丁寧に、真新しい純白の下着一式まで木箱に入っている。 レースの下着に、ガーターの付いたストッキングなんて初めて身に着ける。

さらに丈の長いスカートのドレスを身に着けて、上から胸当てに手甲に脛当て付きのブーツを装着すると、我ながら立派な姫騎士が出来上がった。


鏡の前でセバスチャンを構えて、ポーズを取る。 ……我ながら格好良い、メイちゃんも両手を口元に当てて見とれている風だった。

いいじゃない。 これであたしもお嬢様に相応しい格好に……


「ゥゥォォォォ……」


え? 今の何? ……気のせいかな?

まあ良いや。 えーと……あれだ、我ながら立派な姫騎士姿になったワケで、これでもうバケモノなんて


「ゥゥウウウオオオオォォォ……ンンン」


気のせいじゃない、何か変な呻り声……いや、泣き声が聞こえる?


「ウウウゥウウウウウウゥゥオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンン!!!」


うるさい! いったい何処からこの泣き声が!?


「お嬢様!! 鎧が!!」


え? あたしは自分の鎧を見下ろして……愕然とした。

さっきまで純白だったドレスアーマーは、鎧の部分がドス黒く、ドレスは血の色に変色していた。

それだけで無く時折鎧の胸当てや肩当、更にはドレスのスカートに苦悶の表情に満ちた人面が浮き上がって……


「ウオオオオオオオォォォォ……ンン」


悲痛な泣き声を上げているのだった……


「なにこれ!?」


あたしは鎧を脱ごうとするけど……脱げない!?

鎧を固定する留め金やベルトが、まるで凍りついたみたいにガッチリと固まって取り外せない。 あたしの周囲の闇の瘴気が一団と濃くなる。 原因はこの鎧!?


「お嬢様、木箱に説明書が落ちております」


「早く言って! てか、読んで!!」


「畏まりました……この鎧は“悲嘆呪殺のドレスアーマー”と言い、かつて魔王討伐に出たとある姫君が身に着けていた鎧である。 しかし、その姫君は部下の裏切りにあって魔王軍の手に落ち、非業の死を遂げた。 その後も姫君の怨霊が鎧に籠り、一見純白に見える鎧だが誰かが着用すると暗闇と血の色に変色し、姫君の断末魔の苦悶の表情が浮かび上がり怨念の籠った泣き声を上げる。 あと、装着者は死ぬ。 ……とあります」


なによそれ!? 装着者は死ぬって……はいはい、どうせあたしはもう死んでますからね!

あたしはガックリと膝と両手を付いて、落ち込んでしまった。 その間にも鎧は苦しげな泣き声を上げ続ける。


「ウォオォォォオオオオオンン……」


なんで、こうなるのよ!? 悪い奴らに騙されて、ゾンビになって、バケモノ呼ばわりまでされて!


「ウウウウゥウゥゥウォォォオオオンン……」


せめて、オシャレにドレスアーマーとか着て格好だけでもお嬢様に成りたかったのに!!


「ウウオオオオォォオオオウウウゥゥゥ……」


それも許されないって言うの神様!? どうしてあたしの身にこんな事ばかり



「オオオオオオオオオオオォォゥゥゥウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンンンン!!!」



「うるっさい!! だまれ!!! 泣きたいのはあたしの方だ!!!!」



いい加減ブチ切れて怒鳴り返したあたしの剣幕に、鳴き声は竦んだ様に鳴り止んだ。

明日6/30日は都合の為、多分お休みします。


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