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唐突な横道と幸運な寄り道

「これ、なんだろ?」


あたしがそのを横穴を見つけたのは、こないだ九叉大蛇(ヒュドラ)を倒した階層から更に幾つか階層を降りた先のある広間の中でだった。

壁面に穿たれたその横穴は自然に崩れて出来た感じで、周囲には壁を構築してた石材が散らばっていた。

横穴には奥行きがあるみたいで、わずかに冷たい風が吹き込んで来る。


屍喰巨蟲(グールウォーム)とかが開けた穴……じゃ無さそうね」


あたしの問いかけにセバスチャンが答える。


「その様ですな。 穴が小さすぎますし、他の地下生物が開けた物とも思えません」


「ふむん」


あたしは横穴の奥を覗き込んだ。 人がどうにか通れる大きさの、岩肌の露出した穴が奥まで続いていて、まるで狭い通路みたいだった。


気になる……


あたしは小さい頃から、こんな横道とか抜け道みたいなのが気になる性分で、よくお使いに出されても寄り道で遅くなって叔母さんに叱られたっけ……


ともあれ、改めてこの横道を改めた。 今までこの迷宮の通路の入り口はアーチや門や扉で出来ていて、こんな崩れた風な入り口は初めて見た。

無駄に広大で複雑ではあるモノの、造りとしては単調なこの迷宮にあって、この横穴は新鮮な“変化”に見えた。


「中に入る気で御座いますか? 今までの通路とは構造が違います故、あまりお勧めは致しませんが」


「まあまあ、ちょっと覗いてみるだけだし、先に何が在るかが判らないのは、今までの迷宮とおんなじじゃない?」


「畏まりました。 メイちゃん様、先導をお願い致します」


メイちゃんはカシャンと頷いて、先頭に立って穴に入る。 ホントにギリギリだけど、何とか入れたみたいだ。

後を追ってあたしも続く。 うわ、思ったよりも狭い。

今までの整備された通路じゃなくって、ゴツゴツした岩がむき出しの通路でまっすぐ進んでも肩や腰に突き出た岩がぶつかって来る。 メイちゃんはあたしよりも一回り以上大きいから、更に進みにくそうだ。


どれくらい進んだろう……


通路の幅が若干狭くなって、身体を横にしないと進めなくなってきた。

メイちゃんは身体のあちこちを擦って進まなければいけなくて、あたしはと言えばメイちゃんよりは体が小さいから何とかなるけど、胸がつっかえて進みにくくなる局面が何度かあった。 マズいかな、下着まで破れそうだ。


引き返した方がいいのかも知れなかったけど、通路を進むごとに闇の瘴気が濃くなって来たので、この先に何かがあるのは確実と言えた。

とりあえず先に何かがあるのは確実なので、行ける所までは言ってみよう……と言おうとした時、どうやら広い場所に出たよみたいで、横向きだったメイちゃんが不意に姿勢を戻して先に進み……そして立ち止まった。


「なに? 何があったの?」


あたしもメイちゃんに続いて……やっぱり足が止まった。 そこにあった思いがけないモノを見て、思わず立ちすくんだのだった。



「……街?」



あたしたちの目の前には、街の様な大きな通りが広がっていた。


幅の広い通路がずっと広がっていて、両側の壁面はお店みたいな造りになっていて、それがずっと続いている。 地上(うえ)のアドベルグの街の大通りをそのまま地下に持ち込んだみたいな感じを受けたけど、建物の造りや規模はアドベルグのそれよりも立派だった。


でも、通路もお店も全部真っ暗で、瓦礫やゴミの散らばった通りには人っ子どころかネズミ一匹すらも居ない……

ただ、暗い通路により濃い闇の瘴気だけが漂っていて、街と言うよりは廃墟と言った方が正しかった。


「なに? ここ?」


あたしは思わず通りの真ん中に出る。 メイちゃんが慌ててあたしの後に付いて来たけど、人やモンスターどころか、ネズミすら出てこない。 建物の入り口に並ぶ看板を見たけど、読める文字は一つも無かった。


……まぁ、もっとも共通語(コモン)の読み書きも出来ませんけどね。


呆然とするあたし達に、セバスチャンが冷静に説明してくれた。


「看板に書いてある文字や建物の文字から推測致しますに、ここは超帝国時代(インペリアルエイジ)末期に造られた地下街の跡と思われます」


「チカガイ?」


「はい。 超帝国時代末期には大陸の環境が極度に悪化した為、こうして地下に街を造って住んでいた様ですな。 結局その後、人間が言うところの暗黒時代(ダークネスエイジ)を生き延びる事が出来ずに超帝国は崩壊して、この様に文明の大半も失われました。 恐らくはメイちゃん様が生きておられた頃よりも更に二百年ほど遡るあたりの時代に造られ、その後放棄された者と思われます」


あたし達は、セバスチャンの説明を聞きながら通りを歩いたり建物を覗き込んだりした。 どの店も暴動でもあったみたいに荒らされていて、滅びた街って事だったけど死体の一つも無い。

あたしは、道に落ちていたクマをかたどったオモチャを手にとってセバスチャンに質問した。


「で、その大昔の地下街がなんでこんな所にあるワケ?」


セバスチャンは少し考え込むように沈黙して、返答した。


「理屈で言いますと、自動迷宮造成機(ダンジョンツクーラー)が全方位に無秩序に迷宮を拡大していたなら、いずれはこの様な地下街や、別のダンジョン、更には天然の洞窟や鉱山等に繋がってしまう事は十分に有り得ます。 おそらくは、そうして自動迷宮造成機が偶然に掘り当ててしまった空間であると思われます」


「なるほど」


あたしとメイちゃんは、キョロキョロしながら更に地下街を探索した。 メイちゃんも、自分が生まれるより前にあった街が珍しいみたいで、あたし達はモンスターが居ない事もあって、思いっきりこの街の探索を楽しむ事にした。


“壊れたアイテムでも査定いたします。 一個からでもお持ち下さい”


“ブラックでもご御融資します。 お気軽にご連絡下さい”


“一時間10G、各種サービスと延長は別料金。 本物の妖精族(エルフ)がお相手致します”


読めない看板や張り紙はセバスチャンに読んでもらったけど、さっぱり意味が解らない……昔の人がどんな暮らしをしていたのか想像もつかない。 ホントに同じ人間なのかな……


そろそろ迷宮に戻ろうかな…… そう思った時、セバスチャンが近くの大きな店の看板を読み上げた。



“防具専門店 高級実用品からコスプレ用まで各種取り揃え”



え!? 防具!!?


最後の言葉の意味は解らなかったけど、確かに店の入り口には鎧と盾が飾ってある。

なんと言う幸運! やっぱり寄り道はするもんだ、これで痴女ライフともおさらばだ!!


あたしはメイちゃんの手を引いてダッシュで店に飛び込んだ。

そうかぁ……ESCで文章消えちゃうのかぁ……


“文章はこまめに保存してください”


はい、わかりました


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